「ぐっすり眠った翌朝は、心も身体も軽くなる」──そんな実感を持ったことはありませんか?
実はその裏側では、眠っている間に体内でさまざまなホルモンが分泌され、修復や代謝、目覚めや活力を支えています。
多忙な日々を送る中で、「最近なんだか疲れが取れない」「仕事や勉強のパフォーマンスが上がらない」と感じている方は、「眠っている間に体の中で何が起こっているのか」を紐解くことで、そのメカニズムが見えてくるかもしれません。
今回は、早稲田大学教授で精神科医の西多昌規先生に「睡眠とホルモン分泌の関係」について伺いました。科学的知見に基づいた解説と、すぐに取り入れられるヒントを、一緒に見ていきましょう。
この記事でわかること
- 睡眠と深く関わる成長ホルモンや性ホルモンの働き
- 「睡眠のゴールデンタイム」の本当の意味と、最も重要な眠りのタイミング
- 睡眠不足がもたらすホルモンバランスの乱れと、その体への影響
- 健康的なホルモン状態を保つための具体的な睡眠習慣
睡眠とホルモン分泌の関係
私たちの体は、体温や血圧、血糖値などを常にちょうど良い状態に保とうとしています。この精巧な仕組みを支えているのが「ホルモン」です。
すべてのホルモンは、それぞれの分泌リズムを持っています。
覚醒時に分泌が活発になるホルモンもあれば、ぐっすり眠っている深い睡眠の時に分泌がピークになるホルモンもあります。
ホルモンが示す24時間のリズムは私たちの体内時計によってコントロールされています。これに夜更かしや睡眠不足などが加わるとホルモン分泌のリズムも影響を受けます。
本来、ホルモンは必要なときに必要な量が分泌されることで、心と体のバランスが整います。反対に、分泌が多すぎたり少なすぎたり、出るタイミングがずれてしまうと、体調が乱れたり、日中の集中力やパフォーマンスが落ちてしまうのです。

成長ホルモンは深い睡眠で分泌される
成長ホルモンは、体の修復や成長、代謝に欠かせないホルモンです。
1日を通して少しずつ分泌されていますが、特に入眠直後の深いノンレム睡眠(徐波睡眠)で最も多く分泌されます。
思春期の発達と性ホルモン、睡眠の関係
成長期に大切なのは、成長ホルモンだけではありません。
思春期の心身の成熟には、黄体形成ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)といった性ホルモンも欠かせない存在です。これらのホルモンは脳下垂体から分泌され、女性では排卵や卵子の成熟、男性では精子の形成を促す働きを持っています。
そして、深いノンレム睡眠がとれているときに分泌が高まることがわかっています。
深い睡眠を十分にとっていれば、性ホルモンの分泌が活発になり、思春期の成長を自然に後押しします。しかし、睡眠不足や質の悪い眠りが続くと、思春期の発達が遅れる可能性があるため注意が必要です。
子どもにとっての「睡眠」は単なる休息ではなく、心身の成長を支える大切な基盤です。将来の健康や発達のために、生活リズムを整え、しっかりと夜に眠れる環境を整えてあげることがとても大切です。

成長ホルモンと「ゴールデンタイム」の真実
「夜10時から2時までは“睡眠のゴールデンタイム”」と耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。この時間帯に眠ると成長ホルモンが多く分泌されると言われますが、実際には少し誤解があります。
成長ホルモンの分泌にとって大切なのは“何時に寝るか”ではなく、“眠りに入ってからすぐに深い睡眠に到達できるか”です。
たとえ就寝時刻が遅くなったとしても、眠り始めてすぐに深いノンレム睡眠に入れば、そのタイミングでしっかりと成長ホルモンが分泌されます。夜型の人なら、午前2時に寝ても、2時から4時の間がその人にとっての「ゴールデンタイム」となるのです。
そして、成長ホルモン分泌の最大のピークは、深いノンレム睡眠が始まった数分後に起こることがわかっています。男女差はありますが、健康な若い男性では、深いノンレム睡眠の時間と成長ホルモンの分泌量が比例します。
しかし、いつ眠っても同じではないかと思うかもしれませんが、昼ではなく、夜に睡眠をとるほうが、成長には良いことがわかっています。したがって、「寝る子は育つ」ということわざは、科学的には「夜に寝る子は育つ」が正しいと言うことになります。
成長期の子どもに限らず、夜の睡眠中に分泌されるホルモンは、体の修復や代謝に寄与するため、大人の健康維持のためにもとても大切です。

睡眠不足が「ストレスホルモン」を過剰に?コルチゾールの役割
「ストレスホルモン」として知られるコルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンで、免疫や炎症・代謝・認知機能・気分・成長・生殖・心血管機能・ストレス反応など多種多様な作用をします。
朝方に分泌がピークとなり、夕方以降に低下し、夜間は最も低くなります。眠りから活動を始める朝、コルチゾールは私たちを活動へと導く重要な役割を担っています。
健康な状態では、コルチゾールは「日中に働き、夜は休む」のが理想です。 しかし、睡眠不足になると、この健康的なリズムが乱れてしまいます。
睡眠不足がコルチゾールを過剰に
研究では、一晩徹夜をしてもコルチゾールの全体的なリズムは大きく崩れないことが確認されています。
健康な状態では、朝にコルチゾールが高まり、夜には下がります。明確な概日リズムを持っているホルモンです。
しかし、睡眠不足になるとこのリズムが乱れ、朝のピークは鈍くなる一方で、本来下がるはずの夕方から夜にかけてもコルチゾールの分泌が高まってしまうことがわかっています。
シカゴ大学の研究では、8時間睡眠と比べて4時間睡眠の翌日はコルチゾールが33%増加し、徹夜では45%も上昇することが報告されています。徹夜後の朝型、妙にテンションが高くなるのは、このコルチゾールの影響かもしれません。

コルチゾール過剰がもたらす体へのダメージ
コルチゾールは必要不可欠なホルモンですが、慢性的に過剰に分泌され続けると全身に悪影響を及ぼします。
具体的には、動脈硬化の進行、骨粗しょう症、免疫力の低下、さらには脳の海馬へのダメージによる記憶力や認知機能の低下も指摘されています。
繰り返しとなりますが、コルチゾールは「日中に働き、夜は休む」ことが理想です。つまり、夜にしっかりと眠り、コルチゾール分泌を休ませることが、翌日の健康なパフォーマンスと長期的な健康維持につながります。

テストステロンは睡眠不足で低下し、不妊にも影響
男性ホルモンの代表であるテストステロンは、心身の活力を支える大切なホルモンです。筋肉や骨の維持だけでなく、性機能や生殖能力にも関わっており、「男性らしさ」を支える基盤ともいえます。
テストステロンは一般的に「男性ホルモン」として知られていますが、実は女性の体内でも、副腎や卵巣から微量が分泌されています。女性にとってもテストステロンは、筋肉や骨の維持、性欲、気分の安定など、心身の活力を支える上で大切な役割を担っています。
男性ホルモンであるテストステロンの分泌は、十分な睡眠を必要とします。テストステロンの分泌は睡眠と深く結びついており、特に入眠後の深いノンレム睡眠の時間に増加し、早朝にピークを迎えるリズムを持っています。
ところが、慢性的な睡眠不足が続くとこの分泌が著しく低下し、性欲の低下や睡眠不足による慢性炎症が精子にダメージを与えることなどにつながる可能性など、原因が考えられていますが、詳しいメカニズムはまだ解明されていません。
しかし実際、若い男性を対象にした研究でも、数日間の睡眠不足によって血中のテストステロン濃度が大きく下がり、十分に眠ることで速やかに回復することが確認されています。
男女ともに十分な睡眠は「体を休めるため」だけでなく、心身の若さや生殖機能を守るためにも欠かせないのです。

まとめ:ぐっすり眠って健やかなホルモン状態を保とう
睡眠は単なる休息ではなく、体の修復や心身のバランスを保つホルモン分泌と深く結びついています。
成長ホルモンは深い眠りのなかでピークを迎え、コルチゾールは朝の目覚めを導き、テストステロンは活力や生殖機能を支えます。
これらの働きが乱れると、疲労感や集中力の低下など、様々な身体パフォーマンスの低下につながってしまうのです。
だからこそ、規則正しいリズムと十分な睡眠時間を確保することが大切。良質な睡眠とホルモンの自然な分泌を守り、健康でいきいきとした毎日をすごしましょう!
この記事でわかったこと
- 成長ホルモンや性ホルモンは深い睡眠で分泌が高まる
- 成長ホルモンは入眠直後の深い睡眠が分泌のカギになる
- 睡眠不足でコルチゾールが過剰、テストステロンは低下する
- ホルモンの乱れは疲労や不妊、生活習慣病リスクへ直結する
関連書籍
睡眠の身体のメカニズムについて、もっと詳しく知りたくなりましたか?
本記事を監修している西多昌規先生の著書「眠っている間に体の中で何が起こっているのか」もチェックしてみてくださいね。
▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:眠っている間に体の中で何が起こっているのか
著者名:西多 昌規
出版社:草思社
形態:単行本
発売日:2024年02月07日
監修:西多 昌規(にしだ まさき)
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号









