夜勤やシフトワークを担う従業員の不調や離職に、頭を悩ませていませんか?
働き方が多様化する今、シフトワーカーの健康管理は、企業の持続的成長を左右する重要なテーマになりつつあります。
そのポイントになるのが「シフト設計」と「睡眠への配慮」です。
そこで本記事では、産業医科大学の丸山崇教授に、現場で実践できる理想的なシフト設計や仮眠・セルフケアの重要性、睡眠の可視化などについて詳しく伺いました。
健康経営を一歩進めるヒントとして、ぜひ最後までご覧ください。
この記事でわかること
- シフトワーカーの健康リスクを軽減する理想的な勤務設計
- 正循環シフトや勤務間インターバルの効果的な組み方
- 職場環境整備が身体負担と離職リスクに与える影響
- 睡眠の可視化や健康診断データの活用方法
- 睡眠セミナー実施の重要性
身体にやさしいシフトを組むには? 産業医が教える「無理のないシフト設計の基本」
産業医として長年現場を見てこられた丸山崇先生に、心身への負担をできるだけ抑えるシフト設計のポイントを教えていただきました。
シフト設計の基本:ポワソネのヘルスワーカー6原則
シフト勤務を設計するうえで、参考になる考え方として「ポワソネのヘルスワーカー6原則」があります。
これは、シフトワーカーの健康への負担をできるだけ減らすために提案されている6つの指針です。
- シフトの順番は「日勤→準夜勤→夜勤」となる正循環がよい
- 勤務の間隔が十分に取れないようなスケジュールは避ける
- 連続勤務は5〜7日までにとどめる
- 夜勤の回数はできるだけ少なくする
- 業務内容や量は、疲労の蓄積や有害物質への曝露が最小限になるように調整する
- 朝の勤務開始時間は、あまり早すぎないようにする
このような配慮をシフト設計に取り入れることで、働く人の身体と心にかかる負担を軽減しやすいと考えられます。
とくに夜勤に従事する方には、仮眠や食事のタイミング、夜勤明けの過ごし方なども含めて、できるだけ身体にやさしい働き方を指導していくことが大切です。
体内リズムにやさしい「正循環シフト」のすすめ
シフト勤務の負担を少しでも軽くするには、「正循環」と呼ばれる順番で勤務時間を組むのがおすすめです。
正循環とは、日勤→準夜勤→夜勤のように、勤務時間を後ろへずらしていくシフトのこと。
この順番が体にやさしいとされるのは、ヒトの「体内時計」が関係しています。
地球の1日の自転周期は24時間ですが、ヒトの体内リズム(概日リズム:サーカディアンリズム)の周期は24時間より長いとされています。
地球の自転周期である24時間よりヒトが持つリズム周期の方が長いため、何もしなければ体内時計は毎日すこしずつ後ろにずれていきます。
そのため、勤務時間帯のシフトが後ろにずれていく「正循環(日勤→準夜勤→夜勤)」のほうが自然で、身体にとって無理が少ないと考えられています。
若い世代に人気の「逆循環」シフト、実は身体に負担大?
逆循環のシフト、つまり「夜勤→準夜勤→日勤」といった順番で働くスタイルは、勤務と勤務の間に長めの休みが取れることもあり、一見すると自由な時間を取りやすいというメリットがあります。
とくに若手の従業員にとっては“ありがたいシフト”と感じられることも少なくありません。
職場によっては、従業員の希望を取り入れる中で気づいたら逆循環になっていた、というケースもあります。
人事的な配慮の結果、無意識のうちに身体的負担が大きい勤務体制になっているということもあるようです。
しかし、逆循環のシフトは身体にとっては負担になりやすいため注意が必要です。
体内時計のリズムに逆らう形になるため、睡眠の質が落ちたり、疲労が抜けにくくなったりすることもあります。
夜勤は2日までに。連続勤務を避けて疲労を軽減
夜勤が続くと、どうしても身体への負担が大きくなってしまいます。
できるだけ連続勤務は避け、「夜勤は2日連続までにとどめる」ことが理想です。
これまでの研究からは、夜勤2日目までは集中力や注意力がある程度保たれ、ミスも少ない傾向があることがわかっています。
その一方で、夜勤が3日目以降になると、急激に覚醒度が下がり、疲労や判断ミスのリスクが高まるとされています。
そのため、夜勤を2日続けたらその後は休息日を入れるなど、無理のないシフト設計を心がけてみましょう。

勤務と勤務の間には「11時間以上」の休息を
勤務と勤務の間には、しっかりと時間を空けることが大切です。
これを「勤務間インターバル」といい、一般的には11時間以上空けることが望ましいとされています。
かつては、日勤を終えたその日の夜に、すぐ夜勤に入るようなケースも見られました。
たとえば、夕方5時に日勤が終わり、深夜0時に夜勤が始まるとすると、間はたったの7時間ほど。移動や食事、入浴などを考えると、まとまった休息はとれません。
こうした短い間隔での連続勤務は、疲労が蓄積しやすく、健康への影響が懸念されます。
勤務と勤務の間には、十分な休息時間を設けること。これが働く人の心と身体を守る、基本的な工夫のひとつです。シフトを組む側にとっても、大切な配慮といえるでしょう。
2交替制と3交替制、選ぶポイントは“相性”
2交替制と3交替制には、それぞれメリットとデメリットがあります。
2交替制は、1日を大きく2つの勤務時間帯に分けて、日勤と夜勤を交替で行うスタイルです。
1回の勤務時間が12時間以上になり、長いため身体への負担は大きくなりますが、職種によっては勤務中に仮眠が取れる場合もあり、その分、少し楽に感じられることもあります。
また、2交替制は通勤の回数が減るという点も特徴です。勤務日数が少なくなることで、休みがまとめて取りやすくなります。
長時間働く代わりに、職場に行く回数を減らせるという点が好まれる理由の一つです。そのため、体力のある若い方を中心に人気が高い傾向があります。
一方、3交替制は勤務が8時間単位となるため、1回の勤務時間は短くなります。しかし、出勤回数が増えるため、通勤や生活リズムの調整に難しさを感じる方もいるかもしれません。
どちらのシフトも一長一短があるため、年齢や体力、職種の特性に合わせて、無理のない働き方を選ぶことが大切です。自身に合った勤務スタイルを見つけることで、心身の健康を保ちながら、無理なく長く働けるようになります。

働きやすさはシフトだけじゃない。職場環境の工夫を
シフト勤務が合うかどうかは、勤務形態そのものだけでなく、職場環境にも大きく左右されます。
たとえば、同じ2交替制でも、勤務中にしっかり仮眠が取れる職場と、そうでない職場とでは、身体への負担は大きく異なります。
勤務のスタイルだけで良し悪しを決めるのではなく、実際の職場環境や休息のとりやすさにも目を向けることが大切です。働く人が少しでも快適に過ごせるような環境づくりが、健康的なシフト勤務には欠かせません。
横になれる休憩スペースが、疲労回復のカギに
長時間勤務が続く職場では、「休憩の質」もとても大切です。
中でも、横になって休めるようなスペースがあるかどうかが、シフトワーカーの疲労回復に大きく影響します。
たとえば、運転手など仮眠が必須の職業では、しっかりと横になれる仮眠室が準備されるなど、休憩環境が整っているところも多いです。
一方で、工場のように衛生面や安全面の事情で横になることが難しい職場では、どうしても横になれる仮眠スペースが作れず、休憩の質が下がってしまう場合もあります。
ほんの少しでも横になれるスペースがあると、心身の回復度が格段に上がります。無理を重ねないためにも、働く環境に加え、休憩環境の整備はとても重要です。
業務が多い現場ほど「短時間シフト制」が有効
業務量や業務負荷が多く、忙しさが続く職場では、1回の勤務時間が長くなると心身への負担が大きくなりがちです。
そういった場合には、3交替制のように勤務時間を短く区切って回していくほうが、負担が少ないとされています。
たとえば医療現場では、病棟によって忙しさが異なるため、2交替制と3交替制を病棟ごとに分けて運用しているケースもあります。
このように、全社一律ではなく、それぞれの現場に応じた勤務形態を取り入れることが、働く人の健康を守るうえでも大切です。柔軟な対応が、結果的に長く安心して働ける環境づくりにつながっていきます。

シフトワークにおける仮眠の重要性を理解しよう
長時間勤務や夜勤が続く職場では、集中力や判断力を維持するために「仮眠」の取り方が重要です。ただの休憩ではなく、戦略的に取り入れることで、健康管理と生産性を両立しやすくなります。
勤務中の仮眠を“休憩”ではなく“戦略”に
シフト勤務による身体の負担を軽減するために、とくに重要なのが「仮眠」です。
夜勤中の休憩時間、スマートフォンや動画などを見て過ごしてしまう方も少なくありません。しかし、本来ならば、少しでも身体と脳を休めることに使ってほしい時間です。
たとえ短時間であっても、横になって目を閉じ、身体を休めるだけで疲労感は軽減されます。
仮眠には、眠気を抑えるだけでなく、集中力の回復や判断力の向上といった効果もあるとされています。
勤務中の仮眠を推奨し、環境を整えることは、従業員の健康を守るだけでなく、業務の安全性や生産性の向上にもつながります。管理者が積極的に仮眠を推奨することで、シフトワーカーの安心感や信頼にもつながっていくはずです。
▼シフトワーカーが休憩中にできるセルフケア

「最高の覚醒」を軸にして、睡眠と生産性向上を考える
ここまで睡眠に注目してきましたが、実際には睡眠そのものよりも「いかに覚醒し、パフォーマンスよく働いてもらうか」に注目することが重要です。
「最高の覚醒」を軸にした健康経営の推進は、シフトワーカーの健康改善やエンゲージメントの向上を後押しし、最終的には企業の生産性と利益向上にもつながると考えられます。
そこで、ここからは「最高の覚醒」を得るための具体的な方法を紹介します。
最高の覚醒を導く習慣は「早起き→早寝」の順番
健康のために「早寝・早起き」を意識している方が多く見られます。
特に、子供への教育として「早寝・早起き」が指導されてきました。
しかし実際には、「早起き→早寝」の順番のほうが理にかなっています。
なぜなら、少し無理してでも朝早く起床し、活動する時間を確保することで、次の睡眠時に自然な眠気が訪れやすくなるからです。
前日の就寝時間が遅いからと言って、昼頃までダラダラと寝てしまうと、睡眠覚醒のリズムが後ろにズレてしまい、夜の眠気のタイミングも遅くなります。
また、夜勤明けの日中に眠れない場合は、無理に寝ようとせず、眠気が出た場合に仮眠をとる程度にしてみましょう。日中は活動して、夕方以降にしっかりと眠る方が、生体リズムの乱れが少なく、深い睡眠が取れると言われています。
まずは「起床と日中の過ごし方」に目を向けることが効果的です。そうすることで自然な入眠に繋がり、翌日の「最高の覚醒」が得られるでしょう。
無理に眠らなくてもいい。“眠気”を合図にリズムを整える支援を
シフトワーカーの睡眠課題に対応する際、「眠れないこと」自体を問題視しすぎない姿勢も重要です。
眠気がない状態で無理に眠ろうとすると、かえって脳が活性化し、寝つきにくくなることがあります。どうしても眠れないときは、諦めて布団から出て、次に眠くなるまでリラックスして過ごすのがおすすめです。
一方、強い眠気があるときには、たとえ業務が残っていたとしても睡眠を優先させる判断が求められます。適切なタイミングで「回復の時間」を確保することが、翌日の集中力や判断力を保ち、生産性の向上につながるからです。
「よく眠ること」よりも、「よく起きられる状態」をいかにつくるか。従業員が「最高の覚醒」を得られるよう、これからの管理者は常に柔軟なサポートが求められます。

睡眠の可視化を推進し、健康意識の向上につなげる
睡眠が大事なことは分かっていても、日々の忙しさの中で、自分がどのくらい眠れているかを意識するのは、なかなか難しいもの。
そんなときに役立つのが、睡眠日誌やウェアラブルデバイスを活用した「睡眠と生体リズムの可視化」です。
睡眠日誌は、眠った時間や起きた時間、途中で目が覚めたかどうか、眠りの深さの実感などを手書きやアプリで記録していく方法です。毎日の記録を続けることで、自分の睡眠パターンやリズムの乱れに気づきやすくなり、生活習慣を見直すヒントにもつながります。
一方、ウェアラブルデバイスは、スマートウォッチやスマートリングのような装着型の機器で、睡眠時間や心拍数、寝返りの回数などを自動で計測してくれるアイテム。アプリで簡単に確認できるため、忙しい方でも無理なく睡眠状態をチェックできます。
こうした可視化の取り組みは、個人だけでなく企業全体で取り入れる動きも見られます。
たとえば、社員にスマートウォッチを配布し、睡眠への意識を高めるよう促している企業もあります。会社全体の取り組みとして、無理のない範囲で「睡眠の見える化」を進めていくのも効果的な方法といえるでしょう。

健康診断データの見方と“セルフチェック”文化の育成
夜勤を伴うシフトワーカーは年に2回の健康診断が義務付けられています。
この貴重な機会を活かすためには、健診結果をABCなどの「判定記号」だけでなく、過去との数値を比較してチェックすることが大切です。
健診の結果を見るときには、前年との比較をして「数値が少しずつ上がっていないか」「変化が出ていないか」を確認しましょう。
実際に、夜勤を行っているシフトワーカーの方で、疲労感が強くシフト勤務を辞めようと考えていた方が、健康診断で貧血傾向に気づき、適切に治療を行ったことで、シフト勤務にうまく適応できるようになったケースもあります。
また、交替勤務は乳がんや前立腺がんなどのリスクが上がるともいわれています。こうした病気の早期発見のために、健康診断とは別にがん検診の受診を促すことも重要です。
健康診断を義務で終わらせず、従業員が自身の健康と向き合えるようにするために。数値の変化に気づきやすい工夫や声がけを通じて、健康診断を「気づきの機会」に変えていきましょう。

シフトワーカーの健康増進のために、睡眠セミナーを実施してみよう
こうした取り組みを現場で広げていくには、従業員への啓発活動も欠かせません。
なかでも、効果的な手段のひとつが「睡眠セミナー」です。
セミナーでは、まず睡眠の知識を正しく伝えることが基本。次に、その知識を“自分ごと”として落とし込み、実際の生活行動に生かす具体的な方法を伝えることが重要です。
たとえば、シフトワーク中心の従業員と、固定制勤務の従業員とでは、抱えている睡眠課題も関心の持ち方も異なります。
受講者にとって“自分ごと”になる研修を届けるには、講師と事前に十分な打ち合わせを行い、企業や部署ごとの背景や課題に合わせた内容を設計することが大切です。
また、専門家から直接話を聞くことは、従業員の意識を変えるきっかけにもなります。
<ご紹介>
丸山先生はこれまで、企業の健康経営支援を目的とした多数のセミナーに登壇した実績を持ち、シフトワーカーの健康や睡眠衛生指導をテーマに実践的な指導を行っています。
- 2015年頃:医療機関のスタッフ向けに「医療従事者の睡眠と健康維持」について講演
- 2018年頃:教育機関の教職員を対象に「教職員の睡眠管理とストレス対策」に関するセミナーを実施
- 2020年頃:金融業界の社員向けに「メンタルヘルスと睡眠の関係性」に関する講演を行う
- 2023年頃:製造業の若手社員を対象に「若年層の睡眠習慣と生産性向上」についてセミナーを開催
丸山先生へのご依頼の他、睡眠養生を運営する310LIFEでも、女性の健康などと睡眠研修を行っております。詳細は以下のリンクをご参照ください。
▶ 310LIFE 睡眠セミナー
丸山先生へのご依頼も、上記お問い合わせフォーマットから「丸山崇先生の睡眠研修 希望」とお問い合わせください。
まとめ:睡眠と働き方の最適化が、組織の力を引き出す
健康経営を進めるうえで、シフトワーカーの睡眠と働き方に配慮することは欠かせません。
無理のないシフト設計や休息環境の整備は、従業員の健康を守るだけでなく、職場の生産性や定着率にも大きく影響します。
「覚醒」の質を高める視点や、睡眠の可視化、セルフケアの支援など、できることから少しずつ取り入れていくことが重要です。
いまできる最善のサポートは何か――従業員の健康を支える仕組みづくりを、今こそ動き出してみてください。
この記事でわかったこと
- 正しいシフト設計は覚醒度と生産性の向上につながる
- 無理のない勤務と休憩環境は心身の安定に直結する
- “眠れる環境”を整えることで事故・ミスを防げる
- 健康診断データは「変化」と「傾向」で見るべき
- 睡眠に関する啓蒙や働き方への配慮が、職場の定着率を高める鍵になる
監修:丸山 崇
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です。(商標登録:第6821898号)









