「夜、なかなか寝つけない」「眠りが浅くて何度も目が覚める」——そんな不眠の悩みを抱えていませんか?
現代では、ストレスや生活習慣の乱れによる不眠が増えています。病院に行くほどではないけれど、毎晩の睡眠に満足できず、どうしたら改善できるのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
漢方では、不眠は単なる睡眠の問題ではなく、身体のバランスの乱れ が原因と考えます。
そこで今回は、薬剤師であり薬日本堂漢方スクール講師の 飯田勝恵先生 に、不眠と漢方養生についてお話を伺いました。眠りの質を上げるために、漢方の知恵を活かしてみましょう!
この記事でわかること
- 漢方における不眠の考え方と、陰陽バランスとの関係
- 不眠のタイプ(陽の不眠・陰の不眠)とそれぞれの特徴
- 加齢や更年期による不眠のメカニズムと対処法
- 漢方の基本概念「同病異治」と不眠への応用
- 自分の体質に合った漢方薬の選び方
大前提!漢方養生における不眠の考え方とは?
漢方では、不眠は単なる「寝つきの悪さ」ではなく、心身のバランスが崩れた結果として起こる症状のひとつと考えます。
寝つきが悪い、途中で目が覚める、夢が多く眠りが浅いなど、不眠の症状はさまざまです。これらが続くと、日中の疲労感や集中力の低下を引き起こし、生活の質にも影響します。
不眠の原因は一つではなく、ストレスや生活習慣の乱れ、体質的な要因などが絡み合っていることがほとんどです。漢方ではこうした背景を踏まえ、心と身体のバランスを整えることで、自然な眠りを取り戻すことを目指します。
このバランスの崩れに関しても、診るべきポイントが大きく3つあります。まずは、関係する3つのバランスについて確認しましょう。
1つ目:陰陽バランスの乱れ
漢方では、1日を「陰」と「陽」のバランスによって支えられていると考えます。これによって睡眠も陰陽のバランスを知ることが、快眠を得るための鍵になります。
陽は活動やエネルギーを象徴し、陰は休息や回復を担います。日中は陽が優位になり、夜になると陰が高まり、自然に眠りへと導かれるのが理想的な状態です。
しかし、ストレスや生活習慣の乱れによって陽が過剰になると、気持ちが高ぶって寝つけない、途中で目が覚めるなどの不眠が起こります。反対に、陰が不足すると、十分に休息できず眠りが浅くなることがあります。

この漢方の陰陽バランスで考えると、睡眠にはゴールデンタイムは『ある』ともいえます。グラフで言う陰の時間に眠ることが、休養感が高まるという考え方です。
例えば6時間の睡眠を取るとしましょう。同じ睡眠時間でも、陰のパワーが高まる時間に睡眠時間を確保することで休養感が高まる、という考え方があります。
2つ目:臓腑の失調
漢方での不眠は単なる「睡眠」の問題だけではなく、臓腑のバランスの乱れが関係していると考えます。
臓腑は「五臓(ごぞう)」からなり「肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)」の5つを指します。言葉が似ているので誤解されがちですが、漢方の五臓とは西洋医学で考える臓器と同じではありません。より広い役割を指しているとイメージすると、はじめはわかりやすいでしょう。
睡眠状態が悪くなっているときには、これら五臓のうちの「肝」「心」「腎」の働きが影響を及ぼすとされています。

強いストレスや感情の乱れによって「肝」の気が滞ると、それが熱に変わり、心が落ち着かず眠りに影響を与えます。
また、「心」は精神活動を主るため、心の安定が睡眠の質に直結します。過度なストレスや飲酒、刺激物の摂取が心を乱し、不眠を引き起こすこともあります。
さらに、「腎」は身体を潤す役割を担い、腎の働きが低下すると、心を落ち着かせる力が弱まり、睡眠が浅くなることがあります。
不眠を改善するためには、これらの乱れたバランスを整えることが、漢方での「質の良い眠りにつながる」と考えられています。
3つ目:気血の不足
五臓の他に、漢方では「気血水(きけつすい)」という基本的な考えがあります。この気血水とは、身体を構成
する基本要素と考えられています。
このバランスが崩れることも不眠の原因とされます。そのひとつとして「気血(きけつ)」の不足が挙げられます。
気は生命活動を支えるエネルギー、血は精神を安定させる基盤です。これらが十分に巡ることで、心身が落ち着き、質の良い睡眠が得られます。
しかし、慢性的な疲労や病気、栄養不足などによって血が不足すると、精神活動が不安定になります。その結果、眠りが浅くなったり、寝つきが悪くなったりすることがあります。特に「肝」に蓄えられる血が減少すると、神経が過敏になり、不眠の原因となることもあります。
また、「気」の不足も関係します。気が足りないと、心身がしっかり休まらず、疲れているのに眠れないといった状態を招きます。不眠を改善するためには、気血を補い、全身に巡らせることが大切です。
気血は例えば、ストレスや月経トラブルや加齢などによっても影響を受けるので、診断で状態をチェックするのもおすすめです。
漢方の不眠といえば「陰陽の不眠」をまずは知るべし!
では、具体的に不眠のケースを診ていきましょう。
漢方で診る不眠には、大きく分けて「陽の不眠」と「陰の不眠」があります。
漢方、つまり東洋医学では、日中は「陽」の時間、夜は「陰」の時間とされ、それぞれに合った行動をとることが自然な流れです。
本来、夜は陰の時間なので、身体を休め、眠ることが理にかなっています。
しかし、このバランスが崩れると、不眠の状態が生じてしまうのです。陽の時間にしっかり活動できない、陰の時間にリラックスできないといった生活習慣の乱れが、不眠の原因につながると考えられています。
陽の不眠(気が高ぶり眠れない)
陽の不眠とは、気が高ぶってしまい、なかなか眠くならない状態を指します。
神経が興奮して頭が冴えてしまうため、布団に入っても眠れず、気づけば深夜……なんてことも少なくありません。このタイプの不眠は、交感神経が優位になりすぎているのが特徴です。
ストレスや緊張が続くと、脳が休まらず、寝つきが悪くなることがあります。イライラや不安を感じやすい人、考え事が多い人に多い傾向です。
陰の不眠(疲れているのに眠れない)
陰の不眠とは、疲れているのに眠れない、または眠りが浅くて夜中に何度も目が覚めてしまう状態を指します。
日中、電車でうとうとしてしまうほど眠いのに、いざ布団に入ると寝つけない。眠れたと思っても、すぐに目が覚めてしまい、朝になっても疲れが取れていない。こうした症状が続くと、体力の回復が追いつかず、ますます疲労が蓄積してしまうのです。
このタイプの不眠は、血の不足や虚弱体質が関係していると考えられます。栄養やエネルギーが足りず、ぐっすりと深く眠るための力が不足している状態です。
加齢・更年期の不眠
加齢や更年期による不眠は、陰の不眠と陽の不眠の両方の要素を持つのが特徴です。
年齢を重ねると、身体の機能が衰え、陰陽のバランスが崩れやすくなります。
たとえば、夜中に何度もトイレに起きてしまい、そのせいで眠りが浅くなる方は少なくありません。この場合、腎の衰えが関係していると考えられます。
腎の力が弱まると、尿をしっかりと蓄えることができず、頻繁に目が覚めてしまうのです。このタイプは腎を補う養生を取り入れることで、夜間のトイレの回数を減らし、自然な眠りへと導くことができます。
また、更年期の不眠は人によって症状が異なります。
のぼせやホットフラッシュがある方は、気が上に昇りやすく、陽の不眠に近いタイプです。一方で、疲れやすく気分が沈みがちな方は、血が不足しているため、陰の不眠の傾向が強くなります。
以上のことから、加齢や更年期による不眠も陰陽のバランスを考え、適切な「養生」を取り入れることが大切です。
同病異治(どうびょういち)!漢方はパーソナライズ治療が基本
「同病異治(どうびょういち)」という言葉を聞いたことはありますか?
これは、同じ病名の症状でも人によって原因が異なるため、治療法も変わるという漢方の基本的な考え方です。
不眠の場合も、単に「眠れない」という症状だけでなく、その背景にある体質や生活習慣、気・血・水のバランスの乱れを考慮して適切な対処法を導きます。
たとえば、ストレスで気が滞っている人と、血が不足している人では、必要な養生法が異なるのです。
漢方では、このように個々の状態を見極めながら、不眠の改善を目指します。
このため、不眠症状を改善するための漢方薬は1つではありません。具体的にどのようなラインナップがあるのかみてみましょう。
(なお、これからご紹介する漢方薬は、あくまで代表的な漢方処方例です。)
【陰陽タイプ別】不眠の悩みにおすすめの漢方薬
不眠の原因は人それぞれ異なるため、漢方では体質や症状に合わせた処方を選ぶことが大切です。気の巡りが悪いタイプ、血が不足しているタイプ、体に余分な水分が溜まっているタイプなど……自身の体質を知ることで適切な漢方薬を選びやすくなります。
陽の不眠をサポートする漢方
陽の不眠は、気が高ぶって眠れないタイプの不眠です。
緊張感が続いたり、ストレスで気分が落ち着かなかったりすることで、寝つきが悪くなります。さらに、のぼせや頭痛、肩こり、便秘などの症状を伴うこともあります。
このような不眠に対して、漢方では 柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) や 加味逍遙散(かみしょうようさん) がよく用いられます。
| 漢方薬名 | 体質の特徴 | 主な症状 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|---|
| 柴胡加竜骨牡蠣湯 | 体力があり、便秘がち | イライラ、不安感、緊張感、のぼせ、肩こり、頭痛 | ストレスで気が高ぶりやすく、普段から活発に動ける人 |
| 加味逍遙散 | やや虚弱で胃腸が弱い | 疲れやすい、食欲不振、胃もたれ、月経トラブル(PMS・月経不順) | ストレスを感じやすく、体力に自信がない人 |
柴胡加竜骨牡蠣湯は、体力があり活動的な人向けの漢方です。一方、加味逍遙散は、疲れやすく胃腸が弱い人や、月経に関するトラブルを抱える女性に向いています。
陰の不眠をサポートする漢方
陰の不眠は、身体が疲れているのに眠れない、眠りが浅い、すぐに目が覚めるといった特徴があります。
この原因のひとつに 血(けつ) の不足があり、漢方では血を補い、心を落ち着かせることが大切です。このタイプの不眠に適した漢方薬として、酸棗仁湯(さんそうにんとう) と 加味帰脾湯(かみきひとう)があります。
| 漢方薬名 | 体質の特徴 | 主な症状 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|---|
| 酸棗仁湯 | 血が不足し、心が不安定 | 眠りが浅い、寝つきが悪い、すぐに目が覚める | シンプルに血を補い、心を落ち着かせたい人 |
| 加味帰脾湯 | 血と気が不足、胃腸が弱い | 疲れやすい、心配性、食が細い、胃もたれ、軟便 | 気力も栄養も不足し、ストレスを感じやすい人 |
酸棗仁湯は、血を補って心を安定させるシンプルな処方です。一方、加味帰脾湯は 気(エネルギー)と血(栄養) の両方が不足している場合に適しており、特に胃腸が弱く、ストレスや心配事の多い人に向いています。
どちらの漢方を選ぶか迷ったときは、自身の体質や悩みに合いそうな方を選んでみてください。どうしてもわからないときは、漢方の専門家がいる薬局やオンライン漢方相談を利用してみましょう。
まとめ:体質に合った養生で快眠を手に入れよう
漢方では、不眠の原因は人それぞれ異なり、その体質に合った方法で整えることが大切と考えます。
- 気が高ぶって眠れない:陽の不眠
- 疲れているのに眠れない:陰の不眠
- 加齢や更年期で眠れない:陰陽の両方が乱れる不眠
こうしたタイプごとに、漢方の視点から適切な養生法や漢方薬を選んでみましょう。
西洋医学では、睡眠薬やホルモン調整によるアプローチが一般的ですが、漢方は 「根本から整える」ことを大切にします。自分の体質を理解し、気血の巡りや陰陽のバランスを意識することで、自然な眠りを取り戻すことができるのです。
日々の生活に漢方の知恵を取り入れ、心地よい睡眠を手に入れてみませんか?
この記事でわかったこと
- 不眠の原因はストレスや生活習慣だけでなく、体質にも影響される
- 陰陽バランスが崩れると、睡眠だけでなく日中の活動にも影響する
- 腎の衰えが夜間頻尿を引き起こし、不眠につながることがある
- 気や血の不足は、心の安定や睡眠の質にも深く関わる
- 漢方は症状だけでなく、体質や生活環境を考慮して選ぶことが重要
関連書籍
漢方について、もっと詳しく知りたくなりましたか?本記事を監修している飯田勝恵先生の著書「やさしい漢方 未病の地図帖 不調の原因とセルフケアがよくわかる」もチェックしてみてくださいね。
▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:やさしい漢方 未病の地図帖 不調の原因とセルフケアがよくわかる
著者名:飯田勝恵(著)薬日本堂(監修)
出版社:家の光協会
形態:単行本 / kindle版/楽天kobo版
発売日:2024年2月17日
監修:飯田 勝恵(いいだ かつえ)
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)









