グローバルで活躍する方や多忙を極めるエグゼクティブ層は、夜にまとまって眠ることが難しい生活をしている方も多いはず。
海外出張や国際会議で生活リズムが乱れ、強烈な時差ボケや日中の眠気に悩まされ、パフォーマンスが低下する日もあるでしょう。
だからこそ、睡眠はただの休息ではなく、健康増進やパフォーマンスアップのための「投資」と考え、戦略的に睡眠コントロールをする必要があります。
では、過酷な環境で最高の成果を出すために、どう整えていけばよいのでしょうか。
本記事ではスタンフォード大学の西野精治教授に、分割睡眠の活用法から時差ボケ対策まで、ビジネスアスリートが実践すべき「睡眠投資術」を伺いました。
日本とアメリカで活躍する西野先生が、実際に取り入れている睡眠戦略も教えていただきました。
この記事で分かること
- エグゼクティブの働き方を考える
- 長時間眠れない時に役立つ「分割睡眠」の活用法
- 海外出張で役立つスタンフォード式の時差ボケ対策
世界で活躍するエグゼクティブの働き方こそ「シフトワーカー」
結論から言えば、エグゼクティブ(上級管理職)やグローバルに働く人の生活は、実質的に「シフトワーク」に限りなく近いといえます。
日によって勤務時間や睡眠時間が大きく変動する不規則な働き方のことを指します。医療や福祉、工場などの生産ラインにおける交代制勤務が代表例です。
海外出張、時差のある国とのオンライン会議、朝から深夜まで続くスケジュール。これらは体内時計を大きく乱し、まるで夜勤や交代制勤務のように睡眠リズムを崩してしまいます。
たとえば、日本時間の朝に起きてすぐ米国の夕方に合わせて会議をすると、気づけば起床から12時間以上が経過していることも珍しくありません。そんな状態を日常的に続ければ、心身の疲労は積み重なり、パフォーマンスは確実に落ちていきます。
では、どうすればいいのでしょうか。
まず大切なのは「理想は、まとめて7時間眠る」という常識をいったん脇に置くこと。
エグゼクティブの働き方では、それが現実的に難しい場合が多いからです。代わりに「眠れるタイミングでしっかり休む」という柔軟な考え方を取り入れることが必要になります。
例えば、日中に強い眠気を感じたら1時間程度でも仮眠をとる。これは全員に推奨できる方法ではありませんが、出張や連日の国際会議など、特殊な状況にいる人にとっては有効な戦略です。

過酷なビジネス戦場を生き抜く「分割睡眠」という戦略
激務や出張続きで「夜にまとめて眠るなんて無理」という状況は、現代を生きるビジネスパーソンにとって珍しくありません。
そんなときに役立つのが「分割睡眠」という方法です。まとまった睡眠が取れなくても、短い休息をこまめに挟むことで、脳と身体の回復を促しやすくなります。

長時間眠れないなら、短い睡眠を何度もとってみる
「夜にまとめて7〜8時間眠ること」だけが、理想の睡眠ではありません。
どうしても長く眠れない状況では、短い睡眠を組み合わせる「分割睡眠」も有効な選択肢です。眠れるタイミングで短く眠ることは、立派な休息であり、体の仕組みに沿った自然な対応といえます。
ただし注意点もあります。長く眠りすぎると「睡眠慣性」と呼ばれる強いだるさが起こり、起きた後に仕事や学習に集中できなくなることがあります。
そのため、昼寝は長くても30分程度を目安にしましょう。
一方で、時間に余裕があるときには、昼間に1〜2時間ほど眠ってしまってもかまいません。夜にまとめて眠れない方は、昼間でも眠った方がしっかり回復できます。ただ睡眠慣性を避ける為には、自然に目覚める昼寝を心がける必要があります。
大人も子どもも慢性的な睡眠不足を抱える現代だからこそ、「眠れるときにしっかり眠る」という柔軟な発想を持つことが大切。長時間眠れないことを嘆くよりも、分割睡眠をうまく取り入れ、自分の生活に合った形で睡眠を確保してみましょう。


分割睡眠は代わりにはならない。本来はまとまった睡眠が基本
夜に7〜8時間まとめて眠ることが難しいとき、「昼寝や二度寝を積み重ねれば同じでは?」と考えたくなりますよね。
確かに、短い睡眠をこまめに取ることは、疲労回復や集中力の維持に効果的です。しかし、分割睡眠だけで本来のまとまった睡眠を完全に代わりにすることはできない、という点は理解しておく必要があります。
一般的に人間の睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠を交互に繰り返すことで成り立っています。このサイクルを数回繰り返しながら長い睡眠をとることを「メジャースリープ」と呼びます。
メジャースリープ
一晩にまとめてとる、主となる睡眠のこと。
ノンレム睡眠とレム睡眠が数回にわたってあらわれます。
記憶の整理や体の修復といった重要なメンテナンスが行われます 。
ノンレム睡眠
脳と身体を休める、ぐっすり睡眠(Non-REM)。
浅い眠りから深い眠りまで、段階があります。
特に深いノンレム睡眠は心身の疲労回復に重要です。
レム睡眠
急速な眼球運動を伴う睡眠、つまりRapid Eye Movement の頭文字REMをとってレム睡眠と呼ばれる。
主に記憶の整理や感情の処理が行われる、脳が活発に働く時間帯です。
メジャースリープの中でこそ、記憶の整理、ホルモン分泌、脳と体の修復といった重要な働きがしっかり行われるのです。
一方、短い仮眠や分割した睡眠では、このメジャースリープが十分に成立しないため、根本的な回復力までは得られません。
つまり、分割睡眠はあくまで“補助的な工夫”で、理想はメジャースリープをしっかり確保することです。

海外出張が多い方必見。スタンフォード式最高の時差ぼけ対策
海外出張でつきものなのが時差ボケ。夜眠れずに朝方まで起きてしまったり、日中に強烈な眠気に襲われたりと、仕事に大きく影響しますよね。
時差ボケを乗り切るには、やみくもに我慢するのではなく、まず「なぜ起こるのか」を理解することが大切です。ここでは時差ボケの仕組みを押さえたうえで、実際に使える対処法を紹介していきます。

時差ボケの正体を知る
時差ボケは、体内にある「体内時計(身体のリズム)」と「現地の生活の時間」とのズレが原因で起こります。
人間の身体には、昼間は活動しやすいように体温やホルモンが高まり、夜は休息に向かうように低下する――という24時間に近いリズム(体内時計)が備わっています。
このリズムは非常に強固で、簡単には変わりません。だからこそ、昼は自然と元気に動け、夜になると睡眠に入れるのです。
船旅のようにゆっくり移動する場合には、体が少しずつ現地の時間に合わせて順応できる為、時差ボケは起きません。
しかし飛行機のように短時間で数千キロを移動すると、強制的に現地時間にさらされるため、体内時計が追いつかずに時差ボケが起こるのです。
3時間程度の時差なら大きな問題は感じにくいですが、日本からアメリカのように10時間近い差がある地域へ一気に移動すると、体内時計と現地の生活リズムが大きくずれます。
その結果、夜に眠れない、日中に強い眠気が出る、食欲が乱れるといった不調が現れます。

体内時計の調整は1日1時間が限界
時差ボケを完全になくす魔法のような方法は、残念ながらありません。
理由はシンプルで、体内時計が現地時間に合わせられるのは 1日につき約1時間程度が限界だからです。
さらに、脳や身体は「短い方の時差」に寄せて調整します。
たとえば、日本とサンフランシスコの時差は+17時間ですが、身体は「−7時間のほうが修正が早い」と判断し、そちらに合わせようとします。つまり、大きい差より小さい差を選んで、少しずつ現地時間に近づけていくのです。
ここで重要なのが、プラス方向にずらすのか、マイナス方向にずらすのかで、体への負担が大きく変わるという点です。特にマイナス方向に同調させる場合は、毎日1時間ずつ早起きしてリズムを前倒しにしなければならず、非常に負担の大きい調整になります。
そのため、日本からアメリカ西海岸に行くような「東向きフライト」では、多くの人が強い時差ボケを感じやすいのです。

短期の海外出張なら、あえて時差ボケを気にしない
短期の海外出張や旅行なら、無理に現地時間に同調させようとしないのがおすすめ。
体内時計は1日につき1時間程度しか調整できないため、数日で完全に合わせるのはほぼ不可能です。
むしろ「時差を意識しない」という逆転の発想のほうが、体調を守りやすくなります。
時差ボケ対策で最も重要なのは、大事な予定にベストな状態で臨めるよう準備すること。そのためには「休めるときにしっかり休む」「不要な予定は減らす」など、優先順位をつけて行動するのが現実的です。
- 短期の滞在の際は、無理に現地の時間に同調させようとしない
- 仕事に優先順位をつけて体調を整える無駄な付き合いは極力避ける
- (機内も含め)眠い時は我慢せず眠って休養する
- あえて時差を意識しない手もある
たとえば、現地での会食や付き合いは楽しい時間でもありますが、それによって翌日の商談やプレゼンに支障が出てしまっては本末転倒です。
海外出張や旅行では「現地の時間に合わせる」ことよりも、「大事な予定に最高の状態で臨む」ことこそが本当に大切でしょう。仕事の優先日程を考慮してコントロールしてみましょう。

時差ボケで眠れないときは、夜中に軽めの食事をとるのも悪くない
「夜中に食べるのは、体に悪い」と思い込みがちですが、時差ボケでお腹が空いて眠れないときには、むしろ軽く食べてしまったほうが良い場合があります。
なぜなら、強い空腹のままでは睡眠が浅くなり、ぐっすり眠れないことで、かえって回復が遅れてしまうからです。
空腹が辛いときは無理に我慢するよりも、消化にやさしく手軽に食べられるものを少し口にした方が眠りやすくなり、時差ボケを起こしている脳や身体の回復につながりやすくなります。
ポイントは、準備に手間がかからず、すぐ食べられる軽めのものを用意しておくこと。出張や旅行中なら、ホテルに戻る前にスーパーなどで買っておくと便利でしょう。
日本とアメリカを行き来する、西野先生の場合。
夜中の空腹対処を考慮して、ホテルに行く前にコンビニで消化が早く軽く食べられる野菜などを事前に購入しておくそうです。
夜中に軽く目が覚めて、お腹がすいた場合に買っておいたものを食べて、お腹を軽く満たしてから再度眠りにつくことでリカバリーを上手にとっているそう。
一方で、塩分の多いスナックや加工食品、甘すぎるお菓子などはおすすめできません。かえって胃に負担をかけたり、翌朝の体調を崩したりする原因になり得るため注意してください。
つまり、「夜だから食べない」よりも「必要なときは軽く食べて休む」ことが、時差ボケ対策には効果的ということ。お腹にやさしい自分好みの軽食を準備しておけば、夜中に目が覚めたときに対処できますね。

まとめ:睡眠を戦略的に整えることが成果につながる
激務を極めるビジネスパーソンでも、夜に毎日まとめて眠ることは理想ですが、現実的には難しい方が多いですよね。
その場合、日中の短い仮眠を戦略的に挟む「分割睡眠」が有効です。眠くなったら、眠れるときに短時間でも眠ることが、脳や身体の回復につながっていきます。
さらに、短期の海外出張での時差ボケは「完全に解消しよう」とせず、重要な予定に合わせて体調を整える柔軟さが必要です。
ビジネスアスリートの睡眠術は、睡眠を我慢や根性で乗り越えるのではなく、投資と捉えて自分の体に合った方法で賢く休息を確保する。効率よく睡眠を整え、最高のパフォーマンスを手に入れましょう。
この記事でわかったこと
- グローバルに働く方の生活は体内時計が乱れやすく、睡眠戦略が不可欠
- 分割睡眠を取り入れることで短時間でも脳と体の回復を助けられる
- 時差ボケ対策は「完全に合わせる」よりも大事な予定にベストで臨むことが重要
関連書籍
睡眠の身体のメカニズムについて、もっと詳しく知りたくなりましたか?本記事を監修している西野先生の著書もチェックしてみてくださいね。
▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:スタンフォード大学西野教授が教える 間違いだらけの睡眠常識
著者名:西野 精治
出版社:PHP研究所
形態:文庫判
発売日:2025年02月26日
監修:西野 精治(にしの せいじ)
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)








