睡眠の重要性が注目されるようになりましたが、夜勤のあるシフトワーカー(交替勤務者)のケアは意外と見落とされがちです。
不規則な勤務により、体調不良やメンタルの不調が蓄積し、離職やパフォーマンス低下につながるケースも少なくありません。
特に人材確保が難しい今、シフトワーカーの健康管理は見逃せないテーマです。
そこで本記事では、産業医科大学の丸山崇教授に、シフトワーカーの健康リスクについて教えていただきました。
シフトワーカーの方はもちろん、管理職として従業員の健康や勤怠管理にお悩みの方は、ぜひ最後までチェックしてみてください。
この記事でわかること
- シフトワーカーが陥りがちな健康リスク
- シフトワーカーにありがちなメンタル不調
- 健康リスクへの企業側の支援と対応のポイント
- シフトワーカーの適応力を見極める視点
- 睡眠の専門家を招く意義とセルフケアの重要性
シフトワーカーが陥りがちな健康リスク
シフトワークは、不規則な生活によって睡眠が乱れやすくなり、心身の不調につながることがあります。
これが続くと、仕事のパフォーマンスが下がり、離職のリスクも高まります。
こうした影響を早めに察知するには、日々の小さな変化に気づくことが大切です。
たとえば、表情が暗い、食欲がない、休憩中にぐったりしている――従業員のそうした様子は、見逃してはいけない“サイン”かもしれません。
だからこそ、睡眠に配慮したシフト設計が、今あらためて重要視されているのです。
短期的にはシフトに適応できないリスク、長期的には重大な疾患リスクがある
シフト勤務による健康への影響は、「短期的な影響」と「長期的な影響」に分けて考える必要があります。
まず、長期的な影響としては、生活習慣病や肥満、虚血性心疾患、乳がんや前立腺がんなどのリスクが高まることが知られています。
また、交替制勤務を10年続けた場合、虚血性心疾患のリスクが約2.3倍にまで増えるというデータもあります。
一方、短期的な影響としては、勤務を始めてから最初の3か月〜半年の間に不調を感じやすい傾向があります。
睡眠の質が下がったり、疲労感が抜けなかったりと、身体がシフトに適応するまでには時間がかかるのです。この時期に、自分はシフトワークに向いていないと感じ、離職を選ぶ人も少なくありません。
こうした影響は誰にでも起こり得るため、企業としては従業員の状態に早く気づき、無理のない働き方を支える姿勢が大切です。
参考:交替制勤務者の健康管理

眠れない、眠ったのに疲れが取れないなどの睡眠トラブル
人間の身体は本来、昼に活動し、夜に眠るようにできています。
そのため、昼間に眠ろうとしても、脳や身体は覚醒モードのままで、寝つきにくくなり、十分な睡眠時間を確保しにくいのです。
さらに、日中は太陽の光や周囲の生活音など、眠りを妨げる刺激が多い環境。
このような理由から、夜勤明けにとる昼間の睡眠は浅くなりやすく、特に深い睡眠(ノンレム睡眠)が減少することがわかっています。
お腹が痛い、便秘や下痢などの胃腸トラブル
シフトワーカーに多く見られる不調のひとつが、消化器のトラブルです。
とくに、胃炎や胃潰瘍、下痢、便秘、胸やけなど、胃腸の不調を訴える方が多いというデータもあります。
その主な原因と考えられているのが、深夜の食事です。本来、夜間は胃腸を休める時間ですが、勤務の都合で深夜に食事をとることが多くなると、消化吸収がうまくいかず、胃腸に大きな負担がかかってしまいます。
このような生活が続くことで、少しずつ不調があらわれ、やがて全身の体調にも影響を及ぼすことも考えられます。

シフトワーカーはメンタル不調にもなりやすい
シフト勤務にうまく適応できず、メンタルが落ち込み悩む方も少なくありません。
実際に、シフトワーカーは神経過敏や慢性疲労、不安、イライラ、気分の落ち込みといった精神的な不調を訴えやすいことが、数多くの調査でも明らかになっています。
メンタルの不調は、単なる「心の弱さ」ととらえず、環境や働き方とのミスマッチの可能性も含めて周囲が丁寧に向き合うことが大切です。
気軽に相談できる雰囲気や、安心して休める制度づくりも大きな支えになります。
ストレス要因を把握し、勤務を調整する
シフトワーカーがメンタルの落ち込みを感じたとき、まずは「何が一番のストレス要因なのか」を見極めることが大切です。
シフトワークの働き方が原因の場合もありますが、職場での人間関係、仕事内容の向き不向き、仕事量の多さなど、原因はさまざま。
原因が明らかになったら、それに応じて業務内容を調整するか、配置転換を検討してみましょう。
ストレスの要因を排除することで、シフトワークに適応できるようになり、仕事を快適に続けられるようになります。

ストレス要因が見当たらない場合、不規則な生活が原因かも
人間関係や仕事内容に問題がないのに、気持ちが沈んでしまう――。
そんなときは、シフト勤務そのものがメンタル不調の原因になっている可能性があります。
不規則な生活や慢性的な睡眠不足が続くと、ストレス耐性も弱まり、心の不調につながってしまうことがあるのです。
このようなケースでは、いったん日勤のみの勤務に切り替えて様子を見てみると、メンタルの状態が改善する場合があります。
本人の変化に丁寧に気づき、必要に応じてシフト勤務から外す判断をすることも、従業員の健康を守る大切な選択肢のひとつです。
シフトワーカーの健康を守るために
夜勤や交替勤務の現場では、従業員の体調や睡眠の乱れに早く気づき、対策を講じることが重要です。企業として取り組める支援策を整理し、健康的な職場づくりを進めていきましょう。
睡眠の知識が豊富な産業医の選任を検討してみよう
夜勤を伴うシフト勤務に従事する従業員の健康を守るために、睡眠や生体リズムの知識が豊富な産業医を選任することを検討してみましょう。
産業医は、健康診断の実施や職場環境の改善提案、従業員の健康相談などを担う専門家です。
睡眠に詳しい産業医であれば、夜勤や交替制勤務によって起こりやすい睡眠障害や体調不良への適切な助言ができます。
加えて、睡眠不足が引き起こす健康リスクを早期に察知し、トラブルの予防や早期対応にもつながります。

正しく睡眠について学ぶ社内セミナーを開催しよう
睡眠情報はネットでも溢れている時代ですが、自社の勤務課題に応じて適切な知識を総括して共有することでセルフケアを適正化しやすくなります。
そこで、睡眠の専門家を社内に招いて、シフトワーカー向けに睡眠セミナーを開催するのもおすすめです。オンラインで全国の事業所を繋いで、効率的にセミナーを開催できるようになりました。
このように、睡眠について正しく理解することで、従業員一人ひとりの健康意識が高まり、職場全体の健康文化も自然と育ちやすくなります。
実際に、健康経営の一環として睡眠セミナーを実施している企業も多く、従業員の健康改善や企業全体の生産性向上につながった例もあります。
シフトワーカーの健康管理と生産性向上に向けて、職場全体で睡眠への理解を深める機会を設けてみてください。
<ご紹介>
丸山先生はこれまで、企業の健康経営支援を目的とした多数のセミナーに登壇した実績を持ち、シフトワーカーの健康や睡眠衛生指導をテーマに実践的な指導を行っています。
- 2015年頃:医療機関のスタッフ向けに「医療従事者の睡眠と健康維持」について講演
- 2018年頃:教育機関の教職員を対象に「教職員の睡眠管理とストレス対策」に関するセミナーを実施
- 2020年頃:金融業界の社員向けに「メンタルヘルスと睡眠の関係性」に関する講演を行う
- 2023年頃:製造業の若手社員を対象に「若年層の睡眠習慣と生産性向上」についてセミナーを開催
丸山先生へのご依頼の他、睡眠養生を運営する310LIFEでも、女性の健康などと睡眠研修を行っております。詳細は以下のリンクをご参照ください。
▶ 310LIFE 睡眠セミナー
丸山先生へのご依頼も、上記お問い合わせフォーマットから「丸山崇先生の睡眠研修 希望」とお問い合わせください。
頑張ってもシフトワークが合わない従業員には、勤務形態の見直し提案も視野に。
シフトワークを始めた最初の数か月は、強い眠気を感じたり、疲労感が抜けなかったりと、心身の不調があらわれやすくなります。
その後、徐々にシフト勤務に適応し、疲労感などは軽減してくると言われていますが、強い眠気や疲労感を感じる状態が6か月以上続いている場合は、シフト勤務が合っていない可能性も考えられます。
「仕事中に集中力が続かない」「いつも眠そうにしている」といった様子が見られるときには、上司や人事担当者がそのサインを見逃さないことが大切です。
シフトワークは、誰もが「慣れればできる」ものではありません。「自分もできたから」「他の人も頑張っているから」と考えがちですが、体質的に適応が難しい方もいます。
だからこそ、管理者には適応に個人差があることを前提とした、柔軟なサポートの姿勢が求められます。
ときには、配置転換や勤務形態の見直しを検討することも必要です。それが従業員の健康を守り、結果的に職場全体の安定や生産性向上にもつながります。
特に人材確保が難しい今の時代、一人ひとりの「シフト適性」を丁寧に見極め、離職を防ぐ取り組みがますます重要になっています。

シフトワーカー本人は、相談にも睡眠記録を上手に使ってみよう!
数ヶ月働いて、自分がシフトワークに合わないと感じる場合、自身の生活リズムを睡眠日誌とともに記録してみましょう。
睡眠時間など、休息し回復するための時間は確保できているのか、どのような勤務体制が自分には合わないのか等、睡眠のリズムと勤務リズムのバランスが自分でも改めて把握できます。
企業から見て、勤務終了後の活動は会社にとっては、全くわからない個人の時間です。
例えば、「プライベートの活動が忙しく、夜勤明けも活動している日が多くなっている」、「最近ストレスを感じアルコールの量が増え、夜間何度も目が覚めている」などの自分の生活実態が見えてきます。
夜勤明けの活動(食事や外出)、睡眠時間を管理した記録などを通し、体調管理の状況を明確に実態整理して上司や人事、産業医と相談してみましょう。

特に睡眠時間の日誌があることは、産業医や保健師面談での、より具体的な睡眠改善アドバイスの情報となります。
記録を通して自分の体調改善に活かしていけるツールにもなります。
たとえば、「何時間前までアルコールを飲んでると途中で目覚めてるな」「この時間の勤務後にご飯をガッツリ食べると、なかなか眠れないな」、といったように、ご自身の記録内容から見えてくることがあるかもしれません。

睡眠対策は企業の利益を支える“投資”
近年、経済産業省が推進する健康経営の取り組みを通じて、従業員の「睡眠」が企業業績と密接に関わっていることが明らかになってきました。
健康経営の活動は日本国内で約15年の実績があり、数多くの分析結果が報告されています。
なかでも、欠勤・休職・離職といったリスク(アブセンティーイズム)や、日中のパフォーマンス低下のリスク(プレゼンティーイズム)など企業の業績指標との関連性において、従業員の睡眠状態が重要な因子として注目されています。
こうした背景を受け、厚生労働省も2023年に「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」をアップデート。働く人の“個人時間”における睡眠習慣の改善が、健康経営の実効性を高めるために重要ということが広く認知され始めました。
この睡眠ガイドの中でも、「就業形態(交替制勤務)と睡眠の課題について」という項目で、シフト勤務の方の睡眠に関する指針が示されています。
良質な睡眠が得られれば、体調不良や突発的な休暇、メンタル不調のリスクが減少し、日中の眠気が改善されることでパフォーマンスの高い従業員が増えていきます。
また、ヒューマンエラーが減り、ミスや事故などの安全リスクも軽減出来ます。
企業の成長を支えるのは、日々の業務を担う従業員一人ひとりの健康状態です。そのコンディションを維持・向上させるために必要なのが「十分な睡眠対策」なのです。
まとめ:睡眠への配慮が、人も組織も動かす力になる
シフト勤務に伴う健康リスクは、本人の努力だけでは解決が難しく、雇用側の理解と支援が不可欠です。
早期の“サイン”を見逃さず、配置転換や休息環境の整備、産業医との連携を通じて、一人ひとりに合った働き方を支えることが、離職防止と生産性向上につながります。
画一的な制度だけでは対応しきれない今、柔軟な視点と実行力が企業の未来を左右します。
従業員の健康と睡眠に目を向けることは、組織全体の成長を支える「本質的な投資」です。健康経営の視点で、今こそシフト設計を見直してみましょう。
この記事でわかったこと
- シフト勤務は、睡眠・消化器・メンタル不調など多面的なリスクを抱える
- 睡眠障害の背景には、生体リズムと睡眠環境の2つの要因がある
- 深夜の食事や不規則な生活が、胃腸の不調を引き起こしやすくなる
- シフト不適応の見極めには、早期の“サイン”を逃さない観察力が重要
- 根本的な対策には、産業医との連携と環境整備が不可欠である
監修:丸山 崇
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)








