朝起きられずに学校に行けない――そんな子どもに悩む保護者が多くいらっしゃいます。
遊んで睡眠時間を取らず、結果的に朝に起きれない場合もありますが、多くのケースは体内のリズムや脳の働きに関わる“コンディションの乱れ”が背景にあるというものです。
この場合、お子さま自身も学校へ登校したい気持ちはあるものの、寝ようとしても眠りにつけない、上手に朝に起きられない自分に悩んでいたりします。
そこで今回は、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)の神林崇教授に、子どもの朝の不調と睡眠の関係について教えていただきました。
子どもの起床課題に悩む保護者のみなさまへのヒントを見つけられるよう、詳しく解説します。ぜひ最後まで読んでみてください。
この記事でわかること
- 子どもの年齢による睡眠時間の変化とは?
- 思春期以降に夜型になるのは一般的なのか?
- 親がチェックしておきたい、起立性調節障害や睡眠相後退症候群
睡眠の基礎知識:児童は朝型、思春期以降は夜型の傾向がある
まずは、保護者の方もご自身が思春期だったころを思い返してみてください。
夜遅くまでゲームやテレビを楽しんだり、勉強や友だちとのやりとりに夢中だったり、いつの間にか深夜になっていた経験はありませんか?
思春期の子どもが夜型になっていくことは、実は特別なことではありません。思春期の成長とともに、自然に起こる変化のひとつです。
はじめにその基本的な仕組みを知り、子どもの自然な生活習慣の変化に寄り添えるよう思春期に起こっていく睡眠について、保護者のみなさんも基礎知識を深めていきましょう。
幼少期〜10代前半までは、朝型が多い
10代前半までの子どもは、一般的に「朝型」の体内時計が多いとされています。
幼稚園児では夜8時ごろまでに就寝して朝6時ごろに起きる、小学生では夜9時ごろに寝て7時ごろに起きるのが、多くの子どもに見られる睡眠サイクルです。
現代では共働きが増え、子どもも一緒に家族全体の就寝時間が後ろ倒しになっているケースもありますが、多くの場合はこのような睡眠サイクルを意識して、子どもを寝かせているご家庭が多いかと思います。
思春期以降(10代半ば~30代前半くらいまで)は夜型傾向に
続いて中学生から高校生、そして大学生。この時期は年齢が上がるにつれて、自然と就寝時刻が遅くなります。
そして高校生のころが、最も夜型になりやすい時期だと考えられています。特に男性はこの傾向が強いとされており、思春期になるにつれて夜型生活に変わっていくことは決してめずらしいことではありません。

興味深いことに、同じような傾向は動物の世界にも見られます。
たとえば、サルでも若い個体は夜型になりやすいことが知られており、これは人間以外の動物にも共通する「生物学的な特性」と考えられます。
学生の夜更かしはスマホのせい……とは、限らない?
現代では、スマートフォンの使用が子どもの夜更かしの一因とされています。
しかし、それがすべての原因とは限りません。体内時計が夜型に傾いたことで眠気が起こらず、結果的にスマホを使って過ごしている間に、どんどん目が冴え、時間が過ぎる……というケースも考えられるのです。
もちろん、スマホの過度な使用が生活習慣を乱す要因になることは確かで、学生のうちから使い方には配慮が必要です。
ただし、スマホを取り上げたからといって、すぐに早寝できるとは限らないという点も、理解しておく必要があります。
昭和なら深夜ラジオ、平成ならテレビやゲームと、時代によってハマっていたツールは変わりますが、若者世代の夜型は昔から知られています。
では、なぜそもそも “若者は早く眠れない” のでしょうか? ここに関係している注目ポイントが、身体の中に備わっている「睡眠禁止ゾーン」という時間帯です。
「早く寝なさい」と言われても、すぐには眠れない理由は?
普段から夜遅くまで起きている子どもに「今日こそは、早く寝なさい」と伝えても、残念ながらすぐには眠れません。
人間には、眠くなりやすい時間とそうでない時間があり、これは体内時計によって自然にコントロールされています。
特に、普段の就寝時刻の2~3時間前は、脳がもっとも覚醒しやすい「睡眠禁止ゾーン」と呼ばれる時間帯にあたります。

「睡眠禁止ゾーン」は、脳の覚醒度が高まり、勉強や作業がはかどりやすくなるタイミングでもあります。
この時間に集中して作業に取り組むと、目が冴えてどんどん調子が上がり、気づけばすっかり夜更かし……という悪循環に陥りがちです。
とくに現代の学生は、夕食後にスマホやゲームを始めると、楽しいコンテンツやブルーライトの刺激で眠気がさらに遠のいてしまいます。このような状況に、「睡眠禁止ゾーン」が大きく関わっている可能性があります。
朝起きられない悩みを抱える方こそ、「睡眠禁止ゾーン」の影響を意識することが大切です。思春期はとくに夜型に傾きやすく、「睡眠禁止ゾーン」の影響を受けやすい時期でもあるため、遅寝遅起きの習慣が定着しやすくなることがわかっています。
「ただの夜ふかし」ではないかもしれない——起立性調節障害という可能性
思春期の夜型化は誰にでも起こりうる自然な変化ですが、中には朝の目覚めが極端に困難で、日常生活に支障をきたす症状もあります。
このような場合は、夜型体質だけではなく「起立性調節障害(OD)」と呼ばれる血圧調整の乱れが背景にあるかもしれません。
日本小児科学会のレポートによると、軽症も含めると中高生の10%(70万人)の患者がいるとも推定されています。ひとクラスに数名いるケースもあり、意外と身近にある疾患です。
起立性調節障害になると、どんな症状が?
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)とは、身体を起こしたときに血圧がうまく調節できず、めまいや気分不良を引き起こす身体の不調です。
起立性調節障害になると、次のような症状が現れます。

これらはすべて、体の中で血圧や体温などを調整している「自律神経」がうまく働いていないために起こります。
たとえば、朝起きて布団から立ち上がるとき、普通なら自然に血圧が上がって脳に血液が行きわたります。
しかし、起立性調節障害の子はその調整がうまくいかず、起き上がる際にめまいや強いだるさを感じてしまうのです。
参考:朝に起きられない中高生『若年性起床困難症』への対処法:起立性調節障害と睡眠相後退症候群の異同について
朝起きられないから、不登校に
起立性調節障害のつらさは、気合いや根性では乗り越えられず、生活全体に影響を及ぼすことがあります。
朝どうしても起きられずに遅刻や欠席が続き、学校に行きづらくなってしまうことで、成績の低下や不登校、引きこもりにつながるケースも少なくありません。
また、子ども自身も朝の強いだるさや立ちくらみなど、見た目ではわかりにくい不調をうまく説明できず、親や先生に理解されずに孤立してしまうこともあります。
こうした悪循環を防ぐためには、保護者が「怠けている」などと決めつけず、起きられない背景に疾患が隠れていないかを早い段階で意識して見守ることが大切です。
生活リズムの見直しや医療機関のサポートによって、改善が期待できる病気だからです。
では、ここからは、保護者ができる具体的なサポートについて紹介していきます。
起立性調節障害の検査方法
起立性調節障害が疑われるときは、まずは小児科に相談して検査をしてみましょう。
できれば、最初の相談先としては、起立性調節障害に詳しい小児科が安心です。
高校生でも小児科で診てもらえることがありますし、必要に応じて内科へ紹介される場合もあります。心配なときは電話をして、症状をお伝えし、検査してもらえるか確認して訪問しましょう。
診断には「起立試験」がよく用いられます。
これは、立ち上がったときに血圧が大きく下がっていないか、心拍数が過剰に上がっていないかなどを確認し、身体が重力にきちんと対応できているかを調べる検査です。痛みをともなう検査ではないので、子どもでも抵抗なく受けられます。
登校が難しい子どもを病院に連れて行くのは、保護者にとっても負担が大きいかもしれません。しかし、検査で今の状態を知ることができれば、必要な対策が見えてきます。
「朝起きられないの、つらいよね。痛くない検査があるんだって。一緒に行って、いまの身体の状態を見てもらおうか」——そんなふうに声をかけて、安心感を伝えながら受診につなげていけるとよいですね。

起立性調節障害の治療法
診断を受けると、薬を使わない(非薬物療法)として生活習慣指導や光用法などが指導されるケースと、薬物療法として昇圧剤を使用した治療を行う事があります。
処方される薬の特徴やご自宅でもできる睡眠改善の方法は、次の記事で詳しく解説します。
一方で、起立性調節障害以外にも、知っていてほしい子どもの睡眠課題があります。
起立性調節障害の治療が上手くいかない場合、睡眠相後退症候群の可能性も
実は起立性調節障害の診断を受けて、昇圧剤を使用した治療をはじめても、なかなか改善しない場合があります。
そんなときに疑われるのが、睡眠相後退症候群という状態です。この症状は、医療機関ですら、まだあまり知られていません。
具体的には、どのような症状なのでしょうか?
睡眠相後退症候群とは、体内時計の不調
睡眠相後退症候群は、思春期の子どもによく見られる睡眠のトラブルのひとつです。
眠くなる時間が、学校や社会の生活リズムよりも大きく遅れてしまい、夜中の2時や3時ごろになってようやく眠気が訪れます。
そのため、朝になっても目が覚めにくく、なかなか起きられなくなってしまうのです。「朝、起きられない」という点では、保護者から見た課題は同じように見えるのが少々やっかいな点です。
この状態が続くと、少しずつ眠くなる時間がさらに遅れていき、生活のリズムが大きく乱れてしまうことも。結果的に、学校に通えなくなってしまうケースもあります。
血圧の不調と睡眠トラブル、両方が重なって起こることも
「起立性調節障害」と「睡眠相後退症候群」は、実はとてもよく似た特徴を持っています。
血圧の調整や、眠くなる・目が覚めるといった睡眠リズムの不調は、どちらも脳の中の“視床下部(ししょうかぶ)”という、同じ場所でコントロールされています。そのため、この部分にうまく働かないところがあると、両方の症状があらわれやすくなると考えられるのです。
実際、睡眠相後退症候群と診断された20歳未満の若者を調べたところ、約7割に血圧の調整がうまくいっていない様子(=起立性調節障害)が見つかったという報告もあります。

こうした実情をふまえて、神林教授は「若年性起床困難症(じゃくねんせい・きしょうこんなんしょう)」という、新しい名前でとらえる考え方を提案しています。
朝起きられず学校にいけない——原因を見極めるには?
子どもが学校に行けないとき、その背景にはいろいろな理由や疾患が隠れているかもしれません。
たとえば、いじめなど気持ちの問題での不登校もあれば、身体の不調で本当に起きられないこともあるわけです。子どもが抱える原因によって、保護者として必要なサポートは変わってくるため、まずは子どもの状態に寄り添い、症状を見ていくことが大切です。
起立性調節障害が主体で学校にいけないケース
起立性調節障害が原因で学校に行けなくなっている場合は、治療によって朝しっかり起きられるようになると、少しずつ登校できるようになります。
その見極めのヒントになるのが「休日や長期休みでも、午前中に起きられないかどうか」という点です。
休みの日でも決まって昼近くまで眠っているようであれば、身体の不調が関係している可能性が高いと考えられます。
このような場合は、医療機関に相談することも視野に入れてみてください。適切な治療を受けることで、子ども自身も身体が快適になり、毎日学校に行けるようになるはずです。
本当は朝起きられるけれど、学校にいけないケース
人間関係の悩みや勉強のプレッシャーなど、心の負担が大きくなって学校に行けなくなるケースもあります。
このような場合は、治療によって朝起きられるようになっても、すぐに登校できるとは限りません。
むしろ、休日や長期休暇中には朝から元気に起きていることもあり、「学校がある日に起きられない」といった様子が見られることもあります。
このような場合は、睡眠の問題というよりも、子どもの気持ちに寄り添った心のケアや、学校での環境調整が必要になります。
無理に登校を促すのではなく、子どもの安心感を少しずつ取り戻していけるようなサポートが大切です。

子どもの睡眠課題:相談する医師の探し方
本記事を読んで、朝起きられない子どもの様子に「もしかして?」と疑う心当たりがあるなら、まずは専門医に相談してみましょう。
可能であれば、日本睡眠学会の認定医や、同学会が指定する「A型認定施設」など、睡眠障害に詳しい専門機関に相談するのがベストです。ただし、睡眠に特化した専門医や施設は、まだ全国的に数が限られており、すぐに受診できるとは限りません。
ネットで近くの医療機関を探しながら、もし近くに専門医がいない場合は、かかりつけの医師や、地域の小児科に相談してみてください。
中学生や高校生でも、小児科で診てもらえることは多くあります。
睡眠表を活用して、睡眠時間を記録しておこう
睡眠表を活用して、睡眠を可視化してみましょう。
睡眠表とは、何時に寝て、何時に起きたのかを記録する表です。こうした記録は、医師に相談する際の参考にもなり、より適切なアドバイスにつながることもあります。
スマートウォッチやスマートリングなど、睡眠記録ができるウェアラブルデバイスがあれば、そのデータでも大丈夫です。
睡眠を可視化することで、お子さん自身が「自分の睡眠」を意識するようになり、改善のきっかけにつながることもあります。手書きで簡単に記録できる睡眠表のシートがありますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
まとめ:不調なら、子どもの睡眠リズムを観察してみよう
子どもが朝起きてこないと「夜ふかししたな!」とか「やる気がない」と誤解しがちかもしれません。
しかし、子どもの中には、起立性調節障害や睡眠相後退症候群といった、治療の対象となる疾患を抱えてつらい思いをしている場合もあります。これらの疾患は、適切な対応によって改善が期待できます。
神林先生の治療現場では、朝起きられるようになり「登校できた」「勉強ができるようになった」という子どもたちがいます。睡眠について保護者目線で少しでも気になることがあれば、早めに対処し、必要があれば医療機関に相談してみましょう。
子どもの体調が整うと、本人たちの気持ちにも変化が表れ、自信や意欲の回復にもつながります。ぜひ、具体的な対策のシリーズも合わせてチェックしてください。
この記事でわかったこと
- 子どもの夜ふかしは年齢特有のリズム変化によるもの
- 「睡眠禁止ゾーン」によって、寝たい時間に眠れない仕組みがある
- 起立性調節障害と睡眠相後退症候群は併存することが多い
監修:神林 崇
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