コロナ渦で基本的な生命力をアップしてくれると、一気に注目を浴びた漢方。人気で処方在庫が制限されるくらい、いっきに利用者も増えてきた様子。
興味はあるけれど「なんか難しそう」「どこで貰えるのだろう?」と感じていたり。一方で「漢方は効きにくいらしい!?」と、決めつけているケースもあるかもしれません。
実は漢方は処方薬だけではなく、日本人にとって不調を抱えずに健やかな毎日を維持するための食事・運動・睡眠・休養法などなど、日常生活の中で無理なく取り入れられるセルフケア・ノウハウの宝庫!
中医と混同しがちですが、日本で広まる漢方は基本的に日本人の体質や気候に合わせて発展してきた独自のものです。だからこそ漢方の歴史や理論を知り、セルフケアに活かすことで、自分にピッタリの睡眠養生に役立つノウハウが手に入るかもしれません。
そこで本記事では、薬日本堂(NIHONDO) 漢方スクール講師であり、薬剤師の飯田勝恵先生に「漢方の基本」について教えていただきました。本企画はシリーズとなっています。漢方の成り立ちや特徴、現代医学との違い、漢方処方の相談のおすすめ方法まで詳しく解説します。
「漢方がよくわからない」という方こそ、本シリーズを最後までチェックしてみてください!
この記事でわかること
- 漢方は薬だけではない、幅広い養生法を含む
- 漢方の基本は、病気になる前に体調を整える「予防」から
- 日本の漢方は、日本人の体質や気候に合わせて発展してきた
- 漢方薬と民間薬の違いは、理論に基づいた処方があるかどうか
- 現代医学と漢方は異なる視点を持ち、組み合わせて活用できる
知ってるようで知らない、そもそも「漢方養生」とは?
「漢方=漢方薬(生薬)」を思い浮かべる人が多いかもしれません。ドラッグストアでも、漢方薬のコーナーができるほど、多くの種類が販売されていますよね。
しかし、漢方は薬(方剤)だけではなく、食事のとり方、鍼灸やマッサージ、ツボ押し、気功、太極拳、休養のとり方など、幅広い方法を含む伝統的な医療体系です。その根本には、病気になってから治すのではなく、日々の生活を整え、健康を維持するという「養生」の考え方があります。
さまざまな種類の養生がある
健康的でおいしい「薬膳」は人気で、カフェやレストランなどのメニューでもみかけますよね。身近に取り入れている方も多いのではないでしょうか。
そんな薬膳も、実は昔から「食養生」として伝えられてきた養生の一種です。「食べることで体調を整える」という考え方からきており、健康意識が高まる現代で再注目されるようになりました。
また、気功や太極拳、ヨガといった運動も養生の一環です。これらは単なるエクササイズではなく、呼吸を整え、心と身体のバランスをとることを目的として「動養生」とされています。
さらに現代社会で注目したいのが「休養生」。休息と活動のバランスを意識して生命を養うことをいいます。これは単に横たわって休めば良いというわけはなく、休息(陰)を充実させることで心身が回復し、蓄えられたエネルギーが活動(陽)へ注がれるという考え方があり、生活リズムの養生法ともいえます。
つまり、質の良い睡眠だけを追求するのではなく、リラックス手法も含まれます。入浴や自然に触れること、香り(アロマ)、ストレッチ、ツボ刺激など幅広い手法があります。
このように食事、運動、睡眠、生活習慣、環境など、生活のすべてが養生に通じているといえます。
| 養生の種類 | 概要 |
|---|---|
| 心養生 | 心のあり方、物事のとらえ方 |
| 食養生 | 飲食物の選択と食べ方 |
| 動養生 | 身体の動かし方 |
| 休養生 | 休息のとり方 |
| 因人養生 | 体質、性別、年齢による養生 |
| 因時養生 | 一日、一年の時の変化に応じた養生 |
| 因地養生 | 土地や生活の場に応じた養生 |
| 薬の養生 | 自然薬の活用による養生 |
| 経絡の養生 | マッサージ等で経絡やツボを刺激する養生 |

漢方医学が特に重要視しているのは「予防」すること
漢方医学では、病気になってから対処するのではなく、日頃から体調を整え健康を維持することが最も大切だと考えます。
「病はを薬を飲んで治すもの」というより、日常の習慣そのものを見直し、不調を予防するために健康増進するための知恵が詰まっているんです。
日常生活を送っていると、様々な環境変化や加齢による体調変化の中で、身体はバランスを取って生活をしています。
たとえば、睡眠時間と活動のバランスが崩れることで疲労困憊になったり、過食が続いて胃腸の不調に陥ったりしますよね。このように身体のバランスが崩れても、私達の身体は回復する力(自然治癒力≒生命力)を持っているのです。漢方では、このような力を「正気(せいき)」と呼ぶこともあります。
つまり養生とは、生命力を養うこと。
健康を「守る」のではなく、そもそも健康でいるために「自然治癒力を高め維持していく」ことが本来であり、個々の体質に合わせながらバランスを保つ健やかなライフスタイルを取り入れることが、漢方における健康管理の考え方です。
漢方養生において重要な「未病」という考え方
漢方には「未病(みびょう/MIBYO)」という重要な考え方があります。
未病とは、病気と健康の間にある状態を指し、自覚症状はあるものの、まだ病気と診断されるほどではない段階のことです。たとえば「疲れが取れない」「寝つきが悪い」「胃腸がすっきりしない」など、日常のちょっとした不調が未病にあたります。
未病の状態を放置すると、本格的な病気につながることもあります。
西洋医学では、病気になってからの治療が基本ですが、日常生活に漢方の知識を上手にとりいれると、不調を避けてよりよい体調(オプティマルヘルス)を目指せます。不調を放置せず、未病の段階で適切な対策を取ることで早期回復を目指し、心と身体を健やかに保つことができるのです。

現代医療と漢方の特徴を比較してみよう
現代医療、つまり西洋医療と言われる分野と、東洋医療といわれる漢方では、それぞれ異なる特徴を持ち、どちらも健康を支える大切な役割を果たします。
西洋医療は、細菌やウイルスの発見、手術技術の進歩などにより、特定の病気に対して原因を特定して集中的に局部治療を行うことが得意です。感染症や急性疾患には、特に効果を発揮し、命を救うために欠かせません。
一方で、漢方は身体全体のバランスを整え、全体的な生命力を高めてくれる養生が得意です。このため体質に合わせて生活習慣を見直して、時間をかけてバランスの崩れた体調を根本的に底上げしていくことが基本です。そのため、漢方は病気になる前から取り入れることで、健康を維持することにも役立ちます。
つまり、どちらか一方が優れているわけではありません。特徴から考えると西洋医療は疾患を特定して治療することにとても優れていて、対して漢方は免疫力を高めたり、未病での不調(倦怠感や更年期などの諸症状)の改善に適しています。
それぞれの特性を理解し、ご自身の課題に合わせながら必要に応じて取り入れることが、健康を維持するための大切なポイントです。
| 近代西洋科学を基礎理論とする | 古代自然哲学を基礎理論とする | ||
|---|---|---|---|
| 部分的 | ・局部を重視する ・病気(感染症、腫瘍など)を重視する | 全体的 | ・整体を重視する ・正気(生命力、自然治癒力)を重視する |
| 病気の共通性を強調 | 同じ病気…同じ処方 | 病気の共通性と個体差異を強調 | 同じ病気…同じ処方または違う処方 |
| 化学合成薬 | ・実験で裏付ける ・淘汰が速い | 自然薬 | ・古代からの実体験による積み重ね ・淘汰があまりない |
| 得意分野 | ・外傷の処置 ・多くの緊急事態の処理 ・抗生物質による細菌性感染症治療 ・芙蓉整形、再建手術 | 得意分野 | ・慢性・消耗性疾患 ・不定愁訴 ・大半のアレルギー疾患 ・自己の免疫低下による疾患の治療 |
| 病気と治療の考え方 | 心と身体、身体の各部位は別々にはたらいているものととらえ、身体を一種の精密機械と考える。したがって病気とは生物学的メカニズムの破壊であり、治療とは、破壊した部分の修理であると考える | 病気と治療の考え方 | 心と身体、身体の各部位は切り離せないものと考え、心身を有機的なつながりをもつひとつのシステムと考える。したがって病気をシステムの平衡状態の崩れととらえ、治療とは、さまざまなシステムの要素のバランスを回復することであると捉える |
| 主体 | ・病気に着目する 治療は専門家が主体となっておこなうものであり、病んでいる人はそれにしたがうものである。自然治癒力や養生については比較的軽視される傾向にある | 主体 | ・病人に着目する 治療の主体は病んでいる本人であり、自然治癒力を重視する。養生が健康回復の要であり、専門家はアドバイザーとして病んでいる人を援助するものである |
漢方薬と民間薬の違い
漢方ときくと「草木根皮を煎じて飲むもの」と誤解されがちですが、自然由来の植物を使うとはいえ、その成り立ちや使われ方には大きな違いがあります。
いわゆる民間薬は、下痢や便秘にゲンノショウコやドクダミ、美肌にはハトムギのように原植物名や民間的な名称で呼ばれ、健康や美容のために古くから人々の間で受け継がれてきたものを指します。
たとえば生薬を乾燥させ、お茶としてお湯で煎じて飲むのも民間薬の一種です。「ある生薬がこの症状に効いた」といった経験がもとになっており、製法や使い方、対象となる症状は細かく決められていません。
一方、ここでいう「漢方薬」は異なります。漢方薬は古代からの医学書があり、それに基づいて処方が組み立てられています。
漢方薬は、一種類の薬草だけでなく、複数の生薬を一定の割合で組み合わせて処方されるのが特徴です。身体のどの部分にどのように作用するのかが明確に定められ、使用する際の注意点や適した病態も詳しく決められています。
また、民間薬が特定の症状に対して単独で使われるのに対し、漢方薬は身体全体のバランスを整え、不調の根本に働きかけるという考え方をします。例えば、同じ症状であっても、体質や体の状態によって異なる処方が選ばれることがあります。
だからこそ、漢方薬は専門的な知識が必要であり、正しく使うことでより効果的に働くのです。漢方薬を試したいなら、漢方処方の専門家に相談し、ご自身の体質や症状に合わせながら取り入れることが大切です。
| 漢方薬 | 民間薬 |
|---|---|
| 漢方理論に基づいて使用される | 習慣的、常習的に症状や病名に対して使用される |
| ほとんどの処方が多味であり、漢方理論に基づき組み立てられる | 一般的に単味で用いられる |
| 古来より、独特の「漢方方剤名」で呼ばれる 例:葛根湯、加味帰脾湯、柴胡加竜骨牡蛎湯など | 例:ゲンノショウコ、ドクダミ、ハトムギ |
| 漢方理論によって使用されるため、専門的な教育を受け、技術を習得している者による指導が必要。もし、正しく用いられなければまったく無効であるか、場合によっては副作用が現れることもある | 素人でも比較的手軽に使えるものが多く、副作用も少ないものが多い |

日本の漢方と中国医学の違い
漢方というと、中国のものだと思う方が多いかもしれません。
確かに、生薬や治療法の多くは奈良時代に仏教とともに中国から伝わりましたが、その後、日本の風土や人々の体質に合わせて独自の発展を遂げてきました。江戸時代には経験に基づいた実践的な漢方が確立され、明治時代には西洋医学の影響を受けながらも日本独自の形を残しています。
日本の漢方薬は、中国のものに比べて服用量が少なく、日本人の体質や湿度の高い気候に合わせた処方が特徴とされており、日本古来の医療文化として今も受け継がれています。
漢方の起源
日本の漢方は、湿度の高い環境や日本人の体質に合わせて独自の発展を遂げた伝統的な医療体系です。
その起源は古代中国医学にあり、奈良時代には仏教とともに生薬が伝えられました。特に鑑真が日本へ持ち込んだ医療技術は大きな影響を与え、当時の生薬が奈良県の正倉院に今も保管されています。
中国から伝わった医学は、日本だけでなく朝鮮半島にも広がり、それぞれの土地に根ざした形で発展しました。中国では「中医学」、韓国では「韓医学」、北朝鮮では「高麗医学」として発展し、日本では「漢方」として定着しています。
日本における漢方の歴史と現状
日本の漢方は、日本人の体質や気候に適応する形で工夫が重ねられてきました。
特に、日本人は胃腸が弱い傾向があり、消化に負担をかけないように服用量が中国に比べて少なく調整されています。一般的に、日本の漢方薬の処方は中国の3~5分の1程度の量とされ、日本人には少量でも十分に作用するのが特徴です。
また、日本の気候は湿度が高いため、水分代謝を整える処方が重視される傾向にあります。湿気による体調不良を防ぐために、余分な水分を取り除く生薬が多く用いられることも、日本の漢方ならではの特徴です。
このように、日本の漢方は単に中国から輸入されたものではなく、日本人の体質や環境に適応する形で工夫され、生活の中に根付いてきたものといえます。
漢方の現状と課題
漢方は近年、多くの人々に取り入れられるようになりました。
しかし、その一方で課題もあります。そのひとつが「漢方薬には副作用がない」という誤解です。漢方薬は、長い歴史の中で慎重に研究され、適切な使い方が確立されてきました。しかし、正しい知識に基づかずに使用すれば、副作用が出ることもあります。
また、漢方の学派にはさまざまな流派があり、現在は中国の中医学に基づく考え方や、西洋医学と組み合わせた現代医学的なアプローチなど、異なる視点からの研究や議論が行われています。このような違いがあるため、共通の理解を持つことが難しい場面もあるのが現状です。
さらに、日本では明治時代に西洋医学が導入され、漢方は公式な医療体系として認められませんでした。現在では漢方薬はドラックストアで手に入ったり、保険適用で処方されるくらい身近になっていますが、漢方の理論や診察法が十分に活用されているとはいえません。漢方の本来の考え方に基づいた適切な運用が今後の課題といえそうです。
こういった市場背景から考えても、自身の体質や症状にあった処方が得られるよう、処方してくれる専門家が「漢方分野の知識が豊富か」を確認をしてから相談することが大切です。病院であれば漢方内科を探したり、薬剤師にも漢方に詳しいかを確認してから相談しましょう。
相談方法は別途特集記事を合わせて御覧ください。
現代における漢方ブーム(2020年の感染症拡大後の変化)
近年、漢方への関心が高まっています。
その背景には、昨今の感染症拡大が影響していると考えられます。感染症予防の意識が高まったことで、「免疫を高めることの重要性」が広く意識されるようになったようです。
現代医学は病気を治すために発展してきましたが、そもそも「病気にならないこと」が理想です。そのため、病気になる前に予防するという漢方の考え方が、多くの人にとって身近になってきたのかもしれません。
特に、生活習慣の影響が大きい不調や慢性的な不調には、日々の過ごし方が大きく関係しています。
例えば、食事のバランス、睡眠の質、ストレスの管理といった要素が整っていれば、感染症やさまざまな病気のリスクを減らすことができます。
そうした視点から、体質改善や自然治癒力を高めることを目的とする漢方本来の考え方に改めて注目されています。
現代医学が進歩しても、病気そのものが減らないのは、生活習慣や環境が原因となっているケースが多いためです。漢方は、そうした生活全般を見直す視点を持っており、まさに今の時代に求められているものなのかもしれません。

まとめ:漢方の知恵を暮らしに取り入れよう!
漢方は特別なものではなく、私たちの暮らしの中で無理なく活かせる知恵です。
薬を飲むだけでなく、食事、運動、睡眠、心の持ち方を整えることで、体の調子を整えることができます。
日本の漢方は、中国から伝わったものが日本の風土や体質に合わせて発展してきました。そのため、日本人にとってなじみやすく、生活に取り入れやすい特徴があります。
また、漢方は病気になってから治すのではなく、日々の生活を整えることで健康を維持するという考え方が基本。現代医学と組み合わせながら、自身の体質に合った方法を見つけることが大切です。
まずは、身近なところから漢方の考え方を取り入れてみませんか?心身の健康を支えるヒントがきっと見つかるはずです。このあとのシリーズも合わせてチェックしてみてください。
この記事でわかったこと
- 漢方は、日々の生活習慣を見直すことで無理なく取り入れられる
- 日本の漢方薬は中国より服用量が少なく、穏やかに作用する特徴がある
- 漢方薬は気軽に取り入れられるが、専門知識を持つ人に相談するとよい
- 現代の漢方は、西洋医学と併用しながら活用されることが増えている
- 感染症拡大をきっかけに、予防を重視する健康意識が高まっている
関連書籍
漢方について、もっと詳しく知りたくなりましたか?本記事を監修している飯田勝恵先生の著書「やさしい漢方 未病の地図帖 不調の原因とセルフケアがよくわかる」もチェックしてみてくださいね。
▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:やさしい漢方 未病の地図帖 不調の原因とセルフケアがよくわかる
著者名:飯田勝恵(著)薬日本堂(監修)
出版社:家の光協会
形態:単行本 / kindle版/楽天kobo版
発売日:2024年2月17日
監修:飯田 勝恵(いいだ かつえ)
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)









