薬に頼らない不眠症治療の選択肢「認知行動療法(CBT-I)」とは? 博士に聞いてみた。

薬に頼らない不眠治療法認知行動療法CBT-I

不眠に悩んでいませんか? 朝起きても、疲れが残っていて、なんだか眠った気がしない。

夜になるのが怖くて、ベッドに入るのが憂鬱に感じている、など……。

現代を生きる私たちにとって、睡眠の悩みは尽きないもの。

そんな睡眠の悩みに対し、薬に頼らない治療法として注目されているのが「不眠のための認知行動療法(CBT-I)」です。

そこで今回は、東京家政大学 人文学部心理カウンセリング学科教授 岡島義先生に「不眠のための認知行動療法(CBT-I)」について教えていただきました!

睡眠養生 編集長の大木都(さとちゃん)と、対談形式でお届けいたします。

この記事でわかること

  • 認知行動療法とは、どのようなものか?
  • 認知行動療法が効果的なのは、どんなタイプの人?
  • 認知行動療法は、どれくらいで効果が実感できる?
目次

「不眠のための認知行動療法(CBT-I)」とは?

さとちゃん

薬に頼らず不眠を改善できる「認知行動療法(CBT-I)」について、注目が集まってきています。

睡眠養生でのCBT-I解説シリーズは『絶対に岡島先生に取材&ご監修いただきたい!』と熱望しており、待望の本シリーズ公開です!

──本シリーズを解説いただく岡島教授は、不眠治療に関わる医療従事者や専門家のみなさんへも、ご指導なさる先生です。シリーズでは「基礎知識」から「最新の研究」&「治療での患者さんの体験談」まで、詳しくお話を伺っていきます。

睡眠にお悩みをお持ちの方にとって、具体的な認知行動療法のノウハウが学べて、さらに少し心が軽くなるような内容だと思います。

ぜひ最後までチェックしてみてください。

さとちゃん

実は、私自身も様々な研修で岡島先生の認知行動療法(CBT-I)講義を受講してきました!

私自身が岡島先生の講義で指導法を学んだ生徒の1人なんです。上級 睡眠健康指導士・日本睡眠学会 CBT-I研修・スリーププランナーなどの各種講義で、とてもわかり易く学ぶことができました。

眠れない理由は、性格ではなく「習慣」にある

さとちゃん

早速ですが、改めて不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)について、どのようなものなのかお聞かせいただけますでしょうか?

岡島義先生

はい。認知行動療法(CBT)には様々なものがありますが、不眠に特化したものがCBT-Iです。

スクロールできます
項目認知行動療法(CBT)不眠の認知行動療法(CBT-I)
正式名称Cognitive Behavioral Therapy(コグニティブ・ビヘイビオラル・セラピー)Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia
(コグニティブ・ビヘイビオラル・セラピー・フォー・インソムニア)
目的思考、感情、行動の相互作用に働きかけ、様々な心理的問題や精神疾患(うつ病、不安障害など)を改善する不眠症に特化し、睡眠を妨げる思考や行動パターンを修正することで、不眠症状を改善する
対象者うつ病、パニック障害、社交不安障害など、幅広い精神疾患や心理的問題を抱える方不眠障害の診断を受けた方、睡眠薬に頼らず不眠を改善したい方
主な技法行動活性化、エクスポージャー:問題行動のパターンを変え、新しい行動を学習する認知再構成法: 非機能的な思考や信念に気づき、より適応的な考え方を身につける睡眠制限法、刺激制御法、睡眠衛生教育:睡眠を改善するための行動変容に特化認知再構成法: 睡眠に関する非現実的、破局的な信念に気づき,より適応的な考え方を身につける
アプローチ全般的なアプローチで、個人の日中の生活全般の課題に取り組む睡眠に特化したアプローチで、個人の睡眠習慣の課題に取り組む
岡島義先生

どの認知行動療法にも共通しているのは「不調を性格のせいにしない」という考え方です。

──眠れないことを「自分がダメだからだ」「自分は良くない」と自分の性格を責めてしまうと、視野が狭まって改善のための行動や工夫ができなくなり、何も変わらなくなってしまいます。

不眠に関しては、これまでの生活で身についたうまく行かない睡眠習慣が続いているから眠れないのだと考え、その習慣を変えていくことが大きな特徴です。

さとちゃん

そうですよね。「性格だから仕方ない」って、あたかも生まれつきの体質と決めつけてしまうように思い込むことで、識的なブレーキがかかってしまい、改善が難しくなってしまいますね。

行動・考え方・身体反応・感情など、あらゆる習慣を変えていく

岡島義先生

習慣といっても、単に行動面だけではありません。

──寝る前に「今日は眠れるだろうか?」「明日の大事な予定があるから大丈夫だろうか?」などと不安に思う考え方の習慣や、寝ようとすると体がドキドキするなどの身体的な習慣。そして不安になるという感情の習慣など、これらすべてを「習慣」として捉えていきます。

そして、「寝床に入れば、いつの間にか眠れる!」という習慣に変えていくことを目指します

さとちゃん

『不安になる気持ちですら、感情の習慣である』って思えたなら、徐々にでも改善できそう!

そもそも睡眠は自然と行う「生活習慣」の1つなので。考え方や感情も含めて改善できることが、たくさんあると気づけたら(=認知)、快眠にむけた改善チャンスが広がりそうです。

たとえ今は眠れなくて辛いと思っていても「本来は眠れる身体である」んですものね。

認知行動療法は一生続けるものではない

岡島義先生

また、認知行動療法はセラピストが一生お手伝いするものではありません。

──ある程度、ご自身のものにしていただいた後は、ご自身でやれるものに進んで取り組んでいただきます。

新しい習慣が身につけば、まるで自転車に乗れるようになったときの「自力でどこへでも行ける」ような感覚で、いつでも自分自身で軌道修正できるようになるのです。

さとちゃん

認知行動療法(CBT-I)を上手に取り入れることができると、自分にとって、一生ものの快眠につながる技術を習得することになるんですね。

認知行動療法が効果的なのは、どんな人?

さとちゃん

薬を使わなくても改善できて、その後もセルフケアできるようになるのは理想的ですよね。

では、どのような方が認知行動療法に向いているのでしょうか?

「絶対に眠らなきゃ」という思い込みが不眠を招く

岡島義先生

そうですね。「絶対に眠らなければ」という思いが強く、苦しまれている方には効果的な場合が多いです。

──そのようなお悩みをお持ちの方は、眠れない悩みにばかりフォーカスして、視野が狭くなっている傾向にあります。

この場合、臨床の現場では、まず患者さんの話をしっかり聞かせていただいた上で、「今、視野が狭くなっていること」を丁寧にお伝えします。

視野を広げることで、意外にもさまざまな選択肢があることに気づけるようになっていきます

眠れないこと自体を過度に恐れるのではなく、それも一時的な状態として受け入れ、どう対処していくかという視野を広げるために行うのが認知行動療法です。

さとちゃん

自分だけでは、気付けない思考パターンに陥っているってケース、あります!

なぜか「こうだー!」って、いつの間にか思い込んでしまって。

そんな時こそ、専門家のカウンセリングで固執してる自分の思考を解読してアドバイスをもらえたら、冷静に、どう対処すべきか視野が広がりそうです。

良いか悪いかではなく、まずは試してみる

岡島義先生

眠れなくて悩んでいる方から、よくある睡眠改善法について「やった方がいいのか?」と聞かれることが、よくあります。

──しかし、それぞれの方法で期待できる効果は個人差が大きく、その方に合うかどうかはわかりません。ですから、必ず「あなたは、今までそれをやったことはありますか?」と尋ねるようにしています。

もし「まだやったことがありません」と言われたら、「それでは、まずはあなたにとって良いかどうか試してみてください。そして、その結果を次のカウンセリングで教えてください」とお伝えします。

良いか悪いかではなく、まずは試してみる。そして、その結果どうだったかという視点で行動してみることが大切なのです。

「寝床=睡眠」という習慣で自己効力感を取り戻す

さとちゃん

最近、テレビなどで「日本人は7時間以上、眠らなければならない!」といった、一般的な情報を啓蒙する睡眠特集が増えましたよね。

でも、ストイックに頑張りすぎちゃう真面目なタイプほど「7時間もぐっすり眠れない」というNG評価のスイッチが入り、不安になっている方も多いように感じます。

この点は、いかがでしょうか?

「〇時間眠らないといけない」に縛られないことが大切

岡島義先生

そうですね。7時間以上眠れる方ならいいのですが、眠れずに悩んでいる方が「眠らなきゃいけない」とプレッシャーを感じると、かえって眠れなくなる可能性があります。

──頑張って眠ろうとしているのに、実際は5時間程度しか眠れない。すると、焦りや葛藤が強くなって、余計に不眠傾向が悪化しやすくなってしまうんです。

横になっているだけでは、十分に回復できない

岡島義先生

また、「横になっていれば身体は休まる」といった俗説を信じ、布団の中で眠れない苦痛を感じながらも寝床にとどまる方も多くいらっしゃいます。

──しかし、学術的には、実際に眠れる時間だけ布団に入っている方が良いとされているのです。眠れないのに、無理をして布団に横たわっていると、逆に睡眠が悪化してしまう場合もあります

そんなお悩みの方には「眠れないなら、布団から一度出てみましょう」とお伝えしています。

布団から出て過ごすと、どのような変化があるのかを体感してもらい、そこから改善策を導く場合もあるんです。

自己効力感を高めることが、改善につながる

岡島義先生

認知行動療法を経て、ぐっすり眠れたという感覚を実感できると、「自己効力感」が上がってきます。

──すると、次第に「もしかしたら眠れるようになるのかも」と考えられるようになり、凝り固まった思考が緩んでいきます。

その小さな変化を見逃さずに「もしかしたら、もっと良くなるかもしれませんよ」とセラピストが背中を押すと、「まずは試してみよう」となり、ご自身でどんどん工夫できるようになっていきます。

不眠の認知行動療法は、自身でやってみて、自身で気づく、その繰り返しです。

試行錯誤を繰り返しながら、自分に合った方法を見つけていくプロセス、あるいは小さな成功体験を積み重ねて、自信を取り戻していくような感覚に近いと思います。

さとちゃん

こちらのプロセス、例えるならビジネスシーンでは馴染み深い「PDCAサイクル」がうまく回っていない状態を、ちゃんと回せるようにしていくような感覚に近いですね。

実行したからこそ、チェックして、改善ポイントをキャッチアップできると「できた!」という自己効力感も高まりますね!

PDCAサイクルとは

行っている活動の改善や品質の向上を目指すためのフレームワークで、業務改善の手法として馴染みの深い方も多い方法です。

PDCAサイクルのステップと略語の意味は

  • Plan(計画)
  • Do(実行)
  • Check(測定・評価)
  • Action(対策・改善)

の略です。

このフレームワークにそって、仮説から検証までのプロセスをくるくると循環させ、持続的に改善していくので、着実に良いポイントを習得して行くことができるようになります。

認知行動療法は短期間で効果が期待できる

さとちゃん

認知行動療法は、どれくらいの期間続けると効果を実感できるのでしょうか?

睡眠改善なら、1週間で効果が実感できることも

岡島義先生

睡眠のお悩みであれば、取り組み始めてから1週間で、何らかのポジティブな変化や手応えを感じられる方もいらっしゃいます。

──ただし、この1週間のチャレンジは徹底して行わないと意味がありません。もしできない場合は「徹底的にできる1週間を一緒に設定してみましょう」とお話しします。

また「やってみて効果が出なかったらどうしよう」と不安に思う方には、「次のカウンセリング直前の1週間にやってみてください」とお伝えしています。

そうすれば、うまくいかなかった時にすぐに相談できるので、不安感が強い方にも安心して実施していただけるんです。

睡眠効率を高める「睡眠スケジュール法」が最も効果的

岡島義先生

不眠の認知行動療法の中でも、特に効果的だと言われているのが「睡眠スケジュール法」です。

──睡眠スケジュール法は、不眠症の治療に用いられる認知行動療法の一つで、寝床で過ごす時間と実際に眠る時間の差をなくし、睡眠・覚醒リズムを整えることを目的とします。

まず1週間の睡眠記録で平均睡眠時間を把握し、そのデータに合わせて就床・起床時刻を設定することで、睡眠の質を高めることをめざします。

薬を減らしたい人には「筋弛緩法」が効果的な場合もある

岡島義先生

近年は、筋弛緩法を不眠症の主要な治療法として単独で行う場合、その効果は他の認知行動療法の技法に比べて限定的であるという研究結果も出てきています。

──ただ、薬を減らしていく目的や、心身のリラックスを促す目的では効果的な場合があります

筋弛緩法のようなリラクセーションを行った後に薬の効果が出てくるように「条件付け」を行う。すると、筋弛緩法を行うことで自然と眠気が出てきて、薬をやめられる場合があるのです。

ですから、筋弛緩法はオプションとして使うのが良いのかもしれませんね。

さとちゃん

体を動かすことで効果を感じるタイプもいらっしゃると思うので、ご興味のある方には一度試してみるのも良さそうですね。

その際に、自分で模索するよりはカウンセリングやトレーナーのサポートを頂きながら試していくのが良さそうです。

私が初めて一人で試した際には「これで、出来てるかな?」と、考えてしまい、上手にできなかったのですが……。トレーナーにお声掛けいただく指導に沿って動くと、効果を感じやすかった経験があります。

筋弛弛緩法(手のリラックス法)をご紹介しますが、意識させる部位や方法など、様々なパターンがあります。

筋弛緩法の手のリラックス手法を説明するイラスト。左側には緊張した表情の人物が描かれ、右側にはリラックスした表情の人物が描かれています。ステップ1から4までの手順が説明されています。

若い世代でも気軽に相談できる時代に

さとちゃん

認知行動療法を受けるには、プロのカウンセリングを受けるのが良いと思います

しかし、日本では「カウンセリングに行く=病んでいる」という先入観から、抵抗を感じる方も多いように感じます。

最近はいかがでしょうか?

岡島義先生

そうですね。以前よりは、抵抗のある方は減ってきているように感じます。

──最近は経済産業省が「健康経営」を推進していることもあり、カウンセリングを受ける方が増えてきていますね。

私が認知行動療法を始めた頃は、何十年も薬で治療をしてきたものの、なかなか改善せず。やっとカウンセリングに来てみたものの、不安を抱えていたり、「親族には言わないでほしい」とおっしゃったりする方も多かったです。

しかし、今はもっと若い20代や30代の方でも、カウンセリングに来られるようになりました

以前と比べると、かなりハードルは下がってきていると思います。

さとちゃん

それは良いですね!!
一人で悩み続けず、専門家のカウンセリングを受ける方が増えていくのは嬉しい傾向だと思います。

まとめ:認知行動療法(CBT-I)で、より良い睡眠を手に入れよう

認知行動療法は、「眠れないのは性格のせいではない」「絶対に寝なければいけない」といった凝り固まった考え方や習慣を修正することで、薬に頼らずに不眠を改善していくための治療法です。

プロセス解説
習慣を修正する眠れない原因となっている、考え方や行動などの習慣を修正していく。
視野を広げる「絶対に寝なければ」といった思い込みを外し、眠ることも眠れないことも選択肢の一つだと捉える。
実践的なアプローチ実際に眠れる時間だけ布団に入る「睡眠スケジュール法」などが特に効果的。まずは1週間から試してみる。
専門家との連携自己流ではなく、専門家とのカウンセリングで客観的な視点を取り入れる。

不眠に関する悩みを抱えている方は、、ぜひCBT-I(不眠の認知行動療法)が得意な医師に相談することも視野に入れてみてください。しなやかな心を養って、快適に過ごせる毎日をめざしましょう。

この記事でわかったこ

  • 認知行動療法とは、考え方(認知)と行動パターンを変えることで、感情や気分を改善するための心理療法
  • 認知行動療法が効果的なのは、視野が狭くなり、考え方が凝り固まっている人
  • 認知行動療法は、睡眠改善のアプローチなら最短1週間で効果を実感できる場合がある

関連書籍

認知行動療法(CBT-I)について、もっと詳しく知りたくなりましたか?

本記事を監修している岡島義先生の著書「医師・コメディカルのための 不眠に対する簡易型認知行動療法実践ガイド」もチェックしてみてくださいね。

▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:医師・コメディカルのための 不眠に対する簡易型認知行動療法実践ガイド
著者名:岡島 義
出版社:金剛出版
形態:単行本
発売日:2025/06/23

参考文献
スリーププランナーP144認知行動療法(岡島義監修)

監修:岡島 義(おかじま いさ)

*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)

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