【医療関係者向け】若年性起床困難症!若年層 起床困難への治療ケーススタディを睡眠博士が解説

「朝起きられず、学校に行けない」――こうした訴えを抱えて医療機関を訪れる若年層は、決して少なくありません。

その背景には、起立性調節障害(OD)や睡眠相後退症候群(DSWPD)といった身体のリズム障害が隠れていることがあります。

しかし、血圧調整や生活指導だけでは十分に対応できない症例も多く、近年では睡眠医療の視点を取り入れた診療の重要性が高まっています。

本記事では、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)の神林崇教授に「若年性起床困難症」として、治療選択肢の広がりと実臨床で活かせる症例をもとに診療のヒントをまとめました。

この記事でわかること

  • 起立性調節障害(OD)と睡眠相後退症候群(DSWPD)の関係
  • 視床下部が両疾患の症状に関与している可能性
  • DSWPDが社会生活に及ぼす影響と治療の必要性
  • DSWPDへの治療選択肢と薬剤の具体的な使い方
  • 臨床現場で実際に使われている治療の組み合わせと効果
目次

起立性調節障害と睡眠相後退症候群の関係

起立性調節障害(OD)睡眠相後退症候群(DSWPD)は、似た症状の背景に異なるメカニズムが潜んでいるため、両者を見極めたうえで治療方針を立てることが重要です。

まずはそれぞれの特徴を確認しましょう。

起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)

起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)は、学童期から思春期にかけて発症しやすく、長期的な不登校や社会的孤立につながることもある疾患です。

主に自律神経の不調により、起立時の血圧調整がうまく働かず、立ちくらみ、失神、朝の起きづらさ、全身の倦怠感、動悸、頭痛などがみられます。

小児心身医学会によるOD治療には、生活習慣の見直しや非薬物療法を基本としつつ、ミドドリン塩酸塩などの薬物療法が併用されるとしています。

睡眠相後退症候群(Delayed Sleep-Wake Phase Disorder:DSWPD)

一方で、ODと診断されている症例のなかには、睡眠の問題が見過ごされているケースも少なくありません。

特に、朝の起床困難や夜間の入眠困難といった症状が見られる場合、睡眠相後退症候群(Delayed Sleep-Wake Phase Disorder:DSWPD)を併発している可能性が考えられます。

DSWPDは、社会生活に求められる時間帯に眠気がこず、午前3〜6時になってようやく入眠できるというリズムのずれが特徴です。

思春期から青年期に多く見られ、「早く寝たいのに眠れない」「朝がどうしてもつらい」といった本人の訴えがある一方で、周囲からは怠慢や精神的問題と誤解されやすいといった現状があります。

ODとDSWPDはいずれも視床下部が関与している

起立性調節障害(OD)と睡眠相後退症候群(DSWPD)の両者に共通して関与しているのが、脳内の視床下部です。

視床下部は、血圧や体温、睡眠・覚醒のリズムを調整する中枢であり、これらの調整機能に不全が生じることで、ODおよびDSWPDの症状が現れると考えられています。

実際、ODの患者の約86%に朝の起床困難がみられ(呉,2018)、DSWPDとの重なりが示唆されています

また、ODでは33%に神経発達症の併存が報告されており(藤井,2020)、視床下部の多様な機能がさまざまな症状に関与していることがわかります。

実際、睡眠相後退症候群と診断された20歳未満の若者を調べたところ、約7割に血圧の調整がうまくいっていない様子(=起立性調節障害)が見つかったという報告もあります。

夜眠れない、朝起きられないことで社会生活も困難に

睡眠相後退症候群(DSWPD)は、患者本人の努力では解決できないにもかかわらず、社会生活とのミスマッチによって深刻な不利益を生じる疾患です。

特に学校や職場など、朝型の時間枠が前提となる環境では、生活リズムが合わずに登校や就労が困難となり、孤立感や引きこもりにつながることもあります。

近年、感染症の影響によりオンライン授業や在宅勤務が広がったことで、自分のペースで生活できるようになり、社会との関わりを持てるようになったケースも報告されています。

しかしその一方で、決まった時間に起きる必要がなくなったことで生活リズムがさらに後退し、外出機会の喪失につながった例もあるようです。

しかし、DSWPDは診断がつけば治療の選択肢も広がります。

疑わしい場合は睡眠表を活用し、平日と休日の入眠・起床時刻に著しい差がある場合には、本疾患を疑ってみる必要があるでしょう。ODの診療においてもDSWPDの視点を併せ持つことで、より的確な対応が可能になります。

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)が公開している睡眠表も活用いただけます。下記よりダウンロード可能ですので、必要に応じてご参照ください。

➤ 睡眠・覚醒リズム表(PDF)をダウンロード

本疾患を放置すると、うつ病や不安障害、適応障害などの二次的な精神疾患を招くリスクもあります。医療や教育の現場に携わる者として、DSWPDの存在を正しく認識し、適切に治療を進めることが大切です。

参考:概日リズム睡眠・覚醒障害群 について

概日リズム睡眠・覚醒障害群は体内時計を実時間である24時間周期に同調させることができなくなる障害です。大きく2つのタイプに分けられます。

◉1つ目は内因性概日リズム睡眠障害群です。
光などによる体内時計のリセット機能に何らかの問題が生じているタイプで4種類の症状がみられます。

内因性 ①睡眠・覚醒相前進障害 ②睡眠・覚醒相後退障害 ③非24時間睡眠・覚醒リズム障害 ④不規則睡眠・覚醒リズム障害

◉2つ目が人為的・社会的な要因により生じる外因性タイプで、主に2種類あります。

2:外因性 ①勤怠勤務睡眠障害 ②時差症候群(時差ボケ、外因性)

(出典:スリーププランナーP185 神林監修)

若年性起床困難症とは?】

思春期から若年性成人には睡眠リズム障害である「睡眠・覚醒相後退障害」と自律神経機能不全の「起立性調節症障害」が併存しているケースがあるため、神林博士はこれらの症状を合わせてもつケースを「若年性起床困難症」と呼ぶことを提唱しています

入眠・起床困難の治療における新しい選択肢

睡眠相後退症候群(DSWPD)は、かつては治療が困難な疾患とされていました。

従来の治療では、ビタミンB群、メラトニン受容体作動薬、高照度光療法、入院による生活指導などが用いられてきましたが、現実の生活環境における継続的な治療効果の維持には限界がありました。

また、ベンゾジアゼピン系薬剤を思春期の患者に使用した際には、脱抑制により入眠がかえって困難になるケースも見られ、治療をより複雑にしていました。

しかし近年、入眠促進と起床促進の両面で有効な薬剤が登場し、治療選択肢が広がりつつあります。

入眠困難に対する薬剤の使用例
  • 15歳以下:メラトニン(商品名:メラトベル)1~2mgを就寝前に服用
  • 16歳以上:ラメルテオン0.125-0.25錠(1-2mg)を18~19時に投与
  • 全年齢共通:オレキシン受容体拮抗薬(例:レンボレキサント[商品名:デエビゴ])2.5~5mgを就寝直前または頓服で使用。

(出展:小児内科2024_ Vol56 No.8 P60 神林)

起床困難に対しては、アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)0.5~1mgを朝または昼に投与するのが有効です。

患者の体重推奨されるアリピプラゾールの用量
40kg未満0.125mg
40~50kg-0.25mg
50~60kg0.5mg
60kg超1mg

アリピプラゾール0.125mg(<40kg) -0.25mg(40-50kg)-0.5mg(50-60kg)-1mg(>60kg)

なお、アリピプラゾールは統合失調症や自閉スペクトラム症にも使用されている抗精神病薬ですが、DSWPDに対しては1/20量の超低用量で用いられ、特段の副作用も認められていません。

6歳以上の自閉スペクトラム症にも適応があり、小児に対しても比較的安心して使用できる薬剤とされています。18才以上での保険病名としては双極性障害を使用しています。

非薬物療法も依然として重要であり、以下の取り組みが推奨されます。

非薬物療法の推奨例
  • 朝起きたら自然光や高照度光(2500~1万ルクス)を30分~2時間浴びる
  • 夜はカフェインを控え、22時には部屋を暗くする
  • 睡眠表(睡眠日誌)を記録し、生活リズムの評価と指導に活用する

これらの治療法の併用により、従来対応が難しかった症例にも改善が見られており、小児科を含む幅広い診療科における導入が期待されます。

子どもや若者の起床困難における臨床例

最後に、小学生~高校生の起床困難に対する臨床例を紹介します。

なお、本症例は神林博士が担当した臨床症例の一部であり、すべてが同じ経過を辿るものではありません。

各薬剤に関する効能又は効果・用法及び用量については、処方前にそれぞれの添付文書を必ずご確認ください。

ケーススタディ①遷延性起立性低血圧と診断されていた11歳女児

こちらの当時11歳(女)は、10歳頃から朝の起床が困難となり、小児科にて遷延性起立性低血圧と診断。

ミドドリン塩酸塩を朝4mg・夕2mgで内服していましたが、生活リズムの改善には至らず、深夜0時過ぎの就寝と、午前9〜10時の起床が続いていました。

睡眠相後退症候群(DSWPD)の併存を考慮して治療方針を見直し、夜にメラトニン1mg、朝にアリピプラゾール0.5mgを追加。すると、数日以内に就寝時刻は22時頃へ前倒しされ、起床も7時前後に改善されました。

特に投与開始から3〜4日で睡眠リズムが安定し、朝の覚醒もスムーズになったことが確認されています。血圧調整のためのミドドリン塩酸塩は継続して使用されています。

この症例は、OD単独での治療では改善が難しかった起床困難が、DSWPDへの介入によって大きく改善した一例です。

睡眠リズムの評価と、併存する睡眠障害への視点が治療の鍵になることが示唆されます

ケーススタディ② :起立性調節障害と診断されていた14歳女子

続いて14歳(女)の症例です。

13歳頃から頭痛、倦怠感、立ちくらみが現れ、小児科で起立性調節障害(OD)と診断されました。

ミドドリン塩酸塩による治療が行われていたものの、入眠時刻は深夜0時、起床は9-10時頃にずれこみ、眠りも浅い状態が続いていました。

睡眠相後退症候群(DSWPD)の併存を疑い、メラトニン1mgとアリピプラゾール0.5mgの併用療法を開始したところ、入眠は初日から22時に、2-3日目以降からは起床時刻も早まり7時前後に起きられるようになっていきました。

ケーススタディ③:神経発達症を併存し、過眠傾向を示した15歳男子高校生

最後は注意欠如・多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)の既往をもつ、15歳(男)の症例です。

授業中の強い眠気を訴え、エプワース眠気尺度(ESS)は22点と高値を示していました。
睡眠のMSLT検査ではREM睡眠の出現は1回のみで、過眠症の診断基準は満たさなかったものの、深夜0時から正午12時までの長時間睡眠が継続しており、睡眠相後退症候群(DSWPD)が疑われました。

治療として、アリピプラゾール1mgを朝に投与した結果、日中の過度な眠気が軽減し、休日の起床時刻にも前進傾向が見られました。

就寝時刻には大きな変化はなかったものの、全体として日中のQOLは大きく改善され、生活への支障は軽減されました。

まとめ:朝に起きられない”の背景に、もう1つの視点を

朝に起きられない若年層の主訴となる症状だけでは判断が難しいものの、起立性調節障害(OD)か、睡眠相後退症候群(DSWPD)か、あるいはその併存か、これらを見極める視点が求められています

特に思春期では、血圧調整だけで改善しない症例が多く、睡眠医療の視点を取り入れることが重要です。

メラトニンやオレキシン受容体拮抗薬、アリピプラゾールなどの導入により、DSWPDの治療は飛躍的に進展しています

就寝・起床リズムの改善は、本人の生活リズムの安定だけでなく、学校生活や社会復帰の可能性を広げることにもつながります。

微量であっても抗精神病薬の使用に抵抗感をもつ声は根強くありますが、あくまで睡眠障害への治療であり、QOLの向上に寄与する選択肢です。

睡眠障害に対する新たな選択肢として、臨床での活用をぜひご検討ください。

<ご案内>

また本記事に関する内容をYouTube [ Spring X 超学校]で神林先生の講義をご覧いただけます。
プロフィールにも詳しく資料を展開していますので、下記リンクより合わせてご覧ください。

参考:YouTube

この記事でわかったこと

  • 起立困難を訴える子どもにはDSWPDの併存が隠れている場合がある
  • 視床下部の機能不全がODとDSWPD双方の病態に関連している
  • 社会的リズムと生体リズムのずれが、登校・就労困難を引き起こす
  • アリピプラゾールやメラトニンなどを組み合わせることでリズムの改善が可能
  • 就寝と起床の両方にアプローチすることで、日常生活の質が大きく改善する可能性がある

監修:神林 崇

*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)

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