「理想の睡眠時間は7~8時間」とよく聞きますよね。でも実際には、そんなに眠る時間を取れなくて、ぐっすり眠った感覚も持てず、自分の睡眠に不安になっていませんか。
たくさん眠ったのに疲れが残ったり、逆に短く眠っても意外と元気に過ごせたり……。睡眠時間と体調の関係は、個人によっても、年代によっても、さらには日によっても違うものです。
今回は、早稲田大学教授で精神科医の西多昌規先生に「年齢やライフステージごとに必要な睡眠時間」について伺いました。
自身に合った目安を知ることで、安心して眠れるヒントになるはずですのでぜひ最後まで読んでみてください。
この記事でわかること
- 年齢やライフステージによって変わる推奨睡眠時間は?
- 成長期に眠れないことが将来にどんな影響を与えるか
- 睡眠の量と質の関係。質だけで量は補えない理由
- 睡眠データと自分の感覚のズレに隠れる心の不調
推奨睡眠時間は年齢層ごとに異なり、一概に「8時間」とは言えない
「理想の睡眠時間は7~8時間」とよく言われますが、実際には年齢やライフステージによって必要な睡眠時間は変わります。
例えば、受験生であれば脳を休ませて学習の効率を高めることが大切ですし、アスリートなら筋肉や体力の回復が優先されます。歳を重ねて中高年にもなると、不眠や生活習慣病、認知機能の低下などのリスクを意識する方も増えてきます。
そのため「誰もが同じだけ長く眠ればよい」という考え方は正しくなく、自分の年齢・体調や生活の状況に応じた睡眠時間を見極めることが重要です。
そこで、世代に分けて具体的に解説します。

成長期に必要な子供の睡眠:将来の健康を守る大切な投資
思春期は、体も脳もぐんと成長する大切な時期です。
深いノンレム睡眠のときに分泌される成長ホルモンは、身長や筋肉の発達はもちろん、脳の成熟にも欠かせません。
さらに、思春期の睡眠中には黄体形成ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)といった性ホルモンも分泌が高まります。女性では月経の開始や妊娠に向けた準備、男性では精子の形成など、性的な成長を促します。
ところが、塾や部活動、スマホやPCなどで夜更かしが続き、寝不足を抱える子たちは多いです。成長期に睡眠が不足すると、これらのホルモン分泌が乱れてしまいます。
女性では生理が不安定になったり、骨が弱くなったりするリスク、男性では精子形成や体格の発達に影響を及ぼす可能性があります。
この時期にしっかり眠れていないと、あとからどれだけ眠っても取り戻すことはできません。
勉強やスポーツは努力次第で後から挽回できますが、思春期の心身の成長は「今この時」にしか得られない一度きりのチャンス。だからこそ、夜はしっかり眠る習慣をつけることが、未来の健康と成長を守る大切な投資になるのです。
若い世代の睡眠:自然と夜型になりやすい
10代後半から20代にかけては、体内時計の影響でどうしても夜型に傾きやすい時期です。
夜遅くまで頭が冴えてしまい、逆に朝はなかなか目が覚めない……そんな経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。
この年代は体内時計が夜型に傾きやすく「夜更かしができる世代」である一方で、社会のリズムは朝型に合わせて動いているため、どうしても平日の睡眠不足に陥りやすくなります。
その結果、休日になると寝不足を取り返そうとし、いわゆる「社会的時差ボケ」に陥りがちです。
社会的時差ボケとは、体内時計が示す時間と、学校や仕事など社会的に求められる活動時間がずれてしまう状態のこと。
夜型の生活が続いて朝なかなか起きられなかったり、無理に早起きしても午前中に強い眠気や集中力の低下が続くのが典型的な症状です。
こうした状況が慢性化すると、朝起きられずに遅刻や欠席が増えたり、立ちくらみや強い疲労感が続くようになります。また、起立性調節障害や慢性疲労症候群として診断されるケースもあります。
若い世代が快適な生活リズムを送るために、最も理想的な方法は、学校や会社の始業時間を遅らせること。
しかし、現実的には難しいため、平日の睡眠不足をなるべく作らないことが大切です。「1時間長く眠ろう」と決めても達成しにくいので、「遅くとも23時までには寝よう」など現実的に達成できそうな基準を決めてみましょう。
生産世代は量を確保する睡眠
働き盛りの30〜40代にとって、まずは十分な睡眠時間を確保することが大切です。
仕事や家事に追われて睡眠を削りがちですが、慢性的な睡眠不足は心身のパフォーマンスを下げ、生活習慣病やメンタルの不調のリスクを高めてしまいます。
厚生労働省が策定した「健康づくりのための睡眠指針2023」でも、成人の睡眠は6時間以上が推奨されています。これは、睡眠時間が短いほど高血圧や糖尿病、うつ病などの生活習慣病やメンタルヘルスの問題のリスクが高まるという研究に基づいています。
しかし、実際は睡眠時間は年々短くなる傾向にあり、特に日中の活動量が多いこの世代は、意識して睡眠時間を確保する必要があります。

50代からは睡眠障害に注意:治療し、不安は抱きすぎない
一方で、50代以降になると加齢に伴って睡眠の質やリズムが変化してきます。深い睡眠が減り、夜中に何度も目が覚めたり、朝早くに目が覚めたりしてしまうといった特徴がみられるようになります。
こうした変化は、ある程度は加齢に伴う自然なものですが、その陰に不眠症や睡眠時無呼吸症候群など、加齢とともに増えてくる睡眠障害が隠れている場合も少なくありません。
単なる「年齢のせい」と軽視せず、治療によって改善できる症状は医療機関でしっかり診断・治療を受けることが大切です。
60代以降は横になっている時間が長い方がリスクの場合も
「たくさん眠るほど健康に良い」と思われがちですが、年齢を重ねると事情は少し変わってきます。特に60代以降では、そもそも若いころのように長時間眠ることは難しくなります。
さらに、この年代では「長く寝床にとどまる(臥床時間が長い)」ことで活動時間が減ると、かえって病気や認知症のリスクにつながる可能性もあるため、注意が必要です。
つまり、中高年層にとって大切なのは「長時間眠ろう」と無理をするのではなく、適度な睡眠と日中の活動のバランスを取ること。
長く眠ろうと長時間ベッドで横になるよりも、朝はしっかり起きて体を動かし、夜に自然な眠気を得られるリズムを意識することが、心身の健康を守ることにつながります。

スポーツ選手は8.5~9.5時間睡眠が推奨されている
国際オリンピック委員会(IOC)などがまとめた調査では、アスリートに必要とされる睡眠時間はおおよそ8.5~9.5時間とされています。
トップレベルの選手の中には、さらに長く眠ってコンディションを整えている人も少なくありません。
一方で、推奨される睡眠時間を十分に確保できていない選手が半数以上にのぼるという調査結果があります。これは日本だけでなく、世界的に共通している課題です。試合や遠征、日々のトレーニングに追われる中で、どうしても睡眠が後回しになりがちな現状があるのです。
人によっては「質のよい睡眠を取れば、短時間でも回復できるのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、研究ベースでは「睡眠は長く取った方がよい」というデータが多く、深い睡眠(ノンレム睡眠)の割合を大きく増やすことには限界があります。
つまり、睡眠の質をいくら高めても、根本的に不足している睡眠時間を完全に埋め合わせることは難しいのです。
スポーツや勉強で結果を出すためには、当然ながら練習や学習時間も欠かせません。ただし、その前提にあるのは「十分な睡眠」です。眠らずに練習や勉強ばかりしていては、かえってパフォーマンスを落とす原因になってしまいます。
限られた24時間の中で、どのように効率よく眠り、練習や勉強に取り組むか。そのバランスを意識することが、成果につながる大切なポイントといえるでしょう。

「睡眠の量」を「睡眠の質」でカバーすることはできない
忙しい毎日を過ごしていると、「睡眠の質を高めて、深い眠りを増やせば、短い睡眠時間でも大丈夫なのでは?」と考えてしまうこともありますよね。
しかし残念ながら、実際には睡眠の「質」で睡眠時間の「量」を補うことはできません。
深いノンレム睡眠は体と脳の回復に欠かせない重要な時間ですが、簡単に増やせるものではなく、ある程度で頭打ちになってしまう場合もあります。
さらに、深い睡眠が多ければ「よく眠れた」と感じるわけでもありません。計測上は深い睡眠がしっかり出ていても、本人は疲れが取れず「睡眠の質が悪い」と感じることもあれば、その逆もあるのです。
つまり、睡眠の量と質はどちらも欠かせない要素であり、一方を犠牲にしてもう一方でカバーすることはできないのです。まずは十分な睡眠時間を確保し、そのうえで環境や生活リズムを整えて質を高めることが、心身を回復させ、日中のパフォーマンスを支えるために大切です。

睡眠の「主観」と「客観」のズレ。メンタルの変化に要注意
近年では、スマートウォッチやスマホアプリで睡眠を記録する方が増えています。
毎日の睡眠を可視化できるのは便利ですが、実際に表示される内容と自分の感覚が一致しないことも少なくありません。「思ったより眠れていなかった」「寝不足だと思ったのに、意外と眠れていた」と感じることはありませんか?
大前提として、こうしたデバイスの精度はまだそれほど高くないため、数値はあくまで参考程度にとどめるのが賢明です。ただし、感覚とのズレが頻繁に起こる場合には、ストレスや不安など心の状態が影響していることもあります。
睡眠の主観と客観の不一致に潜む、メンタルの不調
睡眠の実感とデータが食い違うときは、心の不調が隠れていることがあります。
心の状態が不安定なときほど、この主観と客観のギャップは大きくなりがちです。
もし、眠気に伴う不安や抑うつ傾向を感じるなら、まずは生活習慣を整えてみましょう。休日だけ極端に寝だめをしない、就寝前にゲームやスマホなど強い刺激を避けるといった工夫がリズムの安定につながります。

日中の不調が2週間程度続くなら病院へ
睡眠やメンタルの状態に問題が生じ、日中の生活に支障が出る状態なら、早めに医療機関を受診しましょう。
具体的には、遅刻や欠勤が増えてきたり、出勤はできていても業務に集中できず「会社にはいるのに機能していない」状態(プレゼンティーズム)が続いたりする場合です。こうしたときには、すでに治療が必要な段階に入っている可能性が高いと考えられます。
自分では不調に気づきにくく、我慢してしまう人も少なくありません。しかし本来は、日中の不調が2週間続いた時点で、専門家に相談するのが望ましいタイミングです。
また、都市部ならすぐ診てもらえるクリニックもありますが、地域によっては予約が取りづらいこともあります。
「本当にツラいときにすぐに受診できない」状況を避けるためにも、調子が落ちてきたら早めに行動していくことが大切です。
まとめ:今の自分に合った睡眠を知り、早めの対応を意識しよう
睡眠時間は「7~8時間が理想」と一律に決められるものではなく、成長段階や生活環境に応じて必要量は異なります。
子どもや若者には成長と学習を支える長時間の睡眠が必要であり、社会人世代は不足しがちな睡眠をどう確保するかが課題です。一方、高齢期では過度に眠ろうとするよりも、適度な睡眠と日中の活動を両立することが健康につながります。
また、スマートウォッチやアプリなどのデータと自分の感覚にズレを感じるときには、心身の不調が隠れている場合もあります。日中の不調が続くようであれば「そのうち良くなる」と先延ばしにせず、早めに専門家に相談することが大切です。
自分に合った睡眠を見極め、未来の健康を守りましょう。
この記事でわかったこと
- 睡眠は一律「8時間」ではなく、年齢や状況ごとに異なる
- 成長期の睡眠不足は心身の発達に影響し、取り返せない
- 質のよい睡眠でも不足した睡眠時間を補うことはできない
- 睡眠感覚とデータの不一致はメンタルの不調サインのこともある
関連書籍
睡眠の身体のメカニズムについて、もっと詳しく知りたくなりましたか?
本記事を監修している西多昌規先生の著書「眠っている間に体の中で何が起こっているのか」もチェックしてみてくださいね。
▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:眠っている間に体の中で何が起こっているのか
著者名:西多 昌規
出版社:草思社
形態:単行本
発売日:2024年02月07日
監修:西多 昌規(にしだ まさき)
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)









