朝の遅刻や欠席が続く生徒が、やがて不登校に……。
その背景には、生徒本人の意思や努力ではどうにもできない“身体の不調”が隠れていることがあります。
思春期に多い「起立性調節障害」や「睡眠相後退症候群」などの睡眠に関わる問題は、周囲からの誤解を招きやすく、生徒自身が「怠けている」「やる気がない」と一方的に責められてしまうことも少なくありません。
そして、それによって自信を失い、ますます登校が難しくなるという悪循環に陥ってしまう生徒もいます。
こうしたケースは、不登校へと発展し、長期化することもあるため、早い段階での気づきと適切な対応が求められます。
本記事では、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構の神林崇先生に、「朝起きられない生徒」の背景にあるメカニズムと、学校現場での支援のあり方について伺いました。
この記事でわかること
- 生徒が朝起きられない背景
- 朝起きられない生徒が受けられる治療
- 朝起きられない生徒や保護者にできる対応
- 学校としてできる、睡眠改善のための取り組み
睡眠と自律神経のズレが「朝の登校困難」を生む
思春期の子どもが朝起きられない背景には、成長にともなう体内時計の変化や、自律神経の不調が関係している場合があります。
ここでは、起立性調節障害や睡眠相後退症候群など、教員が改めて知っておきたい思春期特有の症状をご紹介します。
誰でも思春期は「夜型」になりやすい

不登校の生徒に限らず、多くの子どもたちは、思春期を迎えるとともに睡眠時間が徐々に後ろへずれていく傾向があります。
これは「体内時計の夜型化」と呼ばれる、生理的に自然な変化です。ほとんどの思春期の子どもに共通して見られる現象であり、決してめずらしいことではありません。
興味深いことに、同じような傾向は動物の世界にも見られます。
たとえば、サルでも若い個体は夜型になりやすいことが知られており、これは人間以外の動物にも共通する「生物学的な特性」と考えられます。
つまり、夜遅くまで起きているのは、「夜ふかしをしているから」ではなく、「眠気を感じないから眠れない」という状態になっている可能性があるのです。気づけば深夜になっている、という状況は、本人の意志とは無関係に起こりうるものです。
このように、思春期は生体リズム自体が夜型へと移行しやすい時期であるため、睡眠に関する正しい知識を持ち、生活習慣を整えるサポートが非常に重要になってきます。
睡眠衛生の知識が学生生活の鍵になる
夜ふかしが習慣になってしまうのを防ぐには、生徒自身が「睡眠に関する正しい知識」を持っていることが何より大切です。
ちょっとした生活の癖が、知らないうちに睡眠に影響している――。
そう気づけるかどうかで、その後の行動は大きく変わっていきます。「なぜ眠れないのか」「どうすれば改善できるのか」、そうした仕組みを理解することが、生活を整えるための出発点になります。
とくに現代の生徒たちは、スマートフォンやパソコン、ゲーム機など、夜間も光を発する機器に囲まれて生活しています。思春期はもともと夜型に傾きやすい時期ですが、就寝前までブルーライトを浴びることで脳が興奮し、さらに眠れなくなる……そんな悪循環に陥ってしまうことも珍しくありません。
その結果、朝の目覚めがつらくなり、寝不足から食欲不振や朝食抜きへとつながります。
すると、さらに体調を崩したり、感情のコントロールが難しくなったりするなど、学びや人間関係にも影響が出てしまうこともあるのです。
だからこそ、生徒が「寝る前の過ごし方」について正しい知識を持ち、日常の工夫につなげていけるよう支援することが重要です。
一見「怠けている」ように見えても、実際は身体的な不調がある

遅刻が続き、授業中も眠そうにしている生徒を見ると「夜ふかしなど、生活習慣が乱れているのでは?」「やる気が足りないのでは?」と感じてしまいますよね。
しかし、本人の努力や意志ではどうにもできない“身体的な不調”が隠れていることがあります。
強い眠気や立ち上がるときの立ちくらみなど、生徒自身が意識的にコントロールできない症状と日々向き合っているかもしれません。
医療の現場では、こうした症状は“ただの怠け”ではなく、身体の調整機能がうまく働いていない治療対象となり得ます。
しかし、保護者が疾患を抱えている可能性に気づいていない事が多いのです。
だからこそ、日頃から接する教員がその可能性を知り、朝起きられない生徒を理解しようとする姿勢を見せることは、生徒にとって大きな支えになります。


続いて朝に起きられない症状と診察の方法について解説をします。
起立性調節障害:朝の強い眠気、頭痛、吐き気、起き上がれない
朝、なかなか起きられない原因として、まず考えられるのが「起立性調節障害」です。
これは思春期に多く見られる自律神経の不調のひとつ。
血圧の調節がうまくいかず、朝起きるのが難しくなります。
起立性調節障害の代表的な症状は、以下のようなものがあります。
- 朝、強い眠気がある
- 頭痛や吐き気、動悸、だるさがある
- 立ち上がるとめまいやふらつきが起きる など
重症になると、長期の不登校や外出困難など、学校生活だけでなく将来の社会参加にも大きな影響を及ぼすことがあります。
こうした症状は、本人の努力でどうにかできるものではなく、治療や十分な環境支援が必要になります。

睡眠相後退症候群:社会的に望ましい時間に寝たり起きたりするのが困難
次に考えられるのが、「睡眠相後退症候群」という睡眠障害です。
これは、体内時計のリズムが大きく遅れてしまうことで、夜になってもなかなか眠くならず、結果として朝起きられなくなるという特徴があります。
本人は眠ろうと努力していても、実際に眠気が訪れるのは深夜3時〜6時ごろ。
そうなると、学校に間に合う時間に起きること自体が、とても困難になってしまいます。

「睡眠相後退症候群」は思春期から青年期にかけて多く見られますが、「起立性調節障害」と比べると、学校現場での認知度はまだ高くありません。
「ただの夜更かしでは?」「朝に弱い性格なのでは?」と誤解されることもありますが、本人の意思や努力で簡単にコントロールできるものではなく、れっきとした医療的なサポートが必要な状態です。
起立性調節障害と睡眠相後退症候群が重なることも有る
眠くなる・目が覚めるといった睡眠リズムと血圧の調整は、どちらも脳の同じ場所(視床下部)でコントロールされています。
起立性調整障害は血圧の調節がうまくいかず、朝起きるのが難しくなるわけですが、実は起立性調節障害と睡眠相後退症候群は、根本の仕組みには共通点があり、症状が重なって見られることもあります。
実際、睡眠相後退症候群と診断された20歳未満の若者を調べたところ、約7割に血圧の調整がうまくいっていない様子(=起立性調節障害)が見つかったという報告もあります。

こうした実情をふまえ、神林教授は「若年性起床困難症(じゃくねんせい・きしょうこんなんしょう)」という、新しい名前でとらえる考え方を提案しています。
起立性調節障害の治療を続けても、なかなか改善がみられずご家族とご相談されている場合には、睡眠相後退症候群についても症状を検討してみましょう。
まだまだ「睡眠相後退症候群」の診察を専門とされる医師が少ないので、神林先生が出演されている動画なども合わせてチェックしてみてください。
朝、起きられない子どもにできる治療とは
朝の起床困難は、治療によって改善が見込まれる症状です。
ここでは「起立性調節障害」と「睡眠相後退症候群」、それぞれに対する具体的な治療法について紹介します。
起立性調節障害の治療
起立性調節障害は、適切な対応を行うことで改善が期待できる症状です。
治療は主に生活習慣の見直しから始まり、朝決まった時間に起きる、朝食をとる、適度に身体を動かすなど、生活習慣を整えることが基本となります。
それでも改善が難しい場合は、医療機関での治療が行われます。薬による治療では、血圧を調整する薬や自律神経の働きを整える薬が用いられることがあります。
また、心理的なストレスが関係している場合には、カウンセリングなどの支援も組み合わせて行われます。
治療には時間がかかることも多く、学校生活と両立しながら少しずつ整えていくことが大切です。
教員が「治療中である」ことを理解し、無理のない関わりを心がけることが、生徒にとって大きな安心につながります。

参考:小児起立性調節障害
睡眠相後退症候群の治療
睡眠相後退症候群には、投薬治療が有効です。
夜に自然な眠気をうながす目的ではメラトニンやオレキシン拮抗薬などが使用されます。これらは、従来の睡眠薬に比べて依存性が少なく、若年層でも比較的安心して使用できるとされています。
朝の目覚めを助ける薬としては、「アリピプラゾール」という薬が少量で使われることがあります。もともとは統合失調症の治療のために開発された薬ですが、ごく少量の使用によって朝の起きづらさをやわらげ、睡眠リズムの乱れを整える効果が期待できます。
朝に一時的でも覚醒できれば、起立性調節障害の治療に使われる血圧調整の薬も服用しやすくなり、全体の治療が進みやすくなります。
こうした治療により、睡眠相後退症候群や起立性調節障害にともなう睡眠の問題が大きく改善されたケースが増えています。
生徒が学校生活に戻れる可能性を広げるためにも、まずは「治療できる方法がある」という前提を知っておくことが大切です。
朝起きられない生徒が、安心して学校に通うために
朝の登校が難しい生徒にとって、学校での理解と支えは大きな安心につながります。ここでは、教員としてできる声かけや医療機関へのつなぎ方、学校全体での取り組みのヒントを紹介します。
遅刻を責める前に、身体の不調の可能性を優しく伝えてみる
起立性調節障害や睡眠相後退症候群など、「朝起きられない」症状は、まだ広く知られていません。
そのため、本人も身体の不調が原因だと気づいておらず「どうして自分は起きられないのか」と悩み、自分を責めてしまうことがあります。保護者もまた、どう支えていいのかわからず、戸惑っている場合があります。
こうしたとき、教員から「もしかしたら身体の不調かも」と優しく可能性を示唆することで、生活習慣の改善や医療機関への受診につながり、治療につながったケースがあります。
医学的な判断は専門家に任せるとしても、気づきの一言が、本人や保護者にとって大きなサポートになるかもしれません。
どのような医療機関に相談すればよいか質問されたら
睡眠の不調について相談するなら、まずは身近な小児科に相談することが現実的です。
高校生でも小児科で対応してもらえることがあるので、まずは信頼できる医療機関に問い合わせることをすすめてみてください。
小児科の受診時に、以下のような参考資料を持参して医師に共有するのも有効です。
より専門的に治療を進めたい場合は、睡眠の専門医が在籍するクリニックを活用する事が重要です。日本睡眠学会の認定医療機関を確認しましょう。
ただ、睡眠専門の病院はまだまだ少ないため、地域によっては通える範囲にない場合もあります。お伝えする際は、学校の近くに病院があるのかも、合わせてご配慮されるとよいでしょう。
朝起きられない不調に関する知識をシェアしよう
睡眠研究は急激に発展しています。しかし、日本人の睡眠に対する知識はまだ浅いのが現状です。
指導者や保護者側に正しい知識がない場合、生徒を指導しようとするあまり「夜更かししているのでは」「なまけているのでは」「気合が足りない」といった言葉を投げかけ、生徒を深く傷つけてしまうことになりかねません。
周囲が生徒のためを思ってかけた言葉が、かえって不登校の引き金になってしまうこともあります。教員同士も情報を共有して理解を深め、登校に悩む生徒たちを抱える保護者に情報をシェアしてみましょう。
神林教授自身、適切な治療にであうことで登校できるようになる生徒たちを多く見守ってきています。

さらに、治療を検討する際に知っておくと便利なのが、事前に取り組める「睡眠記録」です。
これは、生徒本人の自宅での睡眠状態を可視化し、保護者や医療機関とのコミュニケーションにも役立つ大切な手法です。具体的にどのように行うのか、詳しく見ていきましょう。
学校でできる取り組み:「睡眠表」を活用してみよう
生徒の健康や生活リズムを見守る手段として、「睡眠表」を活用するのは非常に有効な方法のひとつです。
睡眠表とは、毎日何時に寝て何時に起きたかを記録するだけのシンプルなシートで、自身の生活習慣を振り返るきっかけになります。
朝の起床に悩んでいる生徒に個別に勧めるのはもちろん、睡眠衛生指導の一環として、学年単位で1週間程度の記録を取り入れてみるのもよいでしょう。
記録を重ねることで、起立性調節障害や睡眠相後退症候群の兆しに気づけることもあります。病院で相談する際にも、医師にとって貴重な判断材料となります。
また、体調に問題のない生徒でも、睡眠を可視化することで意識が高まり、睡眠時間が自然と増えたり、眠りの質が向上することもあります。
十分な睡眠は集中力や運動パフォーマンスの向上、情緒の安定にもつながるとされています。睡眠時間が長いほど学習効率が高まるという研究も数多く報告されているので、ぜひ学校やクラス全体で睡眠表を活用することも検討してみてください。
上記リンクからダウンロードして、ぜひご活用ください。

まとめ:朝が苦手で学校に来られない生徒には、適切なサポートを見極めよう
思春期の子どもが「朝起きられない」のは、気持ちや生活態度の問題ではなく、身体の中のリズムや自律神経の不調が関わっている場合があります。
周囲の理解が得られずに苦しんでいる生徒も少なくありません。
教員が正しい睡眠に関する知識を深め、生徒の睡眠の問題に早めに気づき、保護者へ声をかけることが疾患の早期発見につながるケースもあります。
本記事で、睡眠に悩む子どもたちの健康改善や将来にむけた生活改善に役立つことを心から願っています。
この記事でわかったこと
- 起立性調節障害や睡眠相後退症候群など、身体の不調で朝起きられない場合がある
- 生活習慣の改善のほか、投薬治療で改善できる可能性が高い
- まずは不調かもしれない気づきの声掛け、必要であれば医療機関への取次も
- 睡眠表の活用で、生徒全体に睡眠の見直しを促す取り組みを
監修:神林 崇
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)









