京都府の北部に、京丹後市(きょうたんごし)という市があります。
日本海に面し、農業と漁業がさかんな地域です。
この市には、100歳を超えても元気に暮らしている方が多くいらっしゃいます。100歳以上の方の割合は、全国平均のおよそ3倍です。
そのため「健康長寿の里」と呼ばれ、なぜこれだけ長生きの方が多いのかを調べる調査が、長いあいだ続けられてきました。
そこで今回の記事では、この調査を率いてきた京都府立医科大学の内藤裕二先生に、睡眠と食事、そして腸内環境の関係を解説してもらいました。
この記事でわかること
- 京丹後市の調査で、長寿の地域でも睡眠にどのような問題がみられたのか
- 睡眠の状態と関連していた、気分の落ち込み・フレイル・多くの薬の服用について
- 食事と睡眠の関係から見えてきた、食物繊維の重要性とフレイルとのつながり
- 京丹後の食卓から学ぶ、きのこ・芋・豆・海藻などで食物繊維を摂る方法
- 食べ物以外に睡眠と関連がみられた「生きがい」のこと
健康長寿の里・京丹後市でも、3人に1人は睡眠に問題を抱えていた
京都府京丹後市では、長生きの方が多い理由を調べるため「京丹後コホート研究」が実施されています。
コホート研究とは、同じ地域に住む人たちの集団に何年も協力していただいて、検査やアンケートの結果と健康状態の関係を調べていく調査手法です。
この調査の解析から、睡眠についての課題がわかってきました。

京丹後市は、100歳以上の人が全国平均の3倍いる市
京丹後市は、京都府の北部、日本海に面した市です。
農業と漁業がさかんな地域で、100歳以上の方の割合が全国平均のおよそ3倍という長寿の土地として知られています。
なぜこの地域で長生きの方が多いのかを知るために、京都府立医科大学のチームが、住民の方に協力していただいて調査を続けてきました。
- 血液の検査
- 歩く速さや握力
- 身体をどれくらい動かしているか
- ふだんの食事の内容
- 便から調べる腸内細菌
- 質問票による心と生活の状態 など
京丹後市の睡眠を世界的なアンケートで調査
京丹後市の調査で睡眠の状態を調べるために使ったのは、世界中の研究で使われている「ピッツバーグ睡眠質問票」というアンケートです。
寝つくまでにかかる時間、実際に眠れていた時間、睡眠に対する満足度、睡眠薬を使っているか、日中に眠くて困ることがあるかなど、18の質問に答えると合計点が出ます。
点数は0点から21点までで、点が高いほど睡眠の状態が良くないと判断します。基本的には、6点以上を「睡眠の質が良くない」と判断するのが一般的です。
785人のうち、3割が「睡眠の質が良くない」に当てはまった
京丹後コホート研究に参加した785人分のピッツバーグ睡眠質問票の回答を解析したところ、睡眠の質が良くないとされる6点以上に当てはまる方が30.3%でした。
さらに点数が高く、8点を超える方も12.9%いました。
健康長寿の地域として知られる京丹後で、これだけ睡眠の問題がみられたことは、研究チームにとっても想定外の結果でした。
国内の別の地域で暮らす高齢者を対象にした横断研究でも、同じ質問票で3割を超える方が睡眠の質が低い側に入ると報告されています。京丹後の方の睡眠だけが特別に悪いわけではなく、日本の高齢者に広く見られる状況だと考えるのが自然でしょう。

京丹後の調査で分かった、睡眠に悪影響を及ぼす要因
京丹後コホート研究の785人の解析で、何が睡眠に影響しているかも明確になってきました。
うつ、フレイル、ポリファーマシー
京丹後市の785人の解析で、睡眠の状態と関連が見られた要素は3つありました。
一つめは、うつ(気分の落ち込み)です。
うつの状態を点数にする質問票(CES-D:気分の落ち込みの度合いをたずねるアンケート)で点数が高い方は、睡眠の質も良くないという関連がはっきり出ました。
二つめは、フレイル(心身が弱った状態)です。
フレイルとは、年齢とともに筋力や活動量、気力などが少しずつ落ちて、弱ってきている状態を指します。病気とまではいかないけれど元気とも言いきれない、その中間くらいの状態です。
京丹後の解析でも、フレイルの指標で点数が高い方には、睡眠の問題が多くみられました。
三つめは、ポリファーマシー(多くの薬を飲むことによる副作用)です。
ポリファーマシーとは、服用している薬の種類が多く、そのことで身体に不都合が起きやすくなっている状態のことです。国の指針でも、6種類以上の服薬で副作用が増えやすいというデータが示されています。

3つの要因が重なっている人ほど、睡眠の状態は悪かった
うつ、フレイル、ポリファーマシー。
この3つは、それぞれが独立して睡眠の状態と関連していました。
そして、3つが重なっている方ほど睡眠の問題が強く出ていました。気分が落ち込んでいて、フレイルもあり、飲んでいる薬も多いという方は、ピッツバーグ睡眠質問票の点数がいちばん悪くなっていたのです。
ただし、この解析は横断研究と呼ばれる方法によるものです。横断研究とは、ある一時点の状態をまとめて調べる方法で、どちらが原因でどちらが結果かまでは判断できません。
眠れないから気分が落ちるのか、気分が落ちているから眠れないのか。この解析だけでは明らかにできないところも、押さえておきたいポイントです。

京丹後の元気な人がよく食べていた、睡眠に関連しそうな食材
基本的に、食事による睡眠への影響は少ないと考えるのが妥当です。
ただ、京丹後の調査をしていると、睡眠に関連しそうな食材が見えてきました。
京丹後市の785人の解析で、食べ物のなかで唯一、睡眠の問題が少ないことと関連していたのが食物繊維です。
食物繊維をよく摂っている方には、睡眠の問題が少ない側の関連がみられました。
一方、肉、魚、野菜、乳製品といった食品のグループごとに睡眠との関係を確かめても、はっきりした関連はほとんどみられませんでした。

食物繊維の摂取によるフレイル予防が、快眠につながる可能性も
食べ物のなかで食物繊維だけが睡眠と関連した背景には、フレイルが関係しているとみられます。
食物繊維の摂取量が少ない人ほど、フレイルが多かった
京丹後市のデータでは、フレイルに当てはまる方は食物繊維の摂取量が少ないという結果が出ています。
水溶性食物繊維も、不溶性食物繊維も、どちらも少なめでした。
そしてフレイルは、睡眠の問題とも関連していました。食物繊維とフレイル、フレイルと睡眠、それぞれに関連がみられたということです。
京丹後コホート研究のデータからみえてきたのは、食物繊維がフレイルのケアにつながり、その結果として睡眠が良くなるという可能性です。

酪酸菌が多い人はフレイルの傾向が少なかった
京丹後市の調査では、食事の内容と腸内細菌をあわせて見る解析も進めています。
この解析では、フレイルの割合が最も低い方が野菜や豆、乳製品をよく摂っていて、なおかつ酪酸をつくる菌が腸内に多いことがわかりました。
酪酸は、腸内細菌が食物繊維を分解するときにできる成分で、腸の状態を保つはたらきがあると考えられています。
京丹後の方が摂取している食物繊維の種類
食物繊維と聞くと、野菜を思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、京丹後で調べてみると最も多かったのはきのこ類でした。そして、次に多いのが芋類、豆類、海藻類でした。
一方で、玄米や全粒穀物を食べている方は少なく、主食は白いご飯が中心でした。つまり、京丹後の食物繊維は、汁物や小鉢を少しずつ増やした結果として、摂取量が保たれていたと考えられます。
毎日の食卓に、あと一品だけ小鉢や汁物をプラスする。そんなちょっとした工夫が、無理なく食物繊維の摂取量を増やすためのヒントになるかもしれません。

コラム①|食物繊維入りの飲み物より、いろいろな食材から摂るほうがいい
食物繊維が身体に良いと知られてきた近年、食物繊維入りをうたう飲料や食品が増えました。
ただ、その多くに入っているのは難消化性デキストリンという一種類の成分です。とうもろこしなどのでんぷんから作られる水に溶けるタイプの食物繊維で、これだけで腸内環境が変わると言えるだけのデータはまだ十分ではありません。
食物繊維の摂取を増やすなら、やはり実際の食べ物で摂るのが大事だと考えています。多様な食材を食べることが、腸内細菌の種類の多様性にもつながるからです。
手軽な商品を使うことが悪いわけではありません。ただ、それで一品置き換えるより、汁物にきのこ、小鉢に海藻、といった形で食卓の品数を一つ増やすことも意識してみるといいですね。

コラム②|睡眠の状態が良い傾向の人は「生きがい」を持っていた
京丹後コホート研究では、食物繊維のほかにもうひとつ、睡眠と関連が出た項目があります。
それが「生きがい」を尋ねる質問票の点数です。
生きがいとは、日々の暮らしのなかにやりたいことや自分の役割があると感じられている状態を指します。京丹後の解析では、生きがいの点数が高い方のほうが睡眠の状態が良い傾向でした。
京丹後では、高齢になっても畑仕事や地域の役割を続けている方が多くいらっしゃいます。食べ物の内容だけでなく、こうした日々の張り合いが、心身の健康や睡眠状態を支えているのかもしれません。

まとめ:ぐっすり眠るために、食物繊維をあと一品
健康長寿の里として知られる京丹後市でも、およそ3人に1人に睡眠の問題がみられました。
食事や身体活動が整っていても、睡眠は別の課題として残るということです。
関連が強かったのは気分の落ち込み、フレイル、多くの薬の服用の3つ。食べ物のなかで唯一関連がみえたのは食物繊維で、フレイルを防ぐことを介して睡眠につながる可能性が指摘されています。
京丹後の食卓では、きのこや芋、豆、海藻といった副菜から食物繊維が摂られていました。汁物にきのこ、小鉢に海藻。心地よい睡眠のために、今夜の食事に食物繊維を足すところから始めてみませんか。
この記事でわかったこと
- 京丹後市でも、睡眠の質が良くないとされる人が約3人に1人にみられた
- 気分の落ち込み、フレイル、多くの薬の服用は、それぞれ睡眠の問題と関連していた
- 食物繊維だけが睡眠と弱い関連を示し、フレイル予防を介して睡眠につながる可能性がある
- 京丹後では、きのこ、芋、豆、海藻などの副菜から食物繊維を摂る食習慣がみられた
次回は、脳の健康を守る食べ方のお話
内藤裕二先生には、ブレインヘルス(脳の健康)と食事についても教えていただきました。
海外には、認知機能のケアを目的に考えられた「MIND食」という食事法があります。そして内藤先生は、これを日本の食卓に合わせた「MIND-J プラス食」を提唱しています。
それはどんな食べ方なのか。次回を、どうぞお楽しみに。
監修
関連書籍
▼参考書籍

【書籍情報】
タイトル:健康の土台をつくる 腸内細菌の科学
著者名:内藤 裕二
出版社:日経BP
発売日:2024年08月13日
参考文献
- Towards global healthy longevity: report from the 1st World Longevity Summit in Kyotango, Japan – PubMed
- The Pittsburgh Sleep Quality Index: a new instrument for psychiatric practice and research – PubMed
- Frailty and Diminished Human Relationships Are Associated with Poor Sleep Quality in Japanese Older Adults: A Cross-Sectional Study – PubMed
- 「高齢者におけるポリファーマシー対策の普及啓発資材について」の通知発出について|厚生労働省
- Dietary patterns and gut microbial clusters jointly stratify frailty in community-dwelling older Japanese adults: a cross-sectional study in the Kyotango longevity area – ScienceDirect
- 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書、令和6年国民健康・栄養調査 結果公表|厚生労働省

