ありえない人の睡眠【vol.1 後編】極限の中で試してきた、回復のための方法
ゲスト:今井 守
超長距離ウォーカー。会社員。長距離ウォーキングイベントに精力的に参加。
( インタビューワー:大木 都 睡眠養生 編集長。寝具・睡眠環境アドバイザー資格保有。 )
前編では、今井守さんが体験された、100キロウォークの先で起きることをお届けしました。

幻覚が見え、体外離脱のような感覚が訪れ、ピントが合わなくなり、歩道を歩けなくなる。
リタイアの理由は眠気だけと言い切る今井さんが、その眠気に対してどう向き合っているのか。
後編では、大会前の準備から当日の仮眠まで、今井さんが試してきた方法を聞きます。
100km以上歩く大会前、今井さん流のリカバリー術
さとちゃん (大木都)そもそも今井さん、普段は何時に寝て何時に起きているんですか?



だいたい12時に寝て、6時半に起きる感じです。



長距離ウォークのイベント前日も同じ感じですか? 早めに寝ようとかはしない?



しないですね。早く寝ようとすると、緊張して逆に寝れなくなるんですよ。だから前日も通常通りにして、いつも通りに寝ます。



それは正しい判断だと思います。睡眠は意識しすぎると逆効果になることがあって、「早く寝なきゃ」というプレッシャー自体が覚醒につながることがある。
いつも通りのリズムで寝るのがいちばんです。
前日は、眠りにつくための道具も使います。



長距離ウォーク前日の睡眠では、めぐりズムのアイマスクを使いますね。蒸気が出るやつで、目をほぐしておきたくて。
テレビをつけっぱなしにして寝るんですけど、アイマスクをすると遮光カーテン代わりにもなるんですよね。
あと耳にはナイトミンの耳ほぐタイムをつけて、耳を温めて寝るのも好きです。目と耳、両方ケアしながら寝る感じです。



イベント前に目と耳を意識してケアしておくのはいいですよね。
目は長時間の歩行中に酷使しますし、前編でもお話しいただいた「ピントが合わなくなる」という変化を考えると、少しでも疲れを取っておくことは理にかなっています。
耳のケアも、睡眠前のリラックスとして気持ちいいですよね。


そして当日の朝は、独特の流れがあります。



スタート当日はどういう流れで動くんですか?



スタートの3時間前に起きて、まずお風呂に入ります。ぬるめのお湯に浸かって、30分くらいウトウトする感じで。



お風呂でウトウトするんですね。



遅刻が怖いから、早めに起きるんです。でも、時間があるのでお風呂で少しウトウトして。
そのあとに食事を取って、炭水化物を多めにして、出発準備をする、という感じです。



朝はあえて熱めのお風呂に10分くらい入って、目を覚ます方法もあるのですが。
ぬるめのお風呂のほうが、今井さん的には心地いいんですね!



どうなんでしょう、私は出発がギリギリになるのが苦手なので、早起きしてお風呂でゆっくりしている感じです。感覚でやっていることなので、正しいかどうかは分かりません(笑)


コーヒーナップ、試してみた





長距離ウォークのイベント中に仮眠を取ることはありますか?



仮眠取りますよ!
最近のイベントでは、スタートから25時間くらい経ったところで、大会会場の広い広間に布団が引いてあって、各自が持ってきた寝袋にくるまって寝てくださいという形式でした。
このときにコーヒーナップを試しました。



コーヒーナップは、カフェインを取ってから仮眠する方法ですね。カフェインが効いてくるタイミングで目が覚めやすくなるんですよね。



そうですね。コーヒーを飲んでから、45分後にアラームで起きる感じでやりました。ただこのときは、周りにいびきとか音があって、あんまり寝た感じはしなかったです。



環境の影響は大きいですよね。音があると深い睡眠に入りにくくなることがあります。



疲労が取れたかというとそこまでではなかったですけど、睡眠が浅かったのか、アラームが鳴ったらパッと起きられる、という点では効果がありました。



コーヒーナップは深い回復よりも、目覚めをスムーズにするという意味合いが強い方法なので、結果として目覚めが悪くなかったのなら、大正解ですね!


アルコールナップという狂気に満ちた選択肢


コーヒーナップとは別に、今井さんが試してきた、もう一つの「驚きの仮眠法」があるようです。



私が試して意外とよかったのが、アルコールナップです。



……アルコールナップ!?初めて聞きました(笑)



スタートから47時間くらい経ったところで、ネットカフェの個室に入って。マットレスの上にブランケットをかけて、横になる前にビール一本飲んで寝るんです。



……それは、どうでしたか?



ビールを飲んだら、すぐに深いところまで落ちました。
45分のアラームで起きたんですけど、45分が3秒くらいの体感でした。あっという間すぎて寝た感じがしなかったので、さらに10分おかわりナップしました(笑)



10分おかわり(笑)。起きたときの体感はどうでしたか?



アルコールナップで起きた時は、頭がクリアで、体も柔らかくなった感じがして。コーヒーナップよりずっと回復した感覚がありました。



アルコールには身体の力を抜く作用があるので、緊張がほぐれた状態でサッと眠れたのが良かったのかもしれませんね。
ただアルコールは睡眠の質に影響することがあるとも言われていますし、体への負担もあります。一般的にお勧めできるものではないのですが(笑)。
今井さんの場合、長時間歩いて体が緊張した状態で、脱力してから短時間休む、ということが回復につながったのかもしれないですね。



脱力する、というのが大事なんだと思います。歩いているとどうしても体に力が入り続けているので。
養命酒が好きなくらいなので、お酒自体は体に合っているのかもしれないですけど(笑)


コンビニの縁石で仮眠をとることも





大会中の仮眠は、ネットカフェ以外ではどんな場所を使うんですか?



コンビニの駐車場の縁石に足を乗せて寝る、というのは結構あります。頭の先にゼッケンとヘッドライトを置いておいて、寝てますよとわかるようにして。



縁石に足を乗せる、というのはどういう意図で?



足を高くしていると、むくみが取れやすい気がして。長く歩いていると足がパンパンになってくるので、少しでも流したいという感覚です。



それは理にかなっていますね!足を高くすることで循環しやすくなりますよね。
ネットカフェと縁石を使い分けながら、眠気のピークに合わせて45分から1時間の仮眠を取る。ホテルには泊まらず、あくまで仮眠レベルで歩き続けるのが今井さんのスタイルです。


眠気ピークを超えると大覚醒モードに突入



眠気が来たときに、打ち勝つ方法はありますか?



あります。ものすごく眠くなっても、歩き続けていると、ある時点でスッと睡魔が消えることがあるんですよ。台風が過ぎ去った後みたいに、頭がクリアになる。



それは面白い体験ですね。



眠気ってピークを超えると消えることがある、とわかってから、向き合い方が変わりました。あとちょっと我慢したらクリアになるかもしれない、と思いながら歩けるので。



睡眠圧という概念があって、眠気は一定のピークに達すると変化することがある、と言われています。
ただ無理に続けることが体にいいかどうかは別の話で、一般の方には眠気に素直に従っていただきたいとは思いますが(笑)



そうですよね。私の場合は眠気だけがリタイアの理由になるので、眠気と交渉しながら歩いている感じです(笑)
コーヒーを飲み続ける執念の睡魔対策



長い距離を歩いている間、カフェインはどのくらい取っていますか?



コーヒーはずっと飲んでいますね。トイレが心配かと思うかもしれないですけど、あまり来ないんですよ。汗をかいているからかな。



発汗量が多いと水分が汗として出ていくので、尿になりにくいことはありますよね。
カフェインは眠気を一時的に抑える作用がありますが、取り続けると効果が薄れることもありますよ!


まとめ:回復とは、また歩けるようになること


今井さんが試してきた方法を並べると、前日の入浴と睡眠の確保、大会中のコーヒーナップ、ネットカフェでのアルコールナップ(今井さん個人の体験談です)、縁石に足を乗せた仮眠、となります。
いずれも「完全に回復する」ためではなく、「また歩ける状態を作る」ための工夫でした。
リタイアの理由が眠気だけという人にとって、回復とは痛みをなくすことではなく、眠気に対処することです。
目的が違うからこそ、取る手段も変わってくる。今井さんの話を聞いていると、睡眠や休息の目的について、あらためて考えさせられます。
一方で、脱力してから短時間休む、足を高くして循環を助ける、カフェインと仮眠を組み合わせるといった考え方は、日常の疲労回復にも通じる部分があります。
「ありえない人」の話の中に、意外と普遍的な原理があるのかもしれません。ただし、一般的な生活をしているみなさまは、絶対に今井さんの真似をしないでください!




