女性の睡眠:ライフステージ別に起きる不眠リスクとは?

女性の不眠は、ライフステージの変化とともに多様な悩みを引き起こします。

妊娠・出産、育児、介護。女性ならではの身体的な変化に応じて不眠の要因は実に幅広く、ホルモンバランスの揺らぎや、女性活躍などの社会的役割の重なりが複雑に絡み合っています。

そこで今回は、東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科教授の岡島義先生に、産前から産後、さらには夫婦間の協力や地域・職場のサポート体制まで、女性が直面する睡眠課題を多角的に伺いました

認知行動療法(CBT-I)の視点から、今日から取り入れられる改善ヒントもご紹介します。自分の睡眠の質に悩む女性はもちろん、女性社員の活躍方法に悩む人事の方も、ぜひ最後までご覧ください。

この記事でわかること

  • 女性のライフステージ(月経、妊娠・出産、更年期など)と睡眠の深い関係
  • 女性の睡眠に関する社会的な課題
  • つらいとき、誰かに頼り、サポートをうけることの重要性
目次

女性の睡眠はライフステージごとにケアすることが大切

女性の睡眠は、妊娠や出産といった変化が大きく影響しています。それぞれのステージについて解説しますが、特に育児中の母親の不眠は母子ともに大きな負担となるため、早期の対策を講じることが大切です。

ライフステージに合わせた女性の睡眠ケア

女性の睡眠を守るには、ライフステージごとに切れ目なくサポートすることが大切です。

まず子どもの頃から「睡眠は毎日の元気をつくる土台」と伝え、自然と良い習慣を身につけられるようにしておくと、将来の妊娠・出産期にも役立つ大きな財産になります。

忙しさからつい睡眠時間を削ってしまうこともありますが、幼いころから「睡眠の大切さ」と「しっかり眠ったときの心地よさ」を知っておくことは、一生の健康を守る大切な財産になります。

また年齢を重ねていく中でも、睡眠課題を抱える女性ステージは毎月の月経随伴症状や出産、更年期と様々あります。

生理周期と睡眠:PMS(月経前症候群)の影響

女性の体は、月経周期を通じて女性ホルモンの大きな変動を経験します。このホルモンバランスの変化が、睡眠の質に影響を与えることが少なくありません 。  

特に、排卵から月経が始まるまでの期間(黄体期)は、プロゲステロンというホルモンの分泌が増加し、日中の眠気が強くなったり、PMS(月経前症候群)の症状として寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりと、睡眠の質の悪化を感じる方が多いです。 

このような時期の不眠やストレスの悪循環を避けるためには、自身の月経周期を記録し、睡眠の変化が起こりやすい時期を把握しておくことが大切です。 

また、月経や妊娠による鉄欠乏が、脚のむずつきや不快感で眠りが妨げられる「むずむず脚症候群」の原因になることもあるため、鉄分を意識的に摂取することも重要です。

▼参考・出典
2021年度市民公開講座~女性特有の睡眠の悩み~②|国立精神・神経医療研究センター
月経随伴症状 ―機能性(原発性)月経困難症と月経前症候群/月経前不快気分障害―
PMSが引き起こす不眠と眠気の原因と対処法

妊娠期から始める睡眠リテラシー教育

妊娠期に入ったら、産前教育の段階で睡眠リテラシーを高めることが重要です。お母さんが心身ともに健やかであれば、胎児や生まれてくる赤ちゃんにも良い循環が生まれます。

とくに妊婦さんの場合、「眠れないときは日中に仮眠でしのぐ」という旧来型の対処法では十分でないケースもあります。眠れない夜が続くときは、CBT-I(不眠のための認知行動療法)を活用し、就床と起床リズムを整えることが安心への近道です。

そして出産後は、育児に追われがちな毎日の中でも、お母さん自身の睡眠を継続してサポートする視点が欠かせません。

夜間の授乳やお世話を交代制にしたり、外部の手を借りたりしながら、少しでも休める時間を確保すると、育児ストレスがやわらぎ、家族みんなの笑顔が増えていきます。

育児中の睡眠不足と心の関係

夜間の授乳やお世話が続くと、お母さんの睡眠はどうしても削られがちです。

母親の睡眠と心理状態が「育児態度」にどのように影響するかを追跡調査をしたところ、とくに0歳児期は、母親自身の不眠・睡眠不足が深刻になりやすく、それによってしかるといった感情的な対応が増えてしまいます。

一方で愛情深い関わりが減ってしまうことがわかりました。この時期は、「どうすればしっかり休めるか」を早い段階でサポートすることが欠かせないと考えられます。

一方、不眠・睡眠不足による感情的な対応は3歳ごろまで一貫して続きますが、愛情深い関わりについては、子どもが1歳を過ぎる頃になると、「お母さんの心理的柔軟性」へと移り変わる傾向が見えてきました。

枠にとらわれず、気持ちを切り替えながら子どもと向き合えるかどうかが、親子の穏やかな毎日につながりやすいようです。

こうした結果を踏まえると、取り組みのポイントは二つあります。

●第一に、眠れない夜が続くときには、短い仮眠やパートナーとの交代などで「どう睡眠を確保するか」を具体的に整えること。

第二に、子どもに細かな指示や制限を重ねるより、「成長を温かく見守る」おおらかなスタンスで育児に向き合うことです。

「夜間の睡眠」と「日中の関わり方」の両面からアプローチすることで、お母さんの心と体にゆとりが生まれ、親子ともに笑顔が増えていきます。

更年期と睡眠:ホルモンバランスの変化と向き合う

40代後半から50代にかけて訪れる更年期も、女性の睡眠に大きな影響を与えるライフステージです。

この時期は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少するため、不眠や睡眠中の覚醒、睡眠の質の低下といった悩みを抱える方が増える傾向にあります。

更年期には、睡眠の悩みに加えて、ほてりや発汗、イライラ、気分の落ち込みなど、さまざまな身体的・精神的な症状が現れることがあります。

これらの症状が、さらに睡眠を妨げる悪循環を生むことも少なくありません。

また、更年期は「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」のリスクが高まる時期でもあります。女性ホルモンであるエストロゲンの低下は、気道を支える筋肉の機能にも影響を与え、睡眠中に気道が狭くなったり、塞がったりしやすくなるためです。

これにより、更年期には女性の睡眠時無呼吸症候群の発症率が3〜4割増えるとも言われています 。

睡眠時無呼吸症候群の主な症状としては、いびき、日中の強い眠気、起床時の喉の渇き、集中力の低下、イライラなどが挙げられます 。これらの症状は、更年期によるものと誤解されがちですが、睡眠時無呼吸症候群が原因で脳が十分に休まらず、前頭葉の機能が低下している可能性も考えられます。 

もし、いびきをかくようになった、日中の眠気がひどい、起床時に喉が渇くといった症状に心当たりがある場合は、痩せている方でも睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑い、早めに専門医に相談することが大切です 。

女性の睡眠障害|厚生労働省
Global prevalence of sleep disorders during menopause: a meta-analysis
(更年期における睡眠障害の世界的有病率:メタ分析)

女性の不眠改善にはパートナーからのサポートや社会的支援が必須

女性が不眠に悩む背景には、パートナーの協力や社会的な支援が不足しているという現実があります。女性だけが家事や育児の負担を負ってしまうと、心身の健康が損なわれ、不眠につながることも少なくありません。

ここでは、夫婦間の意識改革や、外部のサポートを上手に活用することの重要性について解説します。

「家庭のことは女性がやるもの」という価値観を取り払う

妊娠中や育児期の睡眠を語るうえで、「女性だけが頑張る」という構図は避けたいところです。

実際、今の日本社会では男女平等雇用やダイバーシティの価値観が根付きつつありますが、家庭内には依然として「家事や育児は女性の役目」という旧来の役割意識が残りがちです。

まだまだ一部の男性側には「育児は妻がやるもの」という思い込みがあり、対して女性側には「夫に頼んでも非効率かもしれない」「自分でやった方が早い」という遠慮が生まれやすい傾向があります。その結果、育児負担が一方に偏る悪循環が起こります。

こうした状況では、女性は不眠や睡眠不足になりやすく、男性は家庭で必要なスキルを学ぶ機会も奪われてしまいます。

一方で、最近は男性の育休取得が進み、協力しやすい環境が整いつつあります。企業の制度や自治体の支援も拡充され、夫婦で家事・育児を分担しやすい社会へと少しずつ変わってきました。睡眠改善についても「母親だけが頑張る」のではなく、家族で一緒に取り組むことが重要です。

例えば夜間の寝かしつけや授乳といった育児を交代制にする、パートナー向けの睡眠教育を共有するなど、できることから少しずつ始めてみるといいでしょう。

誰かに頼ることは、決して悪いことではないと知る

上手に外部のサポートを活用する方法も取り入れてみましょう。

ベビーシッターや家事代行、保育園の一時預かりなど、外部のサポートを利用することは決して恥ずかしいことではありません。

むしろ育児で自分の時間が取れなかった母親の「リフレッシュができた」「よく眠れた」「自分の時間が作れて、元気が戻った!」という経験は、お子さんにもご家族にも、そしてご自身にも大きなプラスになります

「子どもを預けてまで休むのは……」と遠慮される方もいらっしゃいますが、常に子どもと離れずに一緒にいると、かえってイライラが募る場面もあるものです。短い時間でも離れてリフレッシュすることで、余裕をもってお子さんに愛情を注げるケースが少なくありません。

ひとり親世帯や実家のサポートが得にくいご家庭では、利用できる行政サービスや地域資源を調べておくと安心です。家計や時間の負担を抑えながら活用できる仕組みも増えていますので、「まずは情報を集める」ことから始めてみてください。

大切なのは、負の側面(産後うつや慢性的な睡眠不足など)を数えることではなく、それらを和らげる緩衝要因を意識的に増やすことです。

パートナーとの役割分担をすり合わせたり、一緒に頑張って、一緒に休み、辛いことも家族で乗り越える体験を重ねることで、幸福感やウェルビーイングの向上に直結していく。

子育ても、家事も、「女性だけが頑張る」アプローチにならないよう、家庭環境・社会的な環境をより良い未来につなげて見直していきましょう。

まとめ:女性の不眠をやさしく乗り越えるために

女性の不眠は、妊娠・出産、育児、介護などライフステージの変化と深く結び付いています。

睡眠の質を整えることはもちろん大切ですが、それだけでは十分とはいえません。夫婦で役割を分かち合い、行政サービスやベビーシッターなど外部の支援を上手に取り入れることで、心と体の負担をぐっと軽減できます。

眠れない夜が続くときは、CBT-I(不眠のための認知行動療法)のような専門的アプローチを試すとともに、孤独感やストレスを抱え込まないことが何よりも重要です。遠慮せずにパートナーや家族、友人、医療・福祉の専門家へ相談し、「ご自身を大切にする時間」を少しでも確保してみてください。

睡眠の悩みは一人で抱えるものではありません。まわりと協力し合い、お互いに支え合うことで、自身の笑顔が増え、家族全体のウェルビーイングが高まります。

まずは小さな一歩から――あなたが心地よく眠れる環境づくりを、今日から始めてみましょう。

この記事でわかったこと

  • 女性は妊娠や出産、育児、介護などライフステージが睡眠に影響することが多い
  • 女性の睡眠を改善するには、パートナーや社会の理解とサポートが不可欠
  • ベビーシッターや一時預かりなど、サポートを上手に利用し、自信を大切にする時間を作ることも大切

関連書籍

認知行動療法(CBT-I)について、もっと詳しく知りたくなりましたか?

本記事を監修している岡島義先生の著書「1時間多く眠る! 睡眠負債解消法」もチェックしてみてくださいね。

▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:1時間多く眠る! 睡眠負債解消法
著者名:岡島 義
出版社:さくら舎
形態:単行本(ソフトカバー)
発売日:2020/8/6

監修:岡島 義(おかじま いさ)

*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)

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