「従業員の睡眠」という“見えにくい課題”に向き合い、社員の活力と生産性を支える仕組みを構築してきた、株式会社ディー・エヌ・エー (以下、DeNA)。
DeNAといえば、いち早くCHO(Chief Health Officer)室体制を構築。経営層から「健康経営」を率先して訴求し、さまざまな健康施策で従業員を巻き込んでいる事例もとても有名ですよね。
まさに健康経営のモデル企業として、特にエンジニアやデスクワーカーを多く抱える企業では、DeNAの活動をウォッチしている方も多いことでしょう。
さとちゃんそこで今回は、DeNA CHO室にて健康経営をリードするお二方、副室長 植田くるみさんと菊池有希子さんに、直接取材!
様々な活動を実践するDeNAの健康経営活動の中でも「睡眠」に着目して、具体事例や今後の展望について、睡眠養生 編集長の大木都が伺いました。


写真:(中央)植田さん、(右)菊池さん
DeNAでは、CHO室立ち上げ前から社内の健康状態アンケートを蓄積していました。さらに健康診断データをあわせた分析から、社員の約半数が「睡眠に悩みを抱えている」という実態にいち早く着目して対策を続けてきたそうです。
睡眠の取り組み事例も幅広く、睡眠データの可視化やセミナー、カウンセリング、オンライン診療の連携といった、先進的な取り組みを各種実施された経験をお持ちです。
これにより、社員の行動や意識にも変化が生まれ、さらに、睡眠という個人の課題を入り口に、組織のコミュニケーションやエンゲージメント向上へとつなげる。まさに、 “ウェルビーイング経営” の実現にも踏み出している、DeNA CHO室の状況を伺っていきます!



実は私、過去3回ほど睡眠セミナーを担当し、睡眠研修企画をプラニングし&実践をご一緒したご縁があるんです。そこで今回は、社員の睡眠改善に悩む企業の皆様に代わって、ぐいっと先進的な取り組みの具体に踏み込んでアレコレと聞いてまいりました!
健康経営の立ち上げと睡眠への着目:見えない課題への挑戦
DeNAの健康経営は2016年に始動しました。今でこそモデルケースとも注目される同社であっても、現在までの道のりは決して平坦ではありませんでした。
立ち上げ時は、具体的な課題を探りながらの手探りの試行錯誤を繰り返したといいます。
DeNAの健康経営をけん引する「CHO(Chief Health Officer)室」
大木:まずは、御社の健康経営を支えるCHO(Chief Health Officer)室について教えてください。どのような経緯で誕生した部署なのでしょうか。
植田さん:2016年1月、社員のウェルビーイングを専門に推進する「CHO室」が立ち上がりました。当初は専任1名と兼務1名、合わせて1.5名体制。本当にゼロからのスタートだったんです。
兼務していたのは若手男性でしたが、女性や年齢などダイバーシティの視点も重要であるという観点からヘルスケア事業部の子会社で培った経験を活かす形で、私も2017年にCHO室へ参画したという流れです。
菊池さん:私は編集・クリエイティブ出身で、2018年に社内報をきっかけにCHO室と関わり始めました。今は本格的にCHO室にジョインし、コミュニケーション設計やクリエイティブ制作を中心に担当しています。
大木:現在は、どれくらいの規模になっているのでしょうか?
植田さん:今でも、少数精鋭で回しています。CHO兼室長は元厚生労働省医系技官出身の三宅邦明で、私は昨年から副室長。ほかにメディア領域を担当するメンバーなど数名がジョインしてくれています。


最初は手探りで、さまざまなテーマのセミナーを100本近く開催していた
大木:CHO室が発足したばかりの頃は、まず何から着手されたのでしょうか?
植田さん:正直に言うと、社員の健康課題が“どこにあるのか”すら分かりませんでした。
そこで手当たり次第に試すしかないと考え、設立当初は腰痛・食事・メンタルなどテーマを変えながら年間で約100本のセミナーを開催していたんです。
ゴムバンド体操や姿勢改善ワークショップ、食事系では社内販売の健康サラダデーなど、本当に何でもやって反応を測りました。


ライフスタイルアンケートの結果と、健康診断データから読み取れる「主観と客観のズレ」
菊池さん:その「試すフェーズ」を経た後、全社員対象のライフスタイルアンケートを毎年実施するようになりました。まずはアンケートで、健康に関する「主観」のデータを集めました。
それからしばらくして、健康診断のデータも集計できるようになりました。そこで改めて、健康に対する「主観」と「客観」のズレが浮き彫りになり、向き合うべき課題が明確になったように思います。
植田さん:アンケート結果、つまり主観だけでは把握しきれない課題が、客観的な健診データを組み合わせることで浮き彫りになるケースもありました。
たとえば健診データには「十分に休養が取れているか」という設問があります。健診では、約6割以上の方が「休養は取れている」と回答していました。
一方で、毎年およそ5割の社員が「睡眠に悩みがある」と回答しているんです。この主観と客観のズレこそ、私たちが注目すべきポイントだと感じています。




CHO室で合宿を開催し、今のホットな施策を考案する
大木:そうしたデータは、どのようにして健康経営の施策に落とし込まれていくのですか?
菊池さん:毎年、新年度が始まる前にCHO室メンバーで “合宿” と言っているロングミーティングを開きます。昼は数字とにらめっこしながら重点テーマを決めます。そして夜には、飲みながら「次はこんなこと、やってみようか!」とフラットに語り合いながら、楽しくなるようなアイデアまで拡げています。
大木:網羅的に試し、アンケートを実施して評価を確認、これらのデータで裏付けをとりつつ、毎年の合宿でブラッシュアップする――その積み重ねから、睡眠施策にまでつながってきているわけですね。
植田さん:はい。「社員一人ひとりのDeNA流ウェルビーイング実現」が私たちのミッションです。大木さんにセミナーしていただいた「睡眠」というテーマは、その中でも重要なピースだと考えています。
先進施策を重ねた末にたどり着いた“睡眠こそ最大の投資”
健康経営を掲げ、なんと年間100件ものプログラムを走らせてきたDeNA。
食事や運動、メンタルケアと試行錯誤するなかで浮き彫りになったのが「睡眠が整わなければ社員のパフォーマンスは頭打ちになる」という事実でした。
そこでCHO(Chief Health Officer)室は、睡眠施策へ舵を切り、社員自らが質の高い眠りを追求する文化を築き上げています。
最初はポスターを貼って睡眠に関する啓発を行っていた
菊池さん:睡眠改善に取り組み始めた当初は、セミナーの開催に加えて社内のあちこちに手作りの啓発ポスターを貼るという、地道な活動からスタートしました。


「ブルーライトは寝る1時間前にカット」「15分のパワーナップがおすすめ」といった睡眠の豆知識を“知ってもらう”ことから始めたんです。
すると、知識を吸収したらすぐ行動に移す社員が多いので、睡眠に対する意識がどんどん変わっていきました。


大木都が実施した「Fitbitを活用した睡眠セミナー」が、睡眠への関心を後押し
植田さん:一番最初に大木さんにお願いをした「Fitbitを活用した睡眠セミナー」も、社員が睡眠に対して関心を高める流れを後押ししたように思います。
睡眠の啓発によってウェアラブルデバイスを使う社員が増えたものの、データを“眺めるだけ”で終わる人が多かった。
そこでスコアの読み解きと改善アクションをセットにセミナーしたことで、実際の行動変容につながった方が多いように思います。社員に大ヒットでした。
大木:初回はコロナ前でしたよね!リアル対面セミナーを活かして、実際にデバイスを触ってもらって、スマートウォッチで何が見えるのか、改善に役立てることができるのか、をお話ししましたよね。
その後、社員アンケート調査の5割に「睡眠に関する悩みがある」との回答結果を受け、さらなる研修を実施する際には、リモートワーク向けの睡眠の質を高める研修を相談しました。



この回では「第1回 基礎研修:睡眠を制して生産性を高める「朝方夜型診断付き」パフォーマンスUP睡眠セミナー」x「第2回 応用編:データを読み解いて睡眠の質を高めるデバイス活用術」と2ヶ月続けてのセミナー構成を相談して作り、講師を担当させていただきました。


出典:データで見るDeNAの健康&取り組み事例紹介2023−2024年度



レポートにもありますが、「本日から実践したいと思った事はありましたか?」に対して「97.7%があった」と行動変容を確認できています。(私が言うのもなんですが…すごい成果です!)
従業員課題を戦略的に整理してセミナー内容に活かしたこと、このCHO室の解析&経験がもたらした、素晴らしい成果だと思います。
従業員の行動変容に悩む企業様に注目していただきたい、成功事例ではないでしょうか!
睡眠の質を高める=コスパが良い、という事実に気づいた社員の変化
大木:直近では働く方の睡眠への意識も、変わってきていると感じています。特に「睡眠を改善するとパフォーマンスが上がる」という点は、注目度が高いと思います。
御社では睡眠改善施策を導入してから、社員のみなさまの反応にはどんな変化がありましたか?
菊池さん:はい、当社は “コスパ” や “タイパ” を気にする社員が多いので、睡眠に対してもコスパの視点を持つようになりました。
今では、枕やアロマ、BGMまで研究して「いかに質のいい睡眠をとり、日中のパフォーマンスを効率よく高めるか」に貪欲に取り組んでいる社員もいるようです。
IT企業だからこそ、睡眠への関心が高いという面も
大木:私が多くの企業でセミナーを実施していると、職種によって睡眠改善意識への温度差があると感じているんです。
例えば、エンジニア職の方は、眠気が強いとプログラムのミスも明確に増え、仕事のパフォーマンスが露骨に下がることを痛感することが多く、睡眠課題への感度が高い印象です。
一方で、営業職は “喋って終えてしまえば、どうにかなる” ケースも多いし、会食などでの付き合いも多く夜も遅い。あまり眠気を気にしない傾向があるように思います。
菊池さん:それはありそうですね。また、リモートワークで通勤がなくなり体は疲れない分、頭が冴えたままオフに切り替わらない社員も多いと聞きます。
目の疲労と合わせて「睡眠の質が落ちた」と自覚する人が男女問わず増えたように思います。
これからも、睡眠の面から社員の健康を支えていくことは、私たちの大きな課題です。


ウェルネスワーケーションが生んだ新しい社内コミュニティ
DeNAの健康経営は、睡眠だけでなく、コミュニケーションの活性化にも積極的に取り組んでいます。
リモートワークが推進される中で浮き彫りになった、孤独化という課題
菊池さん:最近は、睡眠の取り組み以外に、コミュニケーションの活性化にも力を入れています。
感染症拡大を機にリモートワークが長期化し、コミュニケーション不足や孤独感が顕在化しました。孤独感は心身の健康に悪影響を及ぼすといわれるため、リモート勤務が多い当社では現在も重要な課題です。
植田さん:最初は運動不足などフィジカル面への対策が中心でしたが、次第に孤独感からくるメンタルダウンや、社員同士の繋がりの希薄化が顕著になりました。
そこで2023年度から始めたのが「ウェルネスワーケーション」です。


出典:データで見るDeNAの健康&取り組み事例紹介2023−2024年度
社員同士の健康的な旅行なら、旅費を補助する「セルフワーケーション」
大木:具体的にはどんな仕組みなのでしょうか?
菊池さん:大きく2本柱です。ひとつは「セルフワーケーション」。同僚2人以上で1泊以上、ハイキングやヨガなど“ウェルネス要素”を含む旅を企画すれば、会社が宿泊費を補助します。
帰ってきたら、Slackの全社チャンネルで写真とレポートを共有してもらう仕掛けにしました。
植田さん:初年度は「会社が旅行代を出してくれる!」と盛り上がる程度でしたが、3年目の今は「今年は誰とどこに行く?」と社員発信で計画が立ち上がるほど定着しました。
補助は1人1回までなのに、楽しかったからと自費で2回目を企画する人まで出てきています。
ツアー型プログラムで拠点を越えた交流を実現
大木:すごい熱量ですね。もうひとつの「ツアー型」は?
菊池さん:CHO(Chief Health Officer)室が“添乗員”になって20人弱を引率する、本格的なツアープログラムです。昨年は福島の猪苗代湖、その前は山梨の富士吉田&高尾山に行きました。
古民家を丸ごと借り、Wi-Fi完備のワークスペースで日中は業務、早朝は富士山を望むヨガ、夜は地元食材でBBQ――という具合に、仕事とウェルネス体験を融合させたんです。
植田さん:実は猪苗代湖ツアーは、福島在住の社員が地元窓口を担い、現地交渉を一手に引き受けてくれたんです。
そのおかげで私たちはプログラム設計に集中できました。また、普段接点の少ない拠点同士や東京勤務メンバーとの幅広い交流も生まれました。
大木:素晴らしいですね。現地メンバーにより地方連携&近隣エリアメンバーを集めて東京メンバーとのコミュニケーションが自主的に生まれるとは!
まさに地方滞在型ワーケーションの理想形ですね。
波及する行きたい熱と高まるエンゲージメント
大木:ウェルネスワーケーションを実施して、結果はいかがでしたか。
菊池さん:「普段関わらない部署の仕事を理解できた」「帰ってから仕事がしやすくなった」という声が多数で、リピーター比率も高いです。
Slackに投稿される写真がさらに“行きたい熱”を拡散し、毎年予算枠が埋まるスピードが加速しています。
大木:まさに社員が自発的にウェルネスの推進役になっているわけですね。
植田さん:はい。健康面だけでなく、エンゲージメント指標でもプラスの変化が出ていて、とても効果的な施策になっているように感じます。
健康経営における、今後の展望
大木:最後に、2025年に向けた健康経営のテーマやチャレンジがあれば教えてください。
植田さん:まず「睡眠領域」では、今年実施した睡眠セミナー+SAS簡易検査+オンライン診療+会社補助 のような“課題特定から解決までフルサポート”型プログラムを本格展開したいです。
知識のアップデートから医療連携を一気通貫で提供するのは初の試みなので、今年はここに力を入れたいですね。
菊池さん:並行して「最新デバイスやエビデンスを常にキャッチアップし、良いものは即導入する」姿勢を持ち続けていたいです。
そして、睡眠に限らず、運動やメンタルなど、各領域で“少人数コミュニティ”を作り、同じ課題を持つメンバーが伴走し合う仕組みも強化したいと考えています。
大木:テーマ別コミュニティで成功事例が出てくると、さらに横展開して課題ごとに巻き込みやすくなりそうですね。
菊池さん:まさにそれを狙っています。モデルケースが生まれれば自然と波及するのではないか、と思っています。
植田さん:当社ではAIの活用を推進しているので、「AI × ヘルスケア」も関心が高いテーマです。
これまで蓄積してきたデータとAIを掛け合わせ、パーソナライズドコーチングや行動予測にチャレンジ中です。たとえば睡眠スコアやチャット履歴を学習したAIが、本人に合う改善策をリアルタイムで提案してくれる――そんな世界を実現したいですね。
菊池さん:他社が追随できない領域を切り拓くつもりで、コミュニティ×AIの実証実験を進めています。2025年度は“テクノロジーでウェルビーイングをブーストする年”にしたいです!
大木:社員一人ひとりのデータとテクノロジーを味方に、DeNAの健康経営フェーズがまた一段上がりそうですね。今日はお忙しい中、展望までたっぷりお聞かせいただきありがとうございました。


まとめ:睡眠セミナーは健康経営を加速させる最短ルート
健康経営はフィジカルや栄養面から取り組むケースが多いです。しかし、栄養は嗜好性がある中でコントロールが必要、さらに運動は苦手でも頑張る必要があります。個人差が有る中で、全社的な活動効率を高めるには課題が多い分野です。
対して睡眠は、嗜好性に関係なく、誰もが過ごす時間です。その同じ時間を、より健やかに快眠できるようになれば、従業員一人ひとりのパフォーマンス・企業の生産性を高める健康経営の基礎です。
そして注目すべきポイントは「従業員が楽しみながら活動に参加してくれる」、という点です。
食事や運動の改善には「我慢」を伴いますが、睡眠の改善は基本的に「気持ち良いこと」。誰もが取り組みやすく、少しでも睡眠によるパフォーマンス向上が実感できれば、その感覚をモチベーションに健康意識をより高め、快楽を継続しようと意識し続けてくれます。
今回のお話を通し、DeNAが続けている健康経営の取り組みは「Smile」から始まっているところも、注目ポイントだと感じました。





笑顔が広がる健康の取り組みのために「社員と向き合う」からこそ、健康活動を継続的に楽しみながら続けられる施策設計が生まれる。
そして、それらを実施するだけの「やりっぱなし」ではなく、データドリブンで効果をモニタリング&合宿で検証もする。
その結果データを通じて、社内外へ発信することでブランド力をも高めながら、「健康が当たり前の社会の実現」にむけて活動を続けている。
DeNA CHO(Chief Health Officer)室のとても素晴らしい活動ですよね、深いお話をありがとうございました!!
取材
*「睡眠養生」は株式会社310LIFE(サトライフ)の商標登録です










