睡眠を改善したいと思ったら、みなさんは何から始めますか?
きっと、多くの方が枕やマットレスをいいものに変えようと考えるのではないでしょうか。また、入浴や夜のスマホを控えるなど、夜の過ごし方に注目する方も多いかもしれません。
しかし、睡眠を根本的に改善するためには、食生活を改善することがとても大切なんです。
近年、食事のタイミングや内容が健康に影響を与えるという「時間栄養学」が注目されています。時間栄養学では、体内時計に合わせて食事のタイミングを整えることで、睡眠改善にも役立つことがわかっているのです。
そこで今回は、広島大学特命教授・早稲田大学名誉教授の柴田重信教授に、時間栄養学を活用した睡眠改善について教えていただきました。朝食から夕食まで、どのような食事を心がけると良い睡眠に導けるのか、具体的な食材や食べ方について見ていきましょう。
この記事でわかること
- どうして食事が睡眠に影響するのか?
- 睡眠改善に効果的な朝食の摂り方
- 睡眠改善に効果的な昼食の摂り方
- 睡眠改善に効果的な夕食の摂り方
- 睡眠によいとされる、注目の栄養素
食べるものが体内時計に影響する「時間栄養学」とは?
食事の時間や内容が、私たちの体内時計に大きな影響を与えることをご存じでしょうか。
時間栄養学は、食行動や食品成分が体内時計にどのように作用するか、また体内時計が栄養の働く時刻をどのように規定しているかを研究する学問です。
たとえば、同じ食事でも朝と夜に摂ると、血糖値やインスリンの分泌具合が異なることが明らかになっています。朝食後はインスリンが効率的に働き、血糖値が速やかに正常に戻りますが、夕食後はインスリンの効きが悪く、高血糖状態が続きやすいのです。この高血糖が脂肪として蓄積されるため、夜間の食事は肥満の原因になります。
また、低糖質の食事を心掛けていても、食べる時刻が夜遅いと高血糖や高インスリン状態が見られるという研究もあります。これは、食事の内容よりも、食べる「時間帯」のほうが血糖コントロールに影響を与える可能性を示しているのです。
時間栄養学の視点から、食事のタイミングや内容を意識することで、体内時計を調整し、健康や睡眠の改善につながると考えられます。そのため、日々の生活に時間栄養学の知識を取り入れることが、質の良い眠りと健康な生活への第一歩です。
参考:
Delayed dinnertime impairs glucose tolerance in healthy young adults
【朝食】朝のタンパク質と食物繊維が睡眠改善につながる
一般的に、睡眠のためには夜に特別な食事を意識するべきだと考えがちですが、実は朝食が重要です。
朝食の内容は、睡眠の質に大きな影響を与えることがわかっています。朝にしっかりと栄養バランスの良い食事を摂ることは、体内時計を整え、よりよい睡眠習慣をサポートする鍵となるかもしれません。

朝食にタンパク質を食べると、夜にぐっすり眠りやすい
朝食にタンパク質を摂ることが、夜の良質な睡眠につながると考えられます。
そのカギとなるのが「トリプトファン」というアミノ酸です。トリプトファンは体内で「セロトニン」に変わり、さらに夜になると睡眠ホルモンである「メラトニン」に変化します。このメラトニンが夜に分泌されると、眠気を誘い、自然な入眠をサポートするのです。
▼トリプトファンを多く含む食品
- 豆腐や納豆といった大豆製品
- 牛乳やヨーグルトなどの乳製品
- 卵
- 肉類や魚介類(カツオ節、煮干し) など
朝にトリプトファンを多く含む食品を摂り、日中に明るい光を浴びることで、夜間のメラトニン分泌が促されることが研究で示されています。朝食でタンパク質が豊富な食事を心がけ、夜にはぐっすりと眠るためのリズムを整えましょう。
朝食の食物繊維は体内時計のリセットに効果的
朝食に食物繊維を摂ることで、体内時計に役立つことがわかっています。
特に水溶性食物繊維は腸まで届き、腸内細菌によって発酵・分解されると「短鎖脂肪酸」という物質が生成されます。この短鎖脂肪酸には、酢酸、酪酸、プロピオン酸などがあり、体内の時間調整に重要な役割を果たしています。
特に酪酸やプロピオン酸は、GLP-1と呼ばれるホルモンの分泌を促し、インスリンの分泌をサポートすることで、肝臓や腸にある体内時計を整える作用があるとされています。これにより、朝に食物繊維を摂取することで、日中の活動的な身体をサポートしてくれるのです。
さらに、難消化性の食物繊維を含む食品についても研究が進められており、これらを摂取すると体内時計に関連する遺伝子の発現に一時的な変化が見られ、体内時計の調整に役立つ可能性が示唆されています。
朝食で食物繊維を多く含む食品を摂ることは、健康的な1日のスタートに欠かせないといえるでしょう。
参考:
Dietary fiber and prebiotics and the gastrointestinal microbiota
Glucagon-like peptide-1: The missing link in the metabolic clock?
朝食で魚を食べるとぐっすり眠れて目覚めすっきり
朝食に魚を取り入れることで、夜の質の良い睡眠や朝のすっきりした目覚めが期待できます。
魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は、体内時計の調整に役立つとされています。特に朝にこれらの成分を摂ると、生活リズムが朝型になりやすくなり、規則的な睡眠サイクルを保ちやすくなるでしょう。
また、魚に含まれるヒスチジンというアミノ酸も朝の目覚めをサポートします。ヒスチジンは脳内でヒスタミンという物質に変わり、覚醒を促します。この作用により、朝食で青魚などを摂ると、目覚めがより良くなり、日中の活動がスムーズになるのです。
さらに、炭水化物と一緒に魚を摂ることで、インスリンの分泌を促進し、体内時計の調整効果が高まることがわかっています。そのため、朝食にはご飯やパンなどの炭水化物と魚を組み合わせるのが理想的です。
忙しい朝はグラノーラスナックやシリアルなどを取り入れるのも悪くない
朝食にグラノーラスナックやシリアルを加えることで、早起きしやすくなり、生活リズムが整いやすくなる可能性があります。

ある研究では、朝食が軽めの小学生に、普段の食事にグラノーラスナックを追加してもらいました。その結果、栄養バランスが向上し、早起きがしやすくなったり、規則的な排便が促進されたりするなど、生活習慣が整う効果が見られたのです。
特に、鉄分や食物繊維、ビタミンB1、ビタミンDといった重要な栄養素が補われたことで、朝の起床が早まったと考えられます。さらに、排便回数も週に1回ほど増加するなど、腸内環境の改善も確認されました。
忙しい朝、手軽に食べられるグラノーラスナックやシリアルは、簡単に栄養を補える食品です。ただし、やはり魚や大豆などが補える和食の方がバランスよく栄養素をとれるため、毎日グラノーラスナックやシリアルを食べるのは避けたほうがいいかもしれません。
【昼食】昼食も魚や野菜をしっかり食べるのがおすすめ
ランチと睡眠はあまり関係がないように感じますが、時間栄養学の視点から考えると、睡眠改善のために工夫する余地があります。なんとなく、麺類や丼ものなどのこってりしたボリュームランチを食べている方は、今日から少しだけヘルシーなメニューに変えてみましょう。
昼食をしっかり食べることが睡眠の質の向上につながる
忙しくて昼食を軽く済ませたり、抜いてしまったりすることはありませんか?
昼食を抜くと、夕食後の血糖値が急上昇しやすくなり、血糖値スパイクを引き起こす可能性が高まります。血糖値スパイクとは、血糖値が急上昇した後にインスリンの働きで急激に低下する現象です。これにより体に負担がかかり、膵臓にも過剰な負荷がかかるため、将来的に糖尿病リスクを高める要因となります。
また、昼食を遅めの午後3時以降にとると、その分夕食が遅くなりがちです。夜遅い時間の食事は、睡眠ホルモンであるメラトニンの影響でインスリンの分泌が抑制され、血糖値を十分に下げられません。このため、血糖が体内に残りやすく、脂肪として蓄積され、肥満の原因にもなります。
規則正しい時間にしっかりとした昼食をとることは、体内時計を整え、夕食後の血糖コントロールをスムーズにするためにも重要です。高血糖状態だと睡眠の質が悪化するため、昼食を適切に摂ることが睡眠改善や健康維持に役立つでしょう。
魚のDHA/EPAは昼食に食べるのも睡眠に好影響
DHAやEPAは、脳内でメラトニンの生成をサポートする働きがあるため、魚を食べると摂取すると睡眠の質が向上すると考えられています。
そこで、DHAやEPAをどの時間帯に摂取するのが効果的かを調べました。結果として、昼食に魚を食べた場合に、睡眠の質が向上する傾向が見られたのです。
第11回日本時間栄養学会学術大会、2024
魚を朝に摂取する場合、トリプトファンなどのアミノ酸が「メラトニン」に変わるまでに時間がかかるため、夜の睡眠に影響が出るまで時間がかかります。しかし、DHAやEPAは途中の過程を省略できるため、昼食に魚を食べることで、夜の睡眠をサポートしやすくなると考えられます。
ランチで何を食べるか迷ったら、魚をメインにしたメニューを選んでみましょう。

塩辛いものや脂っこいメニューは控え、野菜を食べよう
睡眠改善のためにも昼食では、塩辛いものや脂っこい料理を控えるのが賢明です。
味覚は体内時計により変化し、朝が最も敏感で昼から夜にかけて鈍くなっていきます。そのため、昼食や夕食になると塩分の多い食べ物を欲する傾向があり、つい濃い味付けの食事を選んでしまうことが多いのです。
しかし、塩分を過剰に摂取すると高血圧のリスクが高まります。高血圧によって睡眠が妨げられることもあるため、塩分量に気をつけることが大切です。特に日本人は塩分過多になりがちなので、意識して塩分を控えて高血圧を防ぎましょう。
さらに、高血圧を防ぐために、昼食でも野菜をしっかり食べることも重要です。血圧と昼食のカリウム摂取は負の相関が見られています。野菜に含まれるカリウムは、体内の余分なナトリウムを排出するのに役立ち、高血圧の予防や改善につながります。
Association Between Na, K, and Lipid Intake in Each Meal and Blood Pressure
外食時には、ラーメンや丼ものなど単品を選びがちですが、野菜が少ないこれらのメニューは塩分が高く、カリウムが十分に補えません。昼食には、野菜が添えられた定食や野菜たっぷりのスープを選ぶようにすると、バランスが取りやすくなります。
ただし、腎臓に疾患がある場合はカリウム摂取に注意が必要ですので、医師に相談してください。
【夕食】夕食は早めに済ませるか、分食を
夕食は体内の時間栄養学的な観点から、工夫が必要なタイミングです。
夜は血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなり、高血糖になりやすい時間帯です。さらに、夕食後に2~3時間程度の間を空けずに寝てしまうと、食事で得たエネルギーが消費されずに体に蓄積され、肥満の原因となります。
夕食を摂る際は、血糖値の急上昇を防ぐように工夫しましょう。たとえば、白米だけでなく玄米や雑穀を混ぜ、食物繊維や栄養素を一緒に摂ることで血糖値が急上昇しにくくなります。
また、高カロリーの食事を避けることも大切です。豚肉を使うなら、揚げ物のトンカツではなく、冷しゃぶサラダにすることで、カロリーを抑えつつ満足感が得られます。
ボリュームが欲しいときには、野菜をたっぷり使ったスープや豚汁などを取り入れましょう。汁物を加えることで栄養バランスが良くなり、夕食のカロリーを抑えられます。

ストレスが多くて眠れないときはGABAを補給
ストレスで眠りにくいと感じるときは、GABAの摂取が役立つかもしれません。
GABAは、脳内で神経の働きを鎮める伝達物質として知られ、抗不安や睡眠促進の作用があります。GABA受容体を刺激する薬が体内時計に関わる作用を持つことから、GABAも睡眠や体内リズムに良い影響を与える可能性が考えられるでしょう。
一方、食事で摂ったGABAは脳内に行かず交感神経の緊張を和らげ、リラックス効果によって間接的に眠りを促すことも考えられます。
▼GABAを含む食品
- トマト
- パプリカ
- バナナ
- ヨーグルト など
このほか、大豆製品に多く含まれるL-セリンもおすすめです。L-セリンはGABAの働きをサポートし、夜型の体内リズムを整える効果が期待されています。

夕食に納豆を食べると血糖値上昇を抑え、睡眠の質を上げる
納豆は朝食の定番ですが、実は夕食に食べるのがおすすめです。
納豆は良質なタンパク質が豊富で、腸内環境を整える難消化性のタンパク質も含まれており、腸内細菌の働きをサポートします。さらに、ご飯と一緒に食べることで血糖値の上昇も緩やかにするため、夜間の睡眠の質向上にもつながるのです。
また、納豆に含まれるビタミンKは骨の合成に役立ち、夜に摂ることでその効果が最大限に発揮されやすいと考えられています。血栓予防に役立つナットウキナーゼも、夜に納豆を食べること翌朝の血栓リスクを軽減できます。
このように、夕食に納豆を取り入れることで、骨の健康や血栓予防に加え、血糖値を安定させて快適な睡眠に導く効果が期待できるでしょう。ただし、納豆にはワーファリンという血液凝固を抑える薬の効果を弱める作用があるため、ワーファリンを服用中の方は納豆の摂取に注意が必要です。
夕食が遅い時間になるときは、17時頃に主食を食べておく
夕食の時間が遅くなる場合、17時頃に主食を先にとっておくことをおすすめします。
帰宅後は、サラダやスープなど軽めの食事をとってお腹を満たしましょう。食事を分けて摂ることで、夜の血糖値上昇を抑え、体内リズムへの負担を軽減できるためです。
時間栄養学の観点では、長時間の空腹後の食事が体内時計に強く影響を与え、特に肝臓の体内時計がリセットされやすいことが知られています。たとえば、16時間の絶食後の朝食が体内時計をリセットするように、夜遅くの食事も体内時計に影響を及ぼすのです。
マウスを使った研究では、夕食を遅らせると肝臓の体内時計が夜型にずれる傾向が見られました。しかし、夕食を分食して17時に主食、23時に軽めの主菜や副菜にすると夜型化が防げたと報告されています。
参考:
Circadian rhythms of liver physiology and disease: experimental and clinical evidence
快眠に欠かせない栄養素「マグネシウム」
マグネシウムは、睡眠をサポートする栄養素として注目されています。
調査研究やシステマティックレビューからも、マグネシウムが睡眠に良い影響を与えることが示されており、特に昼食や夕食で摂ることが効果的とされています。
参考:
The Role of Magnesium in Sleep Health: a Systematic Review of Available Literature
マグネシウムは睡眠ホルモン「メラトニン」の合成に欠かせない栄養素
マグネシウムは、睡眠ホルモン「メラトニン」の合成に関わる補酵素として重要な働きを持ちます。メラトニンの生成には補酵素として二価イオンが必要であり、マグネシウムがこれを支えるのです。
また、マグネシウムには筋肉の緊張を和らげるリラックス効果もあります。これにより、体の緊張がほぐれ、入眠しやすくなると考えられています。
時間栄養学の観点からは、マグネシウムを含む食品を昼食や夕食に摂取すると、夜の睡眠改善に役立つと考えられます。
ビタミンDなども睡眠には有用といわれていますが、睡眠との関連がより確かな栄養素としてマグネシウムを意識することは、睡眠の質向上に向けた実践的なアプローチといえるでしょう。
海産物や納豆など、マグネシウムを含むものを昼食・夕食に取り入れよう
マグネシウムは、海の恵みを多く含む成分で、さまざまな食材から手軽に摂取できます。
代表的な食品としては、海藻類の「のり」や「ひじき」があります。これらの海藻は、日本人の食卓にもなじみが深く、味噌汁やサラダなどに手軽に取り入れられるのが魅力です。
さらに、ナッツ類や大豆製品もマグネシウムが豊富に含まれます。特に「納豆」は、夕食で摂ると睡眠の質を高める効果も期待されるため、夜に食べるのがおすすめです。
こうした食材は日本人にとって身近で、日常的に取り入れやすいものばかりです。マグネシウムが豊富なこれらの食品を活用し、睡眠改善やリラックスに役立ててみてください。

まとめ:毎日の食事時間を意識して、質の良い眠りを手に入れよう
時間栄養学の視点を取り入れることで、食事のタイミングや内容が睡眠の質に大きく影響することがわかりました。
睡眠を改善するために、朝はタンパク質や食物繊維、昼にはDHA・EPAを含む魚を積極的に取り入れてみてください。夜には血糖値を安定させる食材を選ぶことで、体内時計が整いやすくなり、きっと良質な眠りにつながります!
また、ストレスが多いときにはGABAを含む食品でリラックスすると、自律神経が落ち着いて睡眠の質がよくなることもあります。食事と睡眠のリズムを意識し、体内時計に沿った健康的な生活を目指してみてください。
この記事でわかったこと
- 食事のタイミングや内容が体内時計に影響し、睡眠にもかかわる
- 朝食にはタンパク質と食物繊維をしっかり食べるのがおすすめ
- 昼食はこってりした塩分の高いものは控え、魚と野菜を食べる
- 夕食はGABAを含む食材や納豆がおすすめ、遅くなる時は分食で対応
- 睡眠改善のためには海藻や納豆などを食べてマグネシウムを摂るのが効果的
関連書籍
時間栄養学について、もっと詳しく知りくなりましたか?
本記事を監修している柴田重信先生の「食べる時間でこんなに変わる時間栄養学入門」をチェックしてみてくださいね。
▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門(ブルーバックス)
著者名:柴田重信
出版社:講談社
形態:文庫本 / kindle版/ 楽天kobo版
監修者
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)









