体内時計も老化する?柴田重信博士に学ぶ、65歳から知っておきたい時間栄養学

私たちの身体には「体内時計」が備わっており、睡眠やエネルギー代謝など、健康を支える重要な役割を担っています。

しかし、加齢によりこの体内時計が老化し、その影響で心や身体に不調を生じる場合があります。年齢を重ねても健康な身体を保つためには、食事や生活習慣を工夫し、体内時計の機能をしっかりサポートすることが大切です。

そこで今回は、広島大学 特命教授・早稲田大学 名誉教授の柴田重信教授に「高齢者の体内時計」について教えていただきました。高齢者の体内時計がどのように変化するのか、またその変化にどう対応すればよいのかを「時間栄養学」の視点から解説します。

毎日の生活で簡単に取り入れられるケア方法もご紹介しますので、いつまでも健康的で元気に長生きしたい方は、ぜひ最後までお読みください。

この記事でわかること

  • 体内時計が加齢とともに老化するメカニズム
  • 高齢者の体内時計を整えるための食事や運動のポイント
  • 朝食でのタンパク質摂取や魚の効果的な取り入れ方
  • 光環境が高齢者の睡眠改善に重要な理由
  • 閉経後の女性に最適なイソフラボン摂取のタイミング
目次

体内時計は、加齢とともに老化する

本来、人間(ヒト)の体内時計は地球が刻む1日24時間より少し長い周期をもっています。

しかし、地球の24時間周期(明暗周期)に一致させるシステム(同調機構)をもっているので、朝に日差しを浴びることで体内時計はリセットされ、夜には自然な眠りをもたらし、朝になると自然と目覚めがくるようになります。

実は高齢になると、この体内時計にも老化の影響が現れることがわかっています。

体内時計は、私たちの睡眠や食欲、ホルモン分泌などを調整する重要な仕組みです。しかし加齢によってリズムが乱れやすくなり、健康や生活の質に影響を及ぼすことがあるのです。

体内時計の老化がどのように変化し、心身にどのように影響するのか、詳しく見ていきましょう。

体内時計|厚生労働省

脳の時計の老化

高齢者の体内時計は、加齢とともにその機能にさまざまな変化が生じます。

体内時計の「主時計」として働く脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)は、約24時間の周期を刻む仕組みを持っていますが、この機能は老化の影響を受けるのです。

動物を使った研究によれば、高齢動物は時計遺伝子の発現リズムが低下し、周期がわずかに短くなることが確認されました。また、明暗の切り替わりに応じた調整能力も低下しました。

ヒト(人間)の高齢者においても、体内時計の調整に重要な役割を担う「光」への反応が弱くなることがわかっています。実験では、若年層と比べて高齢者が必要とする光の強度が10倍にもなる可能性が示唆されています。実際高齢になると白内障になり光の通りが悪くなる方もおられますし、白内障の治療をしたら見え方も良くなったがリズムも良くなったという方もおられます。

つまり高齢者は、光の強度が不十分だと体内時計が環境に同調しにくくなり、睡眠や覚醒のリズムに影響を及ぼす可能性があるということです。

さらに、加齢に伴い睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌量も減少します。この変化は、高齢者の睡眠障害と関連しているようです。メラトニン分泌の低下は、体内時計の位相が前進し、朝型の生活になりやすいことにも関係していると考えられます。

昼夜のリズムを維持するためには、明暗がはっきりとした環境で過ごすことが大切です。特に高齢者は、日光を十分に浴びたり、室内の照明を適切に調整したりすることで、体内時計の機能をサポートできます。

たとえば、朝起きたら窓辺で日光浴をし、日中は明るい光を取り入れ、夜間は暗い環境を意識するのが効果的です。光環境や生活習慣に気を配るだけでも、睡眠の質の向上や健康増進につながります。

末梢臓器にある時計の老化

末梢臓器にある体内時計も、加齢によって変化します。

身体の中には「体内時計」がいくつもあり、肝臓や腎臓などの臓器ごとに独自のリズムを持っています。年齢を重ねると、この体内時計のリズムに少し変化が起こります。リズム自体は保たれているものの、振れ幅が少し弱くなり、時間の進み方が早くなる傾向があります。

動物の研究では、明るさの変化に合わせて体内時計が調整されるスピードが、年を取るほど遅くなることが分かりました。これは、光の刺激に体が順応しにくくなるためと考えられています。また、脳と臓器の体内時計が異なる方向に反応することもあり、環境の変化に対応するのが難しくなる場合があるようです。

ストレスや運動が体内時計に与える影響も、年齢を重ねると弱まることが分かっています。たとえば、体内時計がコントロールしている酵素の働きが弱くなると、代謝に影響が出る可能性があります。特に、肝臓の体内時計が調節する酵素の働きが低下すると、食べ物から栄養を効率よく吸収・処理する力が衰えることがあるようです。

興味深いことに、若いマウスと年を取ったマウスを比べた研究では、体内時計自体のリズムには大きな違いがありませんでした。しかし、環境の変化や生活習慣の乱れに対応する力は、年齢を重ねると落ちてしまうのです。

末梢臓器の体内時計の機能を維持するためには、適度な運動やストレス管理、規則正しい生活習慣の維持が効果的です。これにより、体内時計全体のバランスを保ちやすくなり、心身共に健康で快活な状態を維持しやすくなります。

具体的に、65歳を超えたらどの様な栄養摂取を意識すれば良いのでしょうか?

高齢者の体内時計をサポートする食べ物

加齢とともに体内時計も老化しますが、日々の食事内容を工夫することでその機能を維持しやすくなります。

特に、体内時計の調整には朝食の内容を見直すことが効果的です。ここでは、高齢者のフレイル予防や体内時計の調整に役立つ食品、その具体的な摂取方法について解説します。

朝食の魚(DHA・EPA)で体内時計の調整をサポート

高齢者の体内時計を整えるために、朝食に魚を取り入れるのは特に効果的です。

魚に含まれる不飽和脂肪酸(DHA・EPA)は、体内時計の位相を調整する作用があることが研究で示されています。朝食で摂取することで、その後の体内時計のリズムを整える「信号」として機能すると考えられます。

朝食に魚を食べるなら、ご飯やパンなどの炭水化物と一緒に摂るのがおすすめです。炭水化物を摂ることでインスリンが分泌され、GLP-1というホルモンの働きが促進されます。このGLP-1が体内時計のリセットに関与しているため、朝食には魚と炭水化物を一緒に食べるのが効果的です。

睡眠養生

食物繊維たっぷりの朝食も体内時計の調整に効果的

高齢者の体内時計を整えるには、朝食にたっぷりの水溶性食物繊維を豊富に含む食事を摂ることも効果的です。

水溶性食物繊維は大腸まで届き、腸内細菌によって発酵・分解されると、短鎖脂肪酸と呼ばれる代謝物が産生されます。この短鎖脂肪酸には、酢酸、酪酸、プロピオン酸などがあり、これらが体内時計の調整に影響することが研究で明らかになっているのです。

▼水溶性食物繊維を含む食品

  • 果物(りんご、苺、桃、みかん など)
  • 野菜 (人参、ほうれん草、大根、玉葱 など)
  • 芋類(じゃがいも、里芋、長芋 など) その他
睡眠養生_根菜

具体的には、短鎖脂肪酸がGLP-1というホルモンの分泌を促進します。GLP-1は膵臓でインスリン分泌を活性化させると同時に、体内時計のリズムを調整する役割を持つホルモンです。このため、朝食に水溶性食物繊維を取り入れることで、末梢臓器の時計遺伝子をリセットされて体内時計の調性に役立ちます。

さらに、食物繊維の摂取は便秘解消にも効果的です。高齢になるにつれて便秘に悩む方も増えます。便秘が改善されると、腸内環境が整い、それが全身の健康や睡眠の質の向上にもつながると考えられます。特に高齢者は、食物繊維の摂取が不足しがちであるため、朝食に野菜や果物を積極的に取り入れることが重要です。

高齢者が骨や筋肉を維持するための時間栄養学

高齢者が健康を保つためには、骨や筋肉を維持することが非常に重要です。そのためには、朝のタンパク質摂取が効果的であることが分かっています。

しかし、栄養だけでは不十分で、少しでも体を動かすことが大切です。施設で実施した研究では、歩行が可能な高齢者に適切なタンパク質を補給したところ、筋肉の健康が改善しました。

高齢者のフレイル予防には、朝のタンパク質摂取が効果的

高齢者のフレイル予防には、朝のタンパク質摂取が重要であることが研究から明らかになっています。

フレイルとは「か弱さ」「こわれやすさ」を意味し、健康寿命を失いやすい高齢者を指す言葉です。健康を保つためには細やかな配慮が必要ですが、早期発見と適切な対応で予防や改善が期待できます。

疫学調査では、フレイルの進行が少ない人ほど朝食のタンパク質摂取量が多い傾向がありました。しかし、日本人の多くが朝食で十分なタンパク質を摂れておらず、特に女性にその傾向が顕著です。

研究によると、1日の食事でタンパク質を均等に摂る場合と、夕食に集中して摂る場合を比較すると、夕食に偏って摂る方が筋肉の合成が低下することが分かりました。

一方で、朝食で多めにタンパク質を摂取した場合、均等に摂るよりも筋肉の維持に効果的である可能性が示されています。

さらに、マウスを使った実験では、朝にタンパク質を多く与えると筋肥大が促進されることが確認されました。この結果は、朝の摂取が筋肉の分解を抑え、効率的に合成を進めるためと考えられています。

また、朝にタンパク質を摂ることが効果的な理由の一つとして、筋肉の成長を促す男性ホルモンのテストステロンなどのホルモンが朝に最も高く分泌されることも挙げられます。

朝のタンパク質接種により、インスリンの過剰分泌を防ぎ、より健康的なエネルギー代謝が促されます。高齢者がフレイルや筋力低下を防ぐためには、朝に十分なタンパク質を摂取し、1日3食をバランスよくとることが大切です。

参考
◉フレイルとは(長寿ネット)
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/about.html
◉夕食や昼食ではなく朝食にタンパク質を補給すると、高齢者の骨格筋量に効果的である
Supplementation of Protein at Breakfast Rather Than at Dinner and Lunch Is Effective on Skeletal Muscle Mass in Older Adults
アトロジン1の昼夜振動と体重負荷のタイミング依存的な筋萎縮予防効果
Day-Night Oscillation of Atrogin1 and Timing-Dependent Preventive Effect of Weight-Bearing on Muscle Atrophy
◉毎日の食事における食事性タンパク質摂取量の分布は、筋時計を介して骨格筋肥大に影響を与える
Distribution of dietary protein intake in daily meals influences skeletal muscle hypertrophy via the muscle clock

食欲がない朝は「スケトウダラを使った、かまぼこ」がおすすめ

高齢になると胃腸の機能が弱くなり、朝の食欲が低下してタンパク質をとるのが難しい場合もあります。

そんなとき、スケトウダラを原料とした「かまぼこ」や「カニカマ」を取り入れてみましょう。スケトウダラ由来のかまぼこには、瞬発的な動きや力を発揮する「速筋」が豊富に含まれています。

高齢者を対象に、朝食にかまぼこを食べてもらう研究を実施すると、高齢者の筋肉量維持や増加に役立つ可能性が示唆されたのです。

赤身の魚に多い「遅筋」は、長時間持続的に筋肉を使う際に役立ちます。一方でスケトウダラは「速筋」が多く、高齢者の転倒予防や日常生活での動きに適しているのです。

乳タンパク質と比べても、スケトウダラ由来のタンパク質は筋肉量を増やす効果が高いとされています。また、これらのタンパク質は体内でペプチドやアミノ酸に分解され、血圧を下げるなどの健康効果をもたらすペプチドも含まれています。

さらに、かまぼこやカニカマは消化がよく、胃腸が弱っている方でも無理なく摂取できる点も大きな利点です。朝食や午前中の軽食に取り入れることで、高齢者の筋肉量を維持・増加させるサポートが期待できます。

参考:朝のスケトウダラの速筋タンパクの摂取が高齢者の骨格筋量および筋力に及ぼす影響-ランダム化二重盲検並行群間比較試験-

朝のイヌリン摂取+週3回の運動で骨や筋肉の衰えを予防

高齢者の骨や筋肉の衰えを予防するためには、朝のイヌリン摂取週3回程度の運動を習慣化するのが効果的です。

朝のイヌリン摂取とは?

イヌリンは水溶性食物繊維の一種で、腸内環境を整えるだけでなく、カルシウムの吸収を促進します。研究では、高齢者が朝にイヌリンを摂取すると、筋肉量の減少が抑えられ、骨密度の低下も防げることが確認されています。

▼イヌリンを含む食材

  • チコリ
  • 菊芋
  • ニンニク
  • ゴボウ
  • 玉ねぎ など

おすすめの運動

運動に関しては、週に3回程度のボート漕ぎ運動が推奨されています。ボート漕ぎ運動は全身を使うため、筋力維持に効果的です。トレーニングジムに通っている方はボート漕ぎ運動の器具(ローイングマシン)を選んでみるのもよいでしょう。

また、自宅でもゴムバンドを使ってボート漕ぎの動きを再現できるので、ゴムバンドを活用してご自宅でも始められます。

ボート漕ぎ運動が難しい場合は、ウォーキングや簡単な体操でも大丈夫です。車を使わず徒歩で買い物へ行ったり、大きく身体を動かして家事をしたり、活動的に過ごすだけでも骨や筋肉が鍛えられてフレイル予防につながります。週3回以上を目指して継続してみましょう!

閉経後の女性は夕食に大豆イソフラボンを摂取するのが効果的

閉経後の女性が骨密度を維持するためには、夕食にイソフラボンを摂取するのが効果的です。

イソフラボンは大豆製品に豊富に含まれ、女性ホルモンに似た作用を持つため、骨粗しょう症のリスクを軽減する効果が期待されています。時間栄養学の視点で見ると、イソフラボンのその効果を最大限に引き出すには夕方の摂取がおすすめです。

動物の研究によれば、イソフラボンを夕方に摂取することで、骨密度の低下を抑える効果が朝の摂取時よりも顕著に現れることがわかっています。

閉経後の女性は、夕食に納豆や豆腐などヘルシーな大豆食品を取り入れてみましょう。骨や筋肉の健康を維持することは、快活な毎日をサポートし、健康寿命を延ばすことにつながります。

参考:時間栄養学を視点とした機能性食品成分の探索と応用研究
Basic and applied studies of chrononutrition based on development of functional foods and nutrients

高齢者の睡眠改善には「昼間の強い光」が重要

高齢者が睡眠を改善するためには、昼間に十分な光を浴びることが非常に重要です。

高齢者は体内時計を調整する能力が低下しやすく、光によるリズムの同調が特に弱まる傾向があります。そのため、昼間に強い光を浴びて、体内時計の調整を意図的に行うことが大切です。

光を浴びることは、夜間のメラトニン分泌にも影響します。朝にタンパク質を摂取した場合でも、暗い部屋で過ごすとメラトニンの生成が十分に行われません。昼間に明るい環境で過ごすことが、メラトニン分泌を促し、睡眠の質を高める条件となります。

高齢者が昼間に光を浴びる方法として、屋外に出るのが理想です。しかし、身体的な理由で屋外に出るのが難しい場合は、窓際で過ごしたり、自然光が差し込むリビングなど明るい部屋にいることを心がけてみましょう。

睡眠養生_老人の睡眠

研究によれば、強い光を浴びることでメラトニン分泌が正常化し、不眠の改善や夜間の睡眠維持に役立つことが確認されています。光を浴びる時間帯は、朝から昼にかけてが最適です。

高齢者自身が安心して外出できるよう、可能な限り家族やパートナーが同席したり、ヘルパーさんなどの支援をもらいながら支えてあげましょう。

まとめ:体内時計が老化しても、食事+生活習慣の改善で機能をサポートできる!

体内時計は加齢とともに老化し、リズムが乱れることで健康や生活の質・睡眠の質に影響を及ぼします。

しかし、光や食事、運動のタイミングによって体内時計の機能をサポートすることが可能です。朝のタンパク質摂取やDHA/EPAを含む魚の摂取、イヌリンを活用した食事と適度な運動、女性なら夕食時のイソフラボン摂取など、日々の生活を少しだけ工夫することで筋肉や骨の健康を維持できます。

小さな行動が、将来の健康長寿につながります。今日から直ぐに意識して取り組み、より健やかな毎日になるように意識してみましょう。

関連書籍

時間栄養学について、もっと詳しく知りくなりましたか?

本記事を監修している柴田重信先生の「65歳からの知っておきたい時間栄養学(食べる時間こそが最高の健康法)」をチェックしてみてくださいね。

▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:
65歳からの知っておきたい時間栄養学(食べる時間こそが最高の健康法)
著者名:柴田重信
出版社:光の家協会
形態:単行本 / kindle版/楽天Kobo版
発売日:2024/2/17

監修者

*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)

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