年齢とともに体が変化するように、実は睡眠もまた少しずつ変化していくことをご存じでしょうか。
寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたり、朝早くに起きてしまう……。そんな変化を「年のせいかな」と感じている方も多いかもしれません。
そこで今回は、早稲田大学教授で精神科医の西多昌規先生に、心と体を元気に保つための「食事と睡眠の関係」について教えていただきました。
ぐっすり眠れるようになる食べ物や食べ方の工夫まで解説するので、ぜひ最後までチェックしてみてください!
この記事でわかること
- 年齢とともに起こる「睡眠の老化」とその特徴
- 不眠や認知症リスクと睡眠の深い関係
- 快眠をサポートする食事の工夫と栄養素
- 眠れない夜に試したい考え方と行動の工夫
加齢とともに眠りが変わるのは、ごく自然なこと
年齢を重ねると、白髪がでてきたり、集中力が続かなくなったりと体にさまざまな変化が現れるように、睡眠にも自然な変化が訪れます。
これは病気ではなく、若い頃と同じように眠れなくなるのも ”老化のサイン” で、誰にでも起こりうる自然な現象です。
実際に、年を取ると深いノンレム睡眠の割合が少なくなり、眠りが浅くなることが分かっています。そのため、夜に何度も目が覚めたり、ぐっすり眠れた感覚が得にくくなったりするのです。これは誰にでもおこります。
眠れなくて困っている人は、まずこの事実を受け入れてみましょう。「以前のようにうまく眠れない」のは、自然なことと理解するだけで気持ちが楽になります。
こうした変化は、努力や工夫だけで完全に防げるものではありません。しかし、体の老化が生活習慣で進行をゆるやかにできるように、睡眠も工夫次第でその変化を穏やかにできます。
変化した睡眠の特徴に合わせてライフスタイルを調整し、無理なく整えていくことが現実的な方法です。
無理に若い頃の眠りを取り戻そうとするのではなく、今の自分に合った眠り方を見つけること。それが「睡眠の変化」と上手に付き合う第一歩なのです。
加齢につれ、長く眠り続けられなくなる
年齢を重ねると、体の代謝や活動量が少しずつ落ちていきます。若い頃のように長時間眠る必要はなくなり、自然と睡眠時間も短くなっていきます。
「若い頃と同じ時間眠れない=不眠症かもしれない」と不安に感じる方もいますが、必ずしもそうではありません。
ある程度年齢を重ねてからの睡眠で大切なのは、時間の長さよりも、睡眠の「効率のよさ」です。睡眠効率が高ければ、短い睡眠でも「ぐっすり眠れた」「目覚めがすっきりしている」と実感しやすくなります。

睡眠の老化で注意したい、不眠症
加齢とともに睡眠の悩みが増える背景には、睡眠障害のリスクが高まることも関係しています。
60歳以上の方のうち、約3割はなんらかの睡眠障害を抱えているともいわれています。なかでも多いのが「不眠症」です。
不眠症の代表的な症状には、寝床に入ってもなかなか眠れない「入眠障害」、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」、そして朝早くに目が覚めてしまう「早朝覚醒」があります。ただし、こうした症状がときどき見られる程度で、日常生活に支障がなければ不眠症とは診断されません。
一方で、実際には眠れているのに「自分は不眠だ」と思い込んでしまう方もいます。これは「睡眠誤認」と呼ばれ、「不眠症」よりも「不安症」に近い状態です。睡眠検査をすると正常だった、というケースも少なくありません。

2040年65歳以上の6.7人に1人が認知症との予測
そしてもう一つ、見逃せないのが認知症との関わりです。近年の研究で、睡眠状態がこの認知症リスクにも影響することが分かってきました。
厚生労働省によると2040年には65歳以上の約15%、6.7人に1人が認知症になると予測されており、決して他人事とはできない時代になっていきます。
特に深いノンレム睡眠の時間には、「脳のごみ処理」が行われています。
しかし、加齢により深いノンレム睡眠が減ると、この“脳の掃除”がうまく働かず、老廃物がたまりやすくなります。これが記憶力や思考力の低下につながる可能性があるのです。
この脳の老廃物を洗い流す処理システムはリンパ系のような働きをグリア細胞が代行することから「グリンパティックシステム」と呼ばれています。寝ているときに、脳内にある老廃物を脳脊髄液と言う液体で洗い流しているのです。
ここで取り除かれるのが、アルツハイマー型認知症の原因とされる、「アミロイドβ(ベータ)」や「タウ」といった、たんぱく質です。この2つのタンパク質が除去されずに蓄積され、脳の神経細胞にダメージを与えることで、記憶力や思考力が低下すると現在考えられています。
参考:『熟睡できる。ぐっすり眠れる食べ方 大全』
P36「睡眠が老化すると、脳のゴミを洗い流せなくなる」より

大人の快眠のための食事のヒント
年齢を重ねると、自然と食事は質素になり、甘いものや高カロリーな食事を大量にとる人は少なくなる傾向があります。
健康への意識が高まり、食生活も整ってくるため、中高年の方に向けて特別な食事指導をする必要はあまり多くありません。
基本的には「寝る直前に食べない」「朝食を軽くでもとる」「満腹になるまで食べすぎない」といったシンプルなルールを守ることが大切です。
快眠のため控える:甘いもの・高カロリー・寝る前の食事
夜にこってりしたラーメンを食べたり、満腹のまま眠ろうとしたりすると、胃腸に負担がかかり、睡眠の質を下げてしまいます。睡眠改善は、特別な食品を食べることよりも、日常の食生活を少しずつ整えていくことが重要です。
実際のところ、食生活が体に与える影響は研究でも評価が難しく、「魚を食べると眠りやすくなる」といった因果関係を実証するのは容易ではありません。しかし、現場の臨床(病院での診察)を見ていると、毎日ファストフードばかり食べている人が生活習慣病や肥満になることは明らかです。
つまり、食生活は長期的に続けることでプラスにもマイナスにも作用し、睡眠にも間接的に影響を与えるのです。
わかりやすい指標としては、肥満や血圧などが挙げられます。これらは食生活の影響を直接反映するものですが、睡眠はより繊細でわかりにくい分野といえるでしょう。

夕食は就寝3時間前までに食べ終えるのが理想
快眠のためには、夕食をとるタイミングがとても大切です。
理想的なのは、寝る3時間前までに食べ終えること。忙しくてどうしても夕食が遅くなる場合でも、最低でも1時間はあけてから就寝するようにしましょう。
寝る直前の食事が良くない理由のひとつは、胃酸の逆流です。
食べ物は重力によって胃から腸へと送られますが、横になるとスムーズに流れず、逆流しやすくなります。さらに、眠り始めのノンレム睡眠の段階では、食道に戻す働きも弱まるため、逆流のリスクが高まるのです。
もうひとつの理由は、胃腸の働きです。睡眠中の消化管は本来ゆるやかに活動していますが、食べてすぐに横になると胃腸はフル稼働状態になり、リラックスできず眠りが浅くなってしまいます。
加えて、食事をとると体温が一時的に上がりますが、通常は体温が下がることで眠気が訪れます。体温が高いままでは寝つきが悪くなることもあります。
どうしても夕食が遅くなる場合は、分食を取り入れるのがおすすめです。たとえば、夕方に軽く食べておき、帰宅後は脂っこくない軽い食事で不足分を補う。こうした工夫で、胃腸への負担を減らしつつ、夜の睡眠を守ることができます。

快眠のための食生活で、若々しさもキープしやすくなる
近年「プチ断食」が健康法として注目を集めています。
背景には、2016年に大隅良典博士がノーベル賞を受賞した「オートファジー(細胞の自食作用)」の研究があります。
古くなったり壊れたりした細胞を分解し、新しい部品に再利用する仕組みのこと。この働きがスムーズに行われると、病気の予防やアンチエイジングにもつながると考えられています。
オートファジーを活性化させる方法のひとつが、一定時間「食べない時間」を設けることです。一般的には12時間以上の絶食が効果的とされ、15〜18時間空けるとさらに強まるといわれます。
ただし、1日2食に減らすなど極端なやり方はおすすめできません。無理なく取り入れるなら、夕食を夜7〜8時に済ませ、翌朝7〜8時に朝食をとることで自然に12時間の空腹時間をつくることが可能です。これなら睡眠を整える食べ方とも両立できます。
大切なのは、「ダイエット」や「断食そのもの」を目的にしないこと。あくまで、睡眠リズムを整え、心身を健やかに保つための工夫として取り入れるのが正解です。
規則正しく朝食を食べ、夕食は就寝3時間前までに済ませる。この生活を続けることで、自然にオートファジーも働きやすくなり、若々しさと快眠の両方をキープできるでしょう。

快眠のために効果的な栄養のとり方
毎日の食事を少し見直すだけで、眠りの質はじわじわと変わっていきます。
劇的な変化がすぐに現れるわけではありませんが、「今日はよく眠れた」と感じる日を少しずつ増やすために、食事はとても大切な要素です。
特に高齢になると食欲が落ちたり、食べる量が少なくなったりすることがあります。そのような場合でも、たんぱく質やビタミン・ミネラルをバランスよく取り入れることで、睡眠の質を保ちやすくなるのです。
「眠れないから薬に頼るしかない」と思ってしまう前に、毎日の食事を少し工夫してみましょう。
食事で睡眠ホルモン「メラトニン」をサポート
睡眠をつかさどるホルモン「メラトニン」は、もともと体内でつくられるものですが、実は一部の食べ物にも含まれています。
| メラトニンを含む食品カテゴリ | 具体的な食品例 |
|---|---|
| 肉類 | 鶏肉、牛肉など |
| きのこ類 | マッシュルーム、エノキダケ、シイタケなど |
| ナッツ類 | ピスタチオ、アーモンド、くるみなど |
| 穀物米 | 米、オーツ麦など |
| 乳製品 | 牛乳、ヨーグルトなど |
| 果物・野菜 | トマト、キウイフルーツ、バナナ、オレンジ、パイナップル、タルトチェリーなど |
ただし、食べ物から摂れるメラトニンの量は体内で作られるものに比べるとわずかです。そのため「食べればすぐ眠れる」というよりは、体内のリズムを支える“補強役”と考えましょう。

トリプトファンの摂取で睡眠ホルモン「メラトニン」を増やそう
眠りを支える「メラトニン」は年齢とともに減っていきます。
そんな、メラトニンの材料となるのが、必須アミノ酸の「トリプトファン」です。
トリプトファンをしっかり摂ることで、セロトニンを経てメラトニンが作られやすくなります。加齢による眠りの浅さを補うためにも、意識的に取り入れていきましょう。
| トリプトファンを含む食品カテゴリ | 具体的な食品例 |
|---|---|
| 肉類 | 鶏むね肉、鶏もも肉、豚ロース、牛赤身肉、ラム肉 |
| 魚類 | マグロ、カツオ、サケ、タラ、イワシ |
| 乳製品 | チーズ、ヨーグルト |
| 大豆製品 | 豆腐、納豆、凍り豆腐 |
| ナッツ類 | アーモンド、ピスタチオ |
実際に、トリプトファンを多めに摂った人は、睡眠時間が延び、寝つきまでの時間が短くなったという海外の研究報告もあります。睡眠効率(ベッドにいた時間のうち実際に眠れていた割合)が上がることも確認されています。
毎日の食事にこうした食材が並んでいるかを一度見直してみましょう。

ビタミンDと日光浴でメラトニンの材料「セロトニン」を増やす
ビタミンDは、睡眠ホルモン「メラトニン」の材料となるセロトニンをつくるのに欠かせない栄養素です。
近年の研究から、ビタミンD不足は睡眠の質を下げる可能性があることがわかってきました。たとえば、約1万人を対象とした大規模調査では、血液中のビタミンD濃度が低い人ほど睡眠障害のリスクが高いという結果が報告されています。
さらに、ビタミンDは体内時計の調整にも関わっています。
体内時計は、就寝・起床のリズムやホルモン分泌、体温などをコントロールする重要な仕組みです。そのため、ビタミンDをしっかりとることは、睡眠リズムを安定させることにもつながります。
サケ、イワシやサンマなど青魚、きのこ類、卵黄など
さらに、ビタミンDは日中に10〜30分ほど日光を浴びるだけでも体内で合成されます。食事に加えて、散歩や日向ぼっこを習慣にすることで、自然と夜のぐっすり眠れる土台をつくりやすくなります。

GABA、テアニン、グリシン|注目成分の快眠効果は?
コンビニやドラッグストアで「GABA入り」や「リラックス効果」と書かれた飲料やお菓子を見かけることが増えました。
「飲めばぐっすり眠れそう」と期待して、よく購入している方も多いかもしれません。
しかし、GABAやテアニンの睡眠改善効果については、まだ科学的な裏付けは十分とはいえません。特にGABAは、本来なら脳に届きにくい成分であり、研究によっては「効果がある」とされる一方で、プラセボ(思い込み)による影響も指摘されています。
一方で、脳の中でGABAを増やすには、GABAそのものを摂るよりも「GABAをつくる材料」を食べるほうが有効と考えられています。肉や魚、大豆製品、卵といった良質なたんぱく質食品には、GABAのもとになるアミノ酸「グルタミン酸」が豊富に含まれています。
また、緑茶に含まれるテアニンは、このGABA合成をサポートする働きや、副交感神経を高めてリラックスを促す作用も報告されています。
一方で、ある程度エビデンスがあると考えられるのが「グリシン」です。
グリシンは、体の深部体温を下げることで寝つきを助けたり、翌朝の目覚めをよくしたりする可能性が示されています。
全員に効くわけではなく個人差がありますが、実際に論文でも効果が報告されています。食品では鶏の軟骨や牛すじ、エビ、カニ、うなぎ、大豆製品などに含まれますが、効率を求めるなら市販のサプリメントを利用するのも一つの方法です。
つまり、GABAやテアニン、グリシンなどの睡眠効果をうわれるは「魔法の成分」ではなく、生活全体を整える中で補助的に役立つものと考えるのが現実的です。気になる方は、食事やサプリを上手に取り入れながら、自身の体に合うかどうかを試してみるとよいでしょう。

眠れないときは、無理に眠ろうとしなくてもいい
「ベッドに入ったのに眠れない」「夜中に目が覚めてそのまま眠れない」——そんな経験は誰にでもあると思います。
けれども、眠れないときに「なんとか寝なきゃ、でも眠れない!」と頑張ると、かえって眠れなくなることがあるので注意が必要です。このような眠れない夜が続くと徐々に「今日も眠れないのでは」と不安になり、布団に入ること自体がプレッシャーになり、不眠症状の引き金になってしまうのです。
大切なのは「眠くなったら寝る」というシンプルな姿勢です。
眠れないのに無理して布団にとどまらず、30分たっても眠れなければいったん寝床を離れてみましょう。照明を落とした部屋で音楽を聴いたり、ノンカフェインの温かい飲み物を飲んだりして、体をリラックスさせるのがおすすめです。自然と眠気が戻ってきたら、再び布団に入りましょう。
「眠れないと困る」という気持ちは誰もが抱くものですが、こだわりを手放すと意外と眠れるようになることもあります。

まとめ:睡眠の老化を前向きに受け止めて、食事改善をはじめてみよう
年齢を重ねると、誰にでも睡眠の老化は訪れます。眠りが浅くなったり、夜中に目が覚めやすくなったり、朝早くに起きてしまうことは、自然な加齢現象のひとつです。
まずは「そんなこともある」と受け止めてみてください。そう考えるだけで、眠れないことへの不安はぐっと小さくなります。そして、少しずつ生活習慣や食事を整えていくことが大切です。
その一歩として、今日から睡眠によい食事を意識してみてはいかがでしょうか。小さな工夫の積み重ねが、安心して眠れる毎日につながっていきます。
この記事でわかったこと
- 年齢による睡眠の変化は自然な加齢現象であり不安はいらない
- 深い睡眠の減少は認知症リスクとも関わるため生活改善が大切
- メラトニンやトリプトファンなど食事工夫が眠りを助ける
- 眠れないときは「無理に眠ろうとしない」姿勢が有効
関連書籍
睡眠の老化と食事改善について、もっと詳しく知りたくなりましたか?
本記事を監修している西多昌規先生の著書「毎朝の目覚めがスッキリする 熟睡できる ぐっすり眠れる食べ方大全」もチェックしてみてくださいね。
▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:毎朝の目覚めがスッキリする 熟睡できる ぐっすり眠れる食べ方大全
著者名:西多 昌規
出版社:文響社
形態:単行本
発売日:2024年11月7日
監修:西多 昌規(にしだ まさき)
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号










