人の名前がすぐに出てこない。さっき置いた物の場所を忘れてしまう。
こうした物忘れが増えると、将来の認知機能が心配になりますよね。
そんな方に意識していただきたいのが、毎日の食事です。食事の内容を少し工夫することで、脳の健康を保ちやすくなる可能性があります。
ところで、日本人の脳の健康、いわゆる「ブレインヘルス」を食事から養うための食べ方を、日本の研究者が提唱しはじめているのをご存知でしょうか。
そこで今回は、腸内細菌と食の研究を続けてきた京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学 教授の内藤裕二先生に、先生ご自身が設計を進めている、日本人の食卓に合う食べ方「MIND-J プラス食(マインドジェイ プラスしょく)」について教えていただきました。
この記事でわかること
- MIND食が生まれた背景と、脳の健康を意識した食品の選び方
- MIND-J プラス食の「プラス」が意味するもの
- MIND-J プラス食で、日本人の食生活に合わせて変わったポイント
- ブレインヘルスを支えるために、毎日の食事で意識したい食品の組み合わせ
- 食事や腸内環境、睡眠がブレインヘルスやフレイル予防にどう関わるのか
脳の健康をサポートする「MIND食」
認知機能の低下を防ぐことを目的に、2015年にアメリカで「MIND食」が発表されました。
MIND食はアメリカで生まれた食事法
「MIND食」は、アメリカのラッシュ大学医療センターの研究チームによって開発されました。
もとになったのは、「地中海食」と「DASH食」という2つの食事法です。
地中海食とは、野菜・果物・豆・全粒穀物・魚・ナッツ・オリーブオイルを多く取り入れる、ヨーロッパで受け継がれてきた伝統的な食事スタイルです。
一方のDASH食は、血圧を管理するための食事法としてアメリカで考えられました。野菜、果物、全粒穀物、低脂肪の乳製品などを取り入れ、脂肪の多い肉や菓子類、塩分を控えます。
この2つを組み合わせ、脳の健康との関連が研究されてきた食品を「食べる食品」と「控える食品」に分け直したのが、MIND食です。
| MIND食で推奨する食材 | MIND食で制限する食材 |
|---|---|
| ・葉物野菜 ・その他の野菜 ・ベリー類 ・ナッツ ・全粒穀物 ・魚 ・豆 ・鶏肉 ・オリーブオイル ・ワイン | ・バター、マーガリン ・チーズ ・赤身肉 ・揚げ物 ・菓子類 |
MIND食と認知機能の関係を調べた2つの研究
2015年には、アメリカ・シカゴに住む高齢者923人の食事と健康状態を平均4.5年間追った研究が発表されました。
MIND食に近い食べ方をしていた人ほど、アルツハイマー病を発症した人が少ないという関連がみられています。
一方、2023年にアメリカの65歳以上604人が参加した3年間の試験では、MIND食に取り組んだグループと、普段の食事を大きく変えなかったグループの間で、認知機能に明らかな差は確認されませんでした。
つまり、MIND食だけで認知機能の低下を防げるとは、まだ言い切れません。ただ、脳の健康を支える食べ方のひとつとして研究が続けられています。
参考:MIND diet associated with reduced incidence of Alzheimer’s disease – PubMed、Trial of the MIND Diet for Prevention of Cognitive Decline in Older Persons – PubMed

MIND-J プラス食は、内藤先生が日本の食卓に合わせて設計を進めている食べ方
海外でつくられたMIND食には、ワインやオリーブオイルなど、日本では日常的にとらない人も多い食品が含まれています。
そこで、日本人の食習慣と国内の研究に合わせた食べ方として、内藤先生らが設計を進めているのが「MIND-J プラス食」です。単に日本向けに置き換えたものではなく、「推奨する食材」と「制限する食材」を日本人のデータで選び直して設計されています。
| MIND食 | MIND-J プラス食 |
|---|---|
| ワイン | 緑茶、コーヒー |
| オリーブオイル | 米油、亜麻仁油(あまにゆ) |
| 塩分について特別な項目はない | 塩分を控える |
| ワインをとる | アルコールを控える |
緑茶やコーヒーは、飲む量が多い人ほど認知機能の低下が少ないという報告があります。
また、日本ではしょうゆや味噌などから塩分を多くとりやすく、お酒を飲む習慣もあります。そのため、MIND-J プラス食では、塩分とアルコールを控えることも大切な項目に加えられています。
内藤先生が示しているMIND-J プラス食の食材は、次のとおりです。
| MIND-J プラス食で推奨する食材 | MIND-J プラス食で制限する食材 |
|---|---|
| ・緑黄色野菜 ・その他の野菜(根菜など) ・ベリー類 ・ナッツ ・全粒穀類 ・魚 ・豆類 ・鶏肉 ・米油、アマニ油 ・緑茶、コーヒー | ・バター、マーガリン ・チーズ ・赤身肉、加工肉 ・ファーストフード ・菓子類、甘味料 ・塩 ・アルコール類 |
記憶だけでなく、脳のはたらき全体を健康に保つ「ブレインヘルス」
ブレインヘルスとは、世界保健機関(WHO)が2022年に示した「脳の健康状態」を指す概念です。
脳の健康を良好に保つことは、心身の健康や生活の質を高めるだけでなく、社会全体のよりよい暮らしにもつながります。病気の有無や年齢を問わず、脳がよく働く状態を生涯にわたって保つことを目指します。
睡眠も、ブレインヘルスに関わる生活習慣のひとつです。適切な睡眠は脳の働きや記憶、気分を支え、睡眠不足が続くと認知機能や心の健康に影響する可能性があります。

ブレインヘルスを保つための食事と睡眠
WHOは、ブレインヘルスを認知・感覚・社会情動・行動・運動といった脳のはたらきが発揮されている状態としています。
病気の有無だけを指すものではなく、考える力や感じる力、身体を動かす力、人と関わる力までを含む考え方です。
これらのはたらきは、生涯を通じて生活習慣の影響を受け続けます。MIND-Jプラス食や良質な睡眠など、日々の小さな工夫を積み重ねることでブレインヘルスを支えていきましょう。
食事から考えるブレインヘルスとMIND-Jプラス食
ブレインヘルスを支える生活習慣のひとつが、バランスのよい栄養摂取です。
京丹後市の調査では、食物繊維の摂取量が多い人ほど、身体機能や活動性が保たれている傾向がみられました。特によく食べられていたのは、きのこ類、芋類、豆類、海藻類などです。
食物繊維の多い食事は腸内環境を整えることが知られており、腸内環境は全身の状態を通じて脳のはたらきにも関わると考えられています。
こうした食品を幅広く取り入れるMIND-Jプラス食は、食事からブレインヘルスを支える方法です。毎日の食事に無理なく取り入れ、続けることが、身体と脳の健康を保つことにつながります。

ブレインヘルスに欠かせない睡眠
ブレインヘルスを保つには、食事だけでなく、睡眠を整えることも大切です。
京丹後市の調査では、睡眠の状態は、うつ、フレイル、ポリファーマシーとそれぞれ関連していました。これらが重なるほど、睡眠の問題が強くなる傾向もみられています。
これは、よく眠れば気分や身体の状態が改善するという意味ではありません。ただ、良質な睡眠で心身の疲れをとることは、日中に身体を動かし、人と関わるための力を保つことにつながります。
考える、感じる、動く、人と関わるといったはたらきは、いずれもブレインヘルスに含まれるものです。
なお、必要な睡眠時間は年齢や個人差により異なります。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、高齢者は長く寝床で過ごしすぎないことも大切だとしています。高齢者は必要な睡眠時間を確保しながら、寝床で過ごす時間が8時間以上にならないことを目安に見直すのがポイントです。

まとめ:MIND-Jプラス食と睡眠でブレインヘルスを支えよう
MIND-J プラス食は、MIND食を日本人の食生活に合わせて、内藤先生らが設計を進めている食べ方です。
食事は、記憶や認知機能だけでなく、気分、行動、身体を動かす力など、脳のはたらき全体に関わります。
MIND-J プラス食を毎日の食事に取り入れることは、ブレインヘルスを食事から支える方法のひとつです。
良質な睡眠は心身の疲れをとり、日中に身体を動かし、人と関わるための力を保ちます。食事と睡眠の両方を整え、無理なく続け、いつまでもハツラツと暮らせる毎日を目指しましょう。
この記事でわかったこと
- MIND食は地中海食とDASH食をもとに、脳の健康を意識して考えられた食事法
- MIND-J プラス食は、推奨・制限に「プラス食材」を加えた、日本の食卓のための設計
- MIND-J プラス食では、緑茶やコーヒー、米油などを取り入れ、塩分とアルコールを控える
- 野菜、魚、きのこ、豆、海藻などを組み合わせ、幅広い食品をとることが大切
- 食事だけでなく、良好な睡眠や運動、社会参加もブレインヘルスとフレイル予防を支える
監修
関連書籍
▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:健康の土台をつくる 腸内細菌の科学
著者名:内藤 裕二
出版社:日経BP
発売日:2024年08月13日
参考文献
- MIND diet associated with reduced incidence of Alzheimer’s disease – PubMed
- Trial of the MIND Diet for Prevention of Cognitive Decline in Older Persons – PubMed
- Green Tea Consumption and the Risk of Incident Dementia in Elderly Japanese: The Ohsaki Cohort 2006 Study – PubMed
- Green tea consumption and dementia risk in community-dwelling Japanese people aged 40-74 years: A 12-year cohort study – PubMed
- A longitudinal cohort study demonstrating the beneficial effect of moderate consumption of green tea and coffee on the prevention of dementia: The JPHC Saku Mental Health Study – PubMed
- Dietary salt promotes neurovascular and cognitive dysfunction through a gut-initiated TH17 response – PubMed
- Salt-responsive gut commensal modulates TH17 axis and disease – PubMed
- Alcohol consumption, smoking, and risk of dementia in community-dwelling Japanese people aged 40-74 years: The Murakami cohort study – PubMed
- Alcohol consumption from midlife and risk of disabling dementia in a large population-based cohort study in Japan – PubMed
- Brain health
- 健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023

